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エンド・コンテンツ  作者: 裏駅の住人
9/9

 9話

ガーベラに着いて注文を済ませる。

周囲は客が所々居て、冒険者から普通のお客さんまで、種族もバラバラだった。

この店が幅広い客層から好まれているのが分かる。

空いている席に着くと早速スタンピードの話が始まった。


「いい話と悪い話がある。どちらから聞きたい?」

「じゃぁ、いい話からでお願いします」

「分かった。今回起こるであろうスタンピードは、以前の時の様に4ヶ所同時に起こるというわけではなさそうだ」


予想以上に良い情報だ。

過去の資料を見た時も、4方向のダンジョンから向かってくる魔物相手に冒険者総出で対処に追われ、相当苦戦を強いられていたようだった。

それが一ヶ所の対処で済むのであれば、以前に比べると危険度も幾分マシだ。


「今回私たちが集めた情報と、他の者たちが集めた情報を精査した所、南のミトス古戦場跡地以外のダンジョンではスタンピードの可能性が殆どなくなってきている」

「それは良かった。じゃあ、悪い話というのは」

「私たちに残された時間は少ない」

「……」


嘘だろおい。

今の言い方だと最早詰んでいるわけだが。

想像以上に悪い情報だ。

先ほどの良い情報からどこをどうすればそんな事になるというのか。


「……今回の探索で、何か異常でも見つかりました?」

「ダンジョン内の瘴気が濃くなっていた。他のダンジョンでは魔物の増加は見られたが、瘴気自体は落ち着いたものだったらしい」

「魔物の増加と瘴気が濃くなることがスタンピードの条件ってことですか?」

「そう考えられている。スタンピードで一番厄介なことは何だと思う」

「魔物の数が多い事ですか?」

「そうだな。だが、魔物が多いだけなら対処が可能ではある。討伐隊を組んでダンジョン攻略を定期的にすれば、それだけでスタンピードの恐れは低くなる。冒険者の役割の一つだ」


遺物回収だけが仕事じゃないんだな。

ダンジョンの魔物の定期的な討伐も役割と。

魔物がどのくらいの頻度で産まれてくるのかが分からないが、産まれてくる量よりも討伐する量が多い状態をキープしておけば、少なくともダンジョンから魔物が溢れる心配はないわけか。

そもそも産まれてくるって表現があっているのかが分からない。

魔物の生態が良く分かっていないからな。


「問題なのは魔物が増えるスピードだ。減らしても減らしても湧いてくるのであれば、いずれはジリ貧になる」

「瘴気が濃ければ濃くなるほど魔物が多くなりやすいってことですか?」

「その傾向が高い。これまで冒険者たちから集められた情報と、以前のスタンピードで起こった現象をまとめると、瘴気の多く集まる場所では魔物が湧きやすい事が分かっている」


なるほど。

魔物の増え方は生態由来の生殖活動だったりで増えるわけではなく、自然発生的な増え方な訳か。

それは確かに脅威だ。

これは詳しく聞いてた方がよさそうだ。


「今湧くって言ってましたよね。それって、どんな感じなんですか」

「魔物によって異なるが、ゴブリンの場合だと一ヶ所に集まった瘴気の中から這うように出てくる。1度に3、4体が同時に出てくることもある」

「どの程度の頻度で湧いてくるんです?」

「濃度によっても、湧いてくる魔物によっても変わってくる。以前のスタンピードの時は普段のダンジョンの3倍か4倍程度濃かった。私が担当した場所ではゴブリンやオークが多かったんだが、多い時は1日で大体500は超えていたはずだ」

「そういえば資料では数日にわたって対処した事が書かれていましたが」

「あぁ、連日対処する中で瘴気の濃度も薄くなっていったんだ。最終的には魔物の襲来も単発的なものになっていった」

「そう、ですか」


よく被害を抑えられたものだ。

ネリザさんの話はあくまで4つのダンジョンの内の1つだということだ。

他の3ヶ所だって決して楽ではなかっただろう。

しかもそれが1日だけではなく数日にわたって行われたという事らしい。

いつ終わるのかも分からない中、絶望感を抱えながら守り切る必要があったのか。

それでも被害を抑えられたのは、それだけ優秀な冒険者がいたという事なのだろうか。


「でも今回は1つのダンジョンから魔物が来るだけなんですよね。何が問題なんです」

「言っただろ、濃度が濃かったと。恐らく1週間以内にスタンピードは起こる」

「……」


実にあっさり、あくまで淡々と話している。

反対にこちらは、頭の中で軽くパニックになっている。

ある程度の猶予があるものだと油断していたのもあるが、どこか現実味がなかったというのもある。

目を閉じ、ゆっくりと息を吐き、ゆっくりと目を開ける。

手の震えも少しずつ収まっていく。

彼女はゆっくりと待ってくれている。


「……それは、大丈夫なんですか?」


スタンピードに対応する人員、物資などの準備、作戦立案など、やらなくてはいけないことは多くあるはずだ。

それなのに、残されている時間は少なく、一週間以内という言い方を考えると、もっと早くなる可能性もあるのだろう。

この街の現状も、周辺地域との連携についても、何も知らないからこその不安だが、この不安は恐らく当たっている。

なにしろ悪い話って前置きしてるぐらいだからな。


「……分からない。他3つのダンジョンの警戒を解くわけにもいかないからな。戦力を集中できない上に猶予もそこまでない。残った人員も多くない」

「そんな」


やばい、最初のいい話が霞んでしまうほど、状況は最悪の様だ。


「そこで提案なんだが、君はスタンピードが終わるまで他の町に避難しているのはどうだろうか」

「……はい?」


顔を上げるとテーブルに一枚のチケットが置かれていた。


「4日後にパンドラの飛行船が来ることになっている。それに乗って避難しているといい。予約も済ませた」

「えっと、その、いいんですか?」

「私はゲルダから君の面倒を見るよう言われている。しかし、スタンピード中は私も余裕がない。なので、スタンピードが終わるまでは避難していてもらった方がこちらも安心だ」

「そう、ですか」


言われてみればそうか。

何か手伝うことはないのかを考えていたが、そもそも何も出来ないじゃないか。

魔力も扱えず、満足に戦う事すら出来ない。

彼女の対場で考えてもベストな選択だ。

なにしろ俺は怪しさ満点だろうからな。

あんな場所で寝てて、別の世界から来たっていう男、誰だって怪しむのが当たり前だと思う。


「……分かりました。有難く使わせてもらいます」

「そうか、良かった」


情けないが、こちらが出来ることは恐らくない。

これから彼女たちはスタンピードに備えて準備しなくてはいけないのに、俺がいても負担になるだけだろう。


「はいはーいお待たせ―、……ん、どったの?」

「直ぐに通達があるだろうが、近日中にスタンピードがある」

「え、そうなの!」

「ああ、以前と比べて規模は少ないかもしれないが、その分準備できる時間が少ないからな」

「そっか、ウチの店も何か準備しておいた方がいいい?」

「そうだな。どの程度続くのか、規模が未知数だからな。後でギルドから揃えて欲しいものを連絡するだろうから、その時は頼む」

「ん、分かった。ほい、気まぐれディナーだよー。コーヒーは食後で良いんでしょ?」

「あぁ、ありがとう」

「いただきます」


ゆっくりコーヒーを飲み込んでいく。

先程までの話で、いつの間にか緊張していたようだ。


「ナフォさん、凄いですね」

「ん?」

「いや、スタンピードって俺からするととんでもない脅威に思ってたんですけど、彼女はスタンピードの話を聞いても落ち着いて自分にできることを聞いていたもんだから、凄いなと」

「それがこの街の日常だからな」

「日常ですか」

「それぞれが自分にできることを必死にやる、そうやって皆日々頑張っている」

「そうなんですね」


なんとなくしっくりきた。

この街に来た時に感じた活気はそこにあるのかも知れない。


「俺にも何か手伝える事ありませんか?」


すっと、自分の口から違和感なく出ていた。

スタンピードと話を聞いて少なからず恐怖を感じていたから。

飛行船の話がでた時ホッとしていた自分がいた。

だからこそ、そんな言葉が出た事に驚いている。


「その、飛行船が来る間何か手伝えないかと思って」

「ふむ、そうか」


彼女にとっては迷惑な話かもしれない。

少なからず俺に対する不信感はあったはずで、今一層不信感が強まった可能性すらある。


これは勘でしかないのだが、この機会を逃す事は自分にとって良い流れではないと感じている。


「では、そうだな」


今まで、彼女の表情は変わらず、冷たいかどうかは分からないが、無表情でクールな印象を抱いていた。

ただこの時、腕を組み思案している彼女の口元は、少しではあるが笑っているように見えた。

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