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世継ぎの血統

暑中お見舞い申し上げます

毎日暑さが続いておりますが、お元気でお過ごしでしょうか?


8月に入り私事で忙しくなりそうですので、毎日投稿が難しくなるかもです。

なるべく出来るように頑張りますので、よろしくお願いします(_ _;)


 その日のお茶会には、エーヴェルト王国の有力貴族の夫人たちが招かれていた。

 ご主人が要職に就いていて、半端でない情報量をお持ちの面々だ。


 貴婦人方の目下の任務は王太子夫婦の仲の良し悪しの見極めと、フェリシアの体調に少しでも変化がないかのチェックだ。

 フェリシアは心得たもので、それぞれに挨拶をした後、至らぬ点は遠慮なく教えてもらいたいことを、ご主人の役職にそって伝えた。


 彼女たちは、本題である王太子の夫婦仲に探りを入れ出した。子作りはしているのか、それとも妾女との子を作るのか探りを入れてくる。


「殿下とは、たいへん仲睦まじくて羨ましいですわ。」

「わたくしも先日の公務の際にご一緒いたしましたが、本当に仲が宜しくて驚くくらいでした。」

「まあ、それはそれは。では、お世継ぎの誕生も期待できますわね、妃殿下?」


 フェリシアは今すぐ欲しいし、子を持つことが楽しみでしょうがないアピールをしておく。


「はい。すぐにでも欲しいと思っています。」

「まあ、すぐに?」

「はい。」

「でも、まだお若いから子供を産み育てるよりは、お二人で楽しくお過ごしになりたいのではないかしら?」

「御子を授かり育てていくことが、わたくしの役目であり楽しみになりますわ!」

「まあ!それは王家も喜ばしいことですわね。」

「本当に!」


 夫人達はその後、声のトーンを落として言葉を続けた。


「妃殿下がお子を望んでいるとなれば、喜ばない家も出て参りますわよ。」

「エーヴェルトの血を継いだ御子を世継ぎに望まれる家もおおございますから…」

「わたくしは殿下のお気持ちが一番だと思いますわ。」


 フェリシアは頭が真っ白になった。

 フェリシアは初めての恋に浮かれていた。そうだ、大事なことを忘れていた。

 

(エーヴェルトの血を継いだ子)を国内の貴族が世継ぎに望んでいるなんて知らなかった。アルベルトの立場を考えれば、妾女と子を成すのが最善策だ。

 たとえ今は愛妾がいなくても、アルベルトは常に誘惑が多い環境に身を置いている。いつ情を移す女性が現れてもおかしくない。


 確かに以前は、アルベルトが愛妾と子を成すと思って、避妊薬を使っていた。でも、閨を共にするようになってからは使ってない。フェリシアとて好きな人の子を宿したいという気持ちがある。アルベルトに抱かれることに喜びを感じて、たまらなく身体を繋げたい気持ちにすらなるのだ。


『アルベルトがもし自分以外に気持ちを向けたら?自分以外の女性に、あの優しい手つきで触れることがあったら?…わたしの心はきっと死んでしまう――』


 アルベルトが他の女性に触れることを考えただけで、心がどす黒く染まっていく。こんな気持ちが湧き上がるなんて信じられないとフェリシアは思った。自分の気持ちを自覚したことにより生まれた独占欲にフェリシアは狼狽えた。


 もう元には戻れない。フェリシアは変わってしまったのだ――



◇◇◇


 気難しい顔をしたアルベルトが執務室に座っていた。

 舌打ちをすると瞳を鋭くして言った。


「やはりあのメイドが懐妊の噂を流していたのか?すぐに暇に出す。」

「いまさら遅いよ。なんで、あのメイドを妃殿下の近くに置いておいたの?エルデーリ伯爵家に情報を流してたのは、前から分かっていたんだろう。」


 レオンはじっとアルベルトを睨んだ。


「泳がせて様子を見ようと思っていたが、迂闊だった。」


 アルベルトが忌々しげに言うと、レオンは軽く嘆息した。

 そんなレオンにアルベルトは鋭い視線を向けた。


「レオンはエルデーリ伯爵家を調べ上げろ。ハリントン侯爵家と必ず繋がっているはずだ。あの侯爵は胡散臭い、絶対何か企んでいる。それとランバート男爵家もだ。どんな小さい情報でも漏らさずにくまなく探ってくれ。」

「…わかった。」


次に、冷静な表情で立っているロイドに目線を向け指示を出した。


「ロイド、フェリシアに付いている使用人を洗い直してくれ。引き続き後宮の動きにも気を配れ。」

「わかりました。」

「他には何かあるか?」

「エルデーリ伯爵家の娘、ジェンナ様の入宮の日取りが決まりました。」

「ああ。それはお前に全て任せる。部屋の用意など適当にしておいてくれ。」

「わかりました。」


「あっ!」


 急に大きな声を出したレオンをアルベルトはじろりと横目で見た。


「なんだよ。騒がしいな。」


 アルベルトは口元を歪めた。


「その伯爵令嬢を妾女にして閨を共にするの?」


 間髪を入れずにレオンが返す。


「…やるしかないな。とりあえずどんな意図があるのか探らないと。」


 アルベルトは眉間にしわを寄せ、苦々しく呟いた。


「いつもみたいに?」


 ぴくりとアルベルトの眉が上がった。


「それはまだわからない。…とりあえず様子見からだ。」


 その後はしばらく、三人の間に沈黙が落ちた。やがて、おずおずとレオンが口を開いた。


「…妃殿下には?」


 アルベルトの眉間のしわが一層深くなった。


「政治的な関係で妾女を迎えるということは話す。」

「…そっか。」


 レオンは軽く嘆息を漏らした。



◇◇◇


 その日の夜、アルベルトは難しい顔をして寝室に入ってきた。いつもと様子が違う。ベッドの背もたれに凭れ掛かっているアルベルトは、いつもより口数が少ない。フェリシアは少し緊張して、アルベルトに身体を向けた。


「…何かあったの?」


 アルベルトは眉を寄せてフェリシアを見た。


「ああ、妃殿下付きのメイドの一人に暇を出した。外に情報を流したり、噂を広めたりしていた。」

「えっ!では懐妊の噂もそのメイドが?」

「…そうだ。フェリシアすまなかった。もっと気をつけるべきだった。」

「そう…、そんなに簡単に暇は出せないわ。気にしないで。」

「それから……」


 急に口ごもったアルベルトに悪い予感がする。

 鼓動が早くなる。フェリシアは瞬きを繰り返してアルベルトを見つめた。


「政治的な関係で新しく妾女をひとり迎えることにした。」


 フェリシアは心臓がきゅっと掴まれたような気がした。


 王太子の後宮には妾女がたくさんいる。今までに新しく妾女を入れるという報告をアルベルトから聞いたことは一度もなかった。

 それは、後宮にとって日常の光景で、敢えてフェリシアに言う必要などあるのか。今回に限ってなぜわざわざ伝えるのだろう。


 アルベルトの表情にはフェリシアへの後ろめたさが、少し浮かんでいるかのようにも見える。ザワザワとざわめき出した気持ちを、フェリシアは必死に落ち着かせようとした。


「…そ、う。……それで?」


 フェリシアは懸命に口を開いて、言葉の先を促した。


「もしかしたら、そのことで良くない噂を聞くことがあるかもしれない。でもそれは真実ではない。それと、周りの者にもしばらく注意してくれ。もし何か少しでも不安を感じたら、わたしに言ってくれ。」


 アルベルトはフェリシアの腕を掴んで自分の胸へと引き寄せた。そしてフェリシアの背中に腕を回して、そこに閉じ込めぎゅっと抱きしめた。


「…わたしにはフェリシアだけだから。悲しませるようなことはしない。」


 それはフェリシアにとって嬉しい言葉だったが、このタイミングで言われたことに逆に不安を覚えた。

 フェリシアは縋るようにアルベルトの背中に手を回した。





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