3話
「さて、ここがフリーランだ」
「うわぁ……」
正直に言おう。
想像より遥かにごちゃごちゃしている。
まるで整備されていない道。
統一感の無い家。
でかい建物の店もあれば道の端で露店を開いてる者もいる。
特に目がつくのは、町の中央に位置する大きな建物だ。
一眼見た時はホテルなのかと思った。
あの建物は塀の外からも見えていたが、門の中に入るとより一層存在感が際立っている。
見かける種族もバラバラだ。
目に映る範囲で、人間、エルフ、鬼、小人、オークが歩いている。
「どう、どう、初めて見た感想は?」
「いやぁ、凄いなぁ」
「だよねだよね!」
ここに来る途中でヴェイグやフィーからフリーランのことを色々聞いていた。
まだまだ発展途上であり、様々な種族が集まっていつも賑やかな、活気のある町。
ごちゃごちゃしているが活気があり、不思議とワクワクしてくるような光景だった。
「さて、取り合えずここで解散だ。ヴェイグとフィーは後で報告書を持ってきてくれ。報酬もその時に渡す」
「はい、分かりました。じゃあ、またなクラゲ」
「またねー」
「あぁ、また」
ヴェイグとフィーは同じ宿屋に泊っているらしく、宿に戻って今回の探索結果を書類に纏めて、ギルドに提出するまでが仕事のようだ。
「私たちはギルドへ向かう」
「あ、はい。どこにあるんですか?」
「あそこだ」
ネリザさんが指差したのは街の中央にある大きな建物だ。
何となくそうではないかと予想していたが、当たっていた様だ。
「でかいですね」
「運営に必要な設備が集中しているからな」
ネリザさんは口数の多い方ではないが、歩きながらぽつぽつと町の説明をしてくれた。
自由貿易都市と謳われているフリーランでは、あらゆる品々が日夜取引されている。
あらゆる種族が集まったこの町では、取引される品も様々で、中には非合法の品が取引されることもあるらしい。
「ヴェイグの種族はリザードマンと呼ばれている。彼らの鱗は鍛治に使用される事もあれば、魔法薬の素材になることもあるから素材屋なんかで見かけることもあるだろう」
「へぇ、魔法薬ですか」
「あぁ、ポーションとかエーテルとかだな。フィーはフェアリーだ。妖精の粉を分けて貰う事もある」
「なるほど」
「それから彼らは冒険者だ。探索で採集した素材を分けて貰う事もあるだろうし、依頼をすれば助けてくれる事もあるだろう。君が何の職業に就くかは分からないが、彼等とは仲良くしておくといい」
「はい、ありがとうございます」
所々面倒見の良さも見えてくる。
分かりづらいが、気を遣ってくれていることが分かる。
歩きながら説明を受けているうちにギルドに辿り着いた。
この世界にホテルのような建物がある事に凄く違和感を感じるが、色々な種族が建物を出入りしているのを見て、これはこの世界の建物なのだと理解した。
中にはいるとフロントの様な場所に受付があり、受付嬢が数名座っていて、その後ろに屈強な方々が並んでいた。
掲示板には何枚もチラシが貼り付けられていて、それを取って受付に並んでいるようだ。
ネリザさんは列を無視して受付嬢の元に進んでいく。
「あ、ネリザさん。今帰ったんですね。お帰りなさい」
「あぁ、アリスか。今ギルマスはいるか?」
「いらっしゃいますよ。後ろの方は?」
「ヴェイグ達から報告があると思うが、彼はクラゲだ。今回の探索で偶然出会ったので来てもらった」
「はぁ、そうですか」
アリスと呼ばれた受付嬢は要領を得ない顔をして見てくる。
ネリザさんの説明が端的だったからだろう。
あれでは疑問を持たれて当然だ。
「えっと、ギルマスでしたよね。今は執務室にいるみたいですよ」
「分かった。クラゲ、こっちだ」
「あ、はい。分かりました」
彼女は慣れているようでズンズン奥へ進んでいく。
階段を上がり、スタッフと書かれたドアを通り、廊下に出る。
スタッフのフロアなんだろう。
ドアの前には名前の書かれたプレートがかかっていた。
廊下に出ている人は誰もいないので、仕事に出ているのだろう。
静かな廊下を歩いていくと、あるドアの前で3回ノックした。
「?」
ただ、ネリザさんのノックしたドアには空き部屋と書かれたプレートがかかってあった。
隣の立ち入り禁止と書かれたドアならまだ分かるのだが。
それともそう思わせることが目的で、この空き部屋に誰かいるのだろうか。
「はいは〜い」
どうやら中には誰かいるらしい。
まぁネリザさんがわざわざ誰もいない部屋を意味もなくノックするはずもない事はわかっているのだが、先入観からちゃんと執務室というプレートの部屋があるものと思ってっしまっていた。
「クラゲ、戸惑うかもしれないが私と同じ様に入って来てくれ」
「えっと?まぁ、分かりました」
わざわざそう言うという事は、ファンタジーならではの特殊な入り方でもあるのだろうか。
そう言ってドアに向かって歩き出す。
そしてそのまま部屋の中に入っていった。
ドアは閉まったまま。
「はぁ!?」
流石にそれは予想してなかった。
確かに戸惑いはあるし、閉まったドアに入るのは思っているよりも違和感がある。
ドアに手をやり入る事を確認すると、思いきって前に進んだ。
途中、薄い膜を通り抜けた様な感覚がした。
2人の人影が立っているのは見えるのだが、部屋が薄暗いので表情が分からない。
「ようこそ、フリーランへ。歓迎するよ」
予想よりも優しい声色で、歓迎の言葉をかけられた。
次第に視界が慣れていく。
そこにいたのは先程案内してくれたネリザさん、その奥には女性が1人、眠たげにこちらを見ていた。
ただ、女性にたいして失礼な言い方になってしまうが、体型が明らかに歪だ。
体全体が捻れていると言えばいいのか、顔はこちらを向いているのに足は後ろを向いている。
腕も左右アンバランスで、右腕に至っては腰から生えている。
腰も不自然に歪んでいるし、麻の服からは枝が所々覗いている。
黒い髪は床にまで伸び、根を張っている様に見えた。
「ゲルダ、早く戻ってくれ。彼が戸惑っている」
「んー?あぁそっか。これじゃ違和感あるよね。ごめんよー、今さっきまで寝ててさ。私寝相わるいんだよねー」
「よいしょ」という軽い掛け声と共に、バキバキという強烈な音を出しながら腕を肩の位置に戻し、腰の歪みも戻し、捻れていた身体も正面を向く様になった。
「どうも、はじめまして。クラゲです」
「はいー、丁寧にどうもー。私はゲルダだよー」
まだ寝惚けているのか、首をかきむしりながらゆっくりこちらへ歩いてくる。
「あいてっ」
どうやら彼女の髪は本当に根を張っていた様だ。
彼女が歩いて来ても、床に伸びた髪が離れず、首が持っていかれたようになっている。
「ゲルダ」
「ごめんごめん、ちゃんとするよ」
ネリザさんは慣れているようで、短く名前を呼んだだけだが、それでようやくゲルダと呼ばれた彼女も眠気が覚めた様だ。
「うんしょっと」という軽い掛け声で踏ん張り床に伸びた髪を首の力だけで引き抜いていく。
そこで気づく。
彼女はネリザさんの奥にいるのだ。
なのに、ネリザさんよりも背が高く見えている。
つまり、相当でかいって事で。
「さて、改めて自己紹介と行こうか。私はゲルダって呼ばれてるよ。この町のギルドマスターやっているんだ」
「は、はぁ」
目の前に立つ頃には見上げる程になっていて
「あっと、このままじゃ話しずらいか。ちょっと待ってね。よいしょ」
そんでもって、たった今同じ身長になった。
何でもありか異世界!と叫べるなら叫びたい。