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エンド・コンテンツ  作者: 裏駅の住人
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8話

『これまでの調査で周辺の魔物の量が多くなっていることが分かっている。以前のスタンピードの資料を見てみたが、スタンピードが起こる前にも同じような現象が見られている』


朝話していた話は確かな様だ。

魔物による被害報告、討伐依頼はスタンピードの前で明らかに多くなっている。


『スタンピードは簡単に言うと、魔物の大群がこの街に向かって襲いくる事だ』


過去に起こったスタンピードでは東西南北のダンジョンから一斉に魔物が溢れたらしい。

これについては目撃情報はないらしいが少なくともそれぞれの方角から魔物がこの街に向かって来た事は確かのようだ。


『今すぐスタンピードが起こるわけではない。そこまで心配する必要もない。魔物も冒険者に依頼出して間引いてもらっているしな』


これについてはなんとも言えない。

この資料には過去の統計などは載っているのだが、現在の情報までは載っていなかった。

ここら辺はネリザさんが忙しくない時に聞いてみると良いかも知れない。


『北のノヴェル遺跡、西のバーボン湿地林、東のウルドの森、南のミトス古戦場跡地、これら4ヶ所それぞれにダンジョンが存在している』


それぞれ生息している魔物も違ってくるようだ。

気になるのはそれぞれのダンジョンの規模も違っているという事だ。

ダンジョンごとに魔物の許容量も違うはずなのに、魔物が一斉に溢れたというのがなんとも違和感のある話だ。

それに冒険者という存在がありながら気づかないものだろうか。

それとダンジョンにはもう一つ、無視できない物がある。


「『遺物』、か」


この資料によると、少なくとも前回のスタンピードの際街が保管してあったいくつかの遺物が破損もしくは紛失しているらしい。

恐らく貴重な代物なんだろうが、そんなものルールブックに書いてたか?

これについても聞いておいた方がいいかもしれない。


「幸いなのは死傷者が少なくすんでいることか」


冒険者にしろ民間人にしろ、負傷者は多くでた。

だが、死傷者は想像よりも少ない。

しかも民間人の死傷者はほとんどいない。

それはこの街の冒険者が優れているということか、それともーー


コンッコンッ


不意に硬い音が部屋に響く。

顔を上げると、部屋全体が薄暗くなっていることに気づく。


「んぁ、マジ、か」


外は既に夕日が落ちてきていた。

昼からずっと読み進めていたって事だろう。


「っと、はいはい」


部屋のノックは続いている。

俺が部屋にることが分かっているかの様だ。


「あ、ネリザさん、お疲れ様です」

「あぁ」


ノックしていたのはネリザさんだった。

今帰って来たのだろうか。

探索から帰って来たにしては靴などに汚れは見えないが。


「ずっと部屋にいたのか?」

「ええ、借りてた資料を読んでました」

「そうか」

「ネリザさんはもう仕事は終わりですか?」

「あぁ、報告は済ませた」


わざわざ来てくれるのはありがたいのだが、何の様だろう。

用があって来てくれたのだろうけど、机に置かれた資料に目が向いたまま止まっている。


「あの?」

「あぁ、すまない。食事に行かないかと思ってな。食べてないのだろ?」

「そういえばそうですね」


今更だが、朝食の後は何も食べていなかった。

部屋で水は飲んだが、それだけだった。

それまで全く感じなかったのに、意識すると強く空腹を感じだした。


「今から行こうかと思っているのだが」

「分かりました。少し待ってください」


そう言って部屋に戻り、電気を消し、部屋の鍵を取る。

スリッパを脱いで靴を履き、外に向かう。

金は持っていないからネリザさんのお世話になるしかないんだが、早く何とかしいたい。


「資料の方は何か気になるところはあったか?」

「んー、今のところ気になるといえばスタンピードの事ですかね」

「ああ、それについては食事しながら話す。丁度話さないといけないこともある」


ふむ、今回の探索で何か進展でもあったのだろうか。

食事の目的もスタンピードの話をするためだったのだろう


「そうですか、分かりました。後気になってることは、遺物ってやつですかね」

「遺物は簡単に言うとダンジョンで手に入るお宝だと思ってくれればいい」

「お宝ですか」

「ああ。冒険者がダンジョンで持って帰ってくるモンスターの素材や遺物によってこの町は栄えている。実は君も見たことがある」

「え、そうなんですか?」

「君がハラに鑑定してもらった時、彼が持っていたペンがそうだ」

「ああ、あの時のペンか。ペンが動いていないのにインクが勝手に動いてて驚きました」

「動いていたのは彼の魔力制御だ。あのペンはインクが切れることが無い」

「え、それだけですか?」


正直ダンジョンでとれるお宝としてはショボい印象がある。

命がけの探索で、苦労して手に入れたお宝がインクの無くならないペンなら、ショックだと思うのだが。

そもそも、そんなものまでダンジョンで手に入るものなのか。

特殊な装備やらアイテムなんかの、探索に役立つものが出るものだと勝手に想像していた。


「デスクワークの者たちには重宝する。出費も減る」

「あぁ、確かに」


たとえ探索に役に立たなくとも、生活に役立つ品であれば、価値も高いのだろう。

そういった品がこの町を繫栄させているんだろうな。


「後はインクの色を変えることができる。ある程度の魔力制御が必要だが」

「へぇ。あ、そういえば魔法に関する資料を読んだんですが、ゲルダさんの手を握った時のような魔力の感覚が、自分では分からなくて」

「あぁ、それは魔力感知の技術が必要になる。基礎的な技術ではあるが、冒険者には必須の技術でもある。自分の魔力を知るのは初歩だから覚えるのも簡単だと思う。後で教えよう」

「ありがとうございます」


ガーベラに向かいながら考える。

スタンピードはそう遠くない未来に起こるだろう。

ネリザさん達が行った今回の探索で、恐らく予想よりも事態は深刻だったのかもしれない。


(スタンピードの資料を読んでて正解だったな)


問題となってくるのは、この後俺に何か頼んでくる場合だ。

俺の信頼なんてないようなものだ。

そんな俺に重要な内容を頼むとは思えない。

それでも、そんな俺に何かを頼んできた場合。

それだけ余裕がないということだ。


(危険でもありチャンスでもあるか)


知識を増やす必要があるだろう。

自分に出来ることも増やす必要がある。

その全てがこれからの信頼につながっていくはずだ。


(今度こそ)


夕日に染まった坂道を下りガーベラを目指す。

浮かぶ笑みを抑えながら。

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