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婚約者は王太子

新連載を開始しました。

どうそよろしくお願いします。


ここは、モントクレイユ国――

 王宮にある国王の執務室、レイモンド国王が重厚な椅子に座っている。一人娘のフェリシア王女が目の前に来ると、おもむろに口を開いた。


「そなたの婚姻が決まった。結婚相手は、隣国エーヴェルト王国のアルベルト王太子だ。」


 国王の低くよく通る声が木霊した。


「承知いたしました。」


 フェリシアは澄ました顔で父に応えた。


 モントクレイユ国は、隣国のエーヴェルト王国とは長年敵対関係にあった。三年前に始まった流行り病で、両国とも民は不安を抱え財政は悪化し、すっかり疲弊していた。今後は医療分野を始めとして様々な分野で協力をしていこうと、和平協定を結ぶことが決まった。アルベルト王太子とフェリシア王女の婚姻は、その協定を確かなものとする為の政略結婚だ。


 エーヴェルト王国とは長年の敵対関係であったため、王国内にはモントクレイユに対して悪感情を持っている人がまだまだ多い。当然、一国の王女とはいえ周囲の風当たりは強いだろう。しかも、エーヴェルト国内にフェリシアの後ろ盾はない。フェリシアにとって、この婚姻とエーヴェルトでの生活は明るいことばかりではないかも知れない。


 しかし、レイモンド国王は思っていた。

『きっと、フェリシアならよい友好関係を築いていけるだろう』と。



 国王の執務室から自室に戻ったフェリシアはひとり、これからの未来に思いを馳せていた。エーヴェルトは薬草の栽培、研究、改良が進んでいる王国。様々な種類の薬草があり、王宮内にも研究所があるという。フェリシアは薬草やハーブが大好物なのだ。


『きっと、初めて目にする薬草がたくさんあるわ。新しいお薬を調合してみたいわ!』フェリシアは、その日を夢見てワクワクした。


『 そして――アルベルト王子はどんな方なのかしら?』

 アルベルト王子に関しての情報は、フェリシアの元には何も届いていなかった。噂話でさえ耳にしたことがない。フェリシアはあれこれ想像をめぐらせた。


『きっと、優しい方に違いないわ……』

 まだ見ぬ未来の夫に淡い夢を抱いて、フェリシアの心の中は期待で膨らんでいった。 



◇◇◇


 アルベルト王太子がエーヴェルトからモントクレイユに、結婚の挨拶にやってくるという知らせを聞いたのは数日前。すでに王宮内に到着し、現在は国陛下と王妃陛下に謁見中。その後にフェリシアとの初めての顔合わせが待っている。


 フェリシアは自室の窓辺に立ちソワソワとしていた。コンコンとノック音がして、侍女のロザリーが扉を開く。


 「フェリシア様、応接室で王太子殿下がお待ちです。」


 ハッとして、上の空だった顔を引き締める。


 「わかりました。すぐに行くわ。」


 フェリシアの返事を聞くと、ロザリーが扉を開けた。

  

 応接室に向かう長い廊下を歩きながら、フェリシアの心の中には期待と不安が浮かんでは消えていった。フェリシアが王太子を思いながら、物思いにふけっていると、応接室の扉が見えてきた。扉の前に控えていた侍従がフェリシアの顔を認めると、緊張した面持ちで応接室の扉を叩いた。


「フェリシア王女殿下がお見えです。」


 恭しく侍従が声を張り上げた。

 応接室の中から返答を確かめると両開きの扉を開いた。 



 お茶の入ったカップをテーブルに戻したアルベルトは、腰掛けていたソファから立ち上がった。開いた扉の方へ目を向ける。

 フェリシアはしずしずと上品な足捌きで、アルベルトの方へ歩みを進めた。フェリシアが目の前まで近づきその歩みが止まると、静かに口を開いた。


「初めまして。アルベルト・リカルド・エーヴェルトです。」


「フェリシア・クラーナ・モントクレイユでございます。」


 フェリシアは盛大に猫をかぶり、左手でドレスをつまみながら腰を折って、淑女の礼をとった。


「どうぞ、楽にしてください。」


そっと目線を上げると、アルベルトの顔が目の前にあった。


 澄んだ碧色の瞳と目が合い、思わず引き込まれそうになる。王子はまるで彫刻のような端正な顔立ちをしていた。漆黒の髪に、意思が強そうな眉、しっかりとした鼻梁、やや薄い唇。上背は高く手足が長い。鍛え上げられたがっしりとした体躯に、黒いジャケットとトラウザーズを身に纏った姿は凛としていて、まさに王族の風格だ。 


 王子の口元が上がり顔に笑みがひろがる。王子の美麗な微笑みの中にある瞳を見た瞬間、フェリシアの顔の筋肉はほんのわずかに引き攣った。


『!!め・目が笑ってない!!』


 そうと悟られないように、王子の微笑みに応えてフェリシアは表情を作った。


 王子の感情の読めない微笑みに、フェリシアは訝しさと少しの違和感を持った。

『政略結婚だから仕方ないかぁ。でも、できる限りいい関係を築いていきたいな』とフェリシアは思った。


 こうして、緊張のアルベルトとの顔合わせをフェリシアは終えたのだった。





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