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王太子の後宮

評価・ブクマ・いいね、してくださり嬉しいです。

ありがとうございます!

今回は、説明が長めです(^_^;)



 エーヴェルト王国は大陸の西の端に位置していて周囲を海に囲まれている。接している国は東にあるモントクレイユのみ。そのモントクレイユ国とはずっと敵対していた。何十年も前には王家同士の婚姻があったが長らく途絶えている。

 そのため長い間、国内の貴族令嬢が王家に嫁ぎ王妃となっていた。異国の王女が王太子妃となったのは、実に一世紀振りだ。


 エーヴェルトの王族は一夫多妻が許されている。現王には三人の王子がいた。王妃との間に生まれた第一王子のルーファス。妾妃との間に出来た子が、第二王子のアルベルトと第三王子のエリック。

 アルベルトとエリックはスペアにしか過ぎず、第一王子のルーファスとの立場には大きな差があった。だが、第一王子のルーファスが三年前に流行り病で亡くなってしまった。そのため、アルベルトが王太子になった。


 アルベルトは小さい頃から剣の筋がよく騎士団の団長に見込まれた。騎士団の稽古や訓練に参加して腕を磨いてきた。成長するとそのまま騎士団へ入り、王宮で過ごすことは少なかった。騎士になるとアルベルトは目まぐるしい活躍を遂げた。アルベルトはこのまま騎士として生きるのだと思っていた。

 王太子として表舞台に出る前には騎士団の指揮を執っていた。その手腕は確かで、常に冷静で時には冷酷なことも容易くやってのけた。勿論、表面上では穏やかな笑みを絶やさない人当たりの良い紳士だ。


 王太子となったアルベルトは、あっという間に自分の体制を敷いた。一国の王の後継者としての素質を、周りから十分に認められている。フェリシアとの結婚もあり、アルベルトが王位を継ぐのが確実視されている。

 だが、腹違いのエリックの存在は全く無視できるものではない。現に貴族たちはどちらにつくのが有利であるか、常に王宮内のパワーバランスに目を光らせていて、いつも精力的に情報収集を行っている。



◇◇◇


 王宮にいる妾女たちは、後宮の中にある屋敷を数人で分け合っていて、それぞれの部屋を与えられている。王太子との婚姻関係はない。妾妃に娶られると一軒の屋敷を与えられる。 

 後宮には王太子の御寝所が整っていて、召された妾女はそちらの御寝所で寵愛を受ける。正妃であるフェリシアは、正殿に一番近い場所にある王太子殿に住んでいる。


 正殿と後宮とを結ぶ廊下は、幾重にも折れ曲がって庭の中を巡っている。

 

 アルベルトは人気のない暗い回廊を通って御寝所に続く門をくぐった。ギィィ ーと扉が閉まる音だけが闇に響いた。燭台の火に照らされた屋内は、明るい正殿とはまるで違う木質の寂しい色をしている。御寝所に着き燭台に火をともすと、暖かな橙色の光が部屋を満たした。


 

 アルベルトは、御寝所に入ってきた女を手招きすると、室内のソファに座るように促した。女はアルベルトの隣に座ると、惚けた表情でアルベルトにしなだれかかった。アルベルトは穏やかな笑みを浮かべながら、用意した催淫剤の入ったお茶を女に差し出した。


「どうぞ、君のために特別に用意した美味しいお茶だよ。」

「殿下、ありがとうございます。」

「最近は何か変わったことはあった?」

「そうですね。そういえばついこの間、ハーリング公爵家に父が呼ばれましたわ。」


 お茶を飲みながら、情報を引き出すための会話を始める。 


 ふと会話が途切れると、少し伏し目がちに目を細めて女を見つめる。アルベルトは、女の頬に張りついた髪を指でのけながら、ふっと軽やかに笑った。何ともいえない色気が漂う。二人の間の空気が微妙に変化すると、女は頬を紅潮させた。


 ごく自然な動きで、アルベルトは女の頬に大きな手をすっと伸ばした。女に顔を近づけて瞳の中を覗きこむ。そっと手をとると、部屋の奥にある寝台まで女を運んだ。女の羽織っていた白いガウンが床に落ちた。

 アルベルトは甘い言葉を囁きながら、さらなる情報を引き出していった。

 

ジジジッ―――燭台のろうそくから煙が一筋ゆるやかに立った。


 夜の気配が色濃くなった部屋の中は、月光が翳り薄暗さを増した。アルベルトは寝台の上で上体を起こして、ぐっすりと眠っている女の顔を見る。女の汗ばんだ額や濡れた髪がはりついた首筋からは、ねっとりした色香が漂っている。


 アルベルトは白けた瞳で女を一瞥すると、そっと寝台から降りた。床に落ちていた衣類を纏って部屋を出ると、廊下の影から音もなく近衛が現れた。正殿へ通じる分厚い扉をアルベルトに気付いた騎士が素早く開ける。そのまま、まっすぐ続く長い廊下を通り、執務室に入った。



◇◇◇


 アルベルトはここ最近、王宮での不穏な動きを感知していた。ある妾女の侍女が王太子妃付きのメイドと共謀して王宮内の情報を外に漏らしていた。大した情報は漏れてないようだが、何の意図でそんなことをしているのか、誰が手を引いているのかが掴めなかった。

 侍女が仕えている妾女も絡んでいることは、先ほど閨で問い詰めて白状させた。だが、黒幕はわからなかった。 



 広々とした執務室の中は燭台の明かりが煌々と灯っていた。扉の左側にソファが二つ、ローテーブルを挟んで置いてある。一人の男が手前のソファに腰掛けアルベルトを待っていた。男の正面にアルベルトは腰を下ろした。


「それで、どうでしたか?」

「例の件に絡んでいることは確かだ。でも詳しいことは知らされていないようだ。しばらく好きにさせて、どんな動きをするか様子を見る。」

「そうですか。」


 男の名はロイド、アルベルトの側近だ。


 ロイドはいつも淡々としている。アルベルトが騎士団にいた頃、副団長としてアルベルトの下で働いていた。有能で信頼のおける部下だったので、王太子になり側近として登用した。二人はずっと部下と上司の関係ではあったが、長い付き合いでお互いに気心が知れている。


「侍女の方はどうだ?」

「監視はつけておりますが、共謀していたメイドとは今のところ接触していません。」

「そうか。何か尻尾をだしてくれればいいけどな。」

「そのメイドはどうなさるのですか?」

「しばらく泳がせるが…」

「このまま妃殿下の近くに置いておくのは危険では?」

「まあ、監視は付けているから大丈夫だろう。」

「そうですか……それで外での動きはどうです?」

「それはレオンが調べている。メイドが情報を漏らしていたのはエルデーリ伯爵家だが、領地も大したことはないし、特に有力な貴族ともつながっていない。」

「エルデーリ伯爵家は重要な職についているわけでもありませんね。一体、何の得があってそんなことをしているのか……」

「裏でどこかとつながっているとしか思えない。それをレオンに調べさせている。」


 レオンはアルベルトのもう一人の側近、侯爵家の三男でアルベルトの幼馴染だ。


「やはり、エリック王子の母君では……」

「今でもエリックとその母君、それにエリックについているわずかな貴族はずっと監視している。動けるはずがないし、そんな力もないだろう。―――やはりわからんな。ロイドは引き続き、王宮内の監視を続けてくれ。」

「わかりました。」


 ロイドは涼しい顔で答えた。


「その妾女は、たしか子爵家の娘でしたね?」

「ああ、陶器造りで成功した裕福な家だ。昇爵をしたがっていて、娘を後宮に入れたいと打診があった。」

「娘を後宮に入れても昇爵は難しいでしょう。せめて妾妃にでもならないと。今、後宮にはたくさんの妾女がいて、そこから選ばれるのは至難の業です。その娘はよっぽど上玉なのですか?」

「いや、外見も閨でもいたって普通だ。だから、怪しいと思って後宮に入れたのだ。やはり当たりだったな。」

「そんなやり方ばかりしていると、殿下の後宮には妾女が溢れかえりますよ。殿下もご結婚されたのですから、これまでと同じようにはいかないでしょう。妃殿下がお気を悪くされるのではないですか?」


 淡々とした口調で語りつつも、ロイドは呆れたような目でアルベルトを見た。

 アルベルトは眉をひそめた。


「フェリシアが?今まで何も言われたことはない。フェリシアはよくやってくれている。不満もなさそうだし、上手くいっていると思うが……」


 前々から感じていたことだが、どうやらこの上司は女性の心情には疎いようだ。

 ロイドは額にかかった葡萄色の髪を払ってため息をついた。

 ロイドの仕草にアルベルトは不満げな顔をした。


「殿下は妃殿下のことを一体どう思われているのですか?ご心配ではないのですか?」


 ハッとしたようにアルベルトは顔を上げたが、すぐに表情を戻した。


「俺の気持ちは関係ない。妃のことは大事にするし、一緒にいるために歩み寄っていく。王太子夫婦として良好な関係が築ければそれでいい。」


 その秀麗な顔を背けたアルベルトの表情から、ロイドは何の感情も読み取れなかった。 





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