溺愛されたい悪役令嬢の婚約破棄大作戦
初投稿ですが、温かい目で読んでいただけると嬉しいです!
安心感のある溺愛ものを読みたくて書きました。
「あ、これ私無理なやつや。」
「お嬢様?どうかされましたか?」
「い、いえ。なんでもないわ。」
卒業式を半年後に控えた秋の朝。
公爵令嬢であるローズは侍女に着替えを手伝ってもらいながら思った。
(婚約破棄したい。)
今年で18歳になったローズの夢は幼い頃から「愛ある結婚」だった。
両親と2人の兄に愛されて育ったローズはまっすぐな赤髪にアメジスト色の瞳をした美少女。
13歳で婚約した第一王子のジョージは金髪碧眼でイケメン、ローズにとって理想の王子様だった。
周りは王妃狙いのわがまま娘として噂しているが、実際は権力に全く興味のない純粋な箱入り娘だ。
そしてそのわがままというのも世間の噂とは違う。
「お父様、私もみんなと掃除がしてみたいわ。」
「お母様、私もお兄様と一緒に剣術を学びたいわ。」
「私も調理場に入りたいわ」
それは下の者がやるものだといっても、女の子には必要ないものだといっても、火の側は危ないといっても聞く耳を持たないのだ。
そのため家族は(かわいい)わがままお嬢様という愛称で呼び、それを聞いた人からその名前だけが独り歩きした結果が「公爵家のわがまま娘」だ。
学校へ向かう馬車の中でローズはやけに冷めた目で外を眺めている。
学園に入るまでは夢への道は完璧だったのだ。
多少は鬱陶しいと思われていただろうが、ジョージも婚約者としてローズのことを尊重してくれていた。
学園生活ではさらに親しくなって卒業したらすぐにでも結婚だと思い描いていた。
それが崩れ始めたのは2年目に男爵家の養子として転入してきたマーガレットが現れてからだ。
肩書に加えて下の身分の者には優しくをモットーとするジョージはすでに男女問わず人気だった。
男爵令嬢のマーガレットは茶髪の巻き毛にオレンジの瞳の素朴そうな少女だが、無知を装いいつもジョージを頼ってくるのだ。
誰にでも優しいのはもう諦めたが、あまりにマーガレットを気にかけるジョージに何度も不満は伝えた。
だが
「みんなを平等に扱うことが王には必要だ。」
と取り合ってくれなかった。
そして最近はローズとの約束や定期的にしていたお茶会までも、マーガレットのためにキャンセルするようになってきていた。
「特別扱いもできるんじゃん。マーガレットになら。」
そう呟きながら王宮のテラスで一人お茶を飲んだのも一度や二度ではない。
そしてとうとう昨日2人が学園裏で抱き合っているところを見てしまったのだ。
学園に着いてすれ違う令嬢たちと軽く挨拶を交わしながら教室へ向かう。
元々婚約者候補だったのもあり2人の婚約は表向き難なく進んでいた。
「あんな八方美人、ロージーには無理だろ」
「ロージーが我慢できるわけがない」
唯一反対しているのはローズの兄である双子のアネとモネぐらいで…
「よっ、ローズ!相変わらずお早いな!」
…もう1人いた。
母の実家である隣国の辺境伯宅に預けられていた幼なじみのオリバー。
アネとモネから婚約の話を聞くや否やすぐ手紙が送られてきて、王子のどこが好きなのかどんな顔なのかどんな性格なのか、事細かに尋問された。
そしてこの学園に留学生として現れたのだ。
「おはようオリバー。あなたも早いわね。」
目を丸くして一瞬立ち止まったがすぐ追いかけてくる。
「どうしたんだよ、ローズ。いつもならおはようございますオリバー様、とか言ってくるだろ?」
そう、愛ある結婚のためにきちんと公での異性との線引きはしてきた。
幼なじみであるオリバーにもそうしてきたし、オリバーも人の目があるところでは鉄仮面をかぶっているのでこうやって誰もいない瞬間を見計らって絡んでくるのだ。
「なんだよ。やっとあの王子との婚約を破棄する気になったか?」
ニヤニヤしながら口癖のような冗談をいうオリバーを横目で見る。
黒髪にサファイア色の瞳、ジョージとは違うが王子様と陰で呼ばれている。
「そうよ。」
今度こそオリバーは立ち止まった。
「ローズ。」
右手首を掴まれ思わず振り向く。
「何があった。」
いつになく真剣な顔に我慢していた涙がこぼれそうになる。
「なんでもない!ただそうしたいだけ!」
いつもわがままを言うときの口癖が出る。
オリバーは2秒ほど黙って見つめてきたが、次の瞬間
「そうか、そうか!やっとする気になったか!アネとモネにも知らせてやらなきゃ!」
いつも通りのニヤニヤ顔でどこか行ってしまった。
なんなんだ。
そして昼休み。
本当にあれを好きだったのか私。
「ジョージ様、あーん。」
「あーん。お、うまいな。」
昨日に引き続き2人の逢瀬を目撃中だ。
恋人とやってみたいランキング5位圏内の行為を見て今までならどうしていただろう。
一度冷めたら戻らないとはこのことだろう。
なんとも思わなくなっていた。
「…ここで婚約破棄してしまおうかしら。」
「はい、ちょっと待った~」
「待った待った~」
振り返ると去年卒業したはずのお兄様たち。
「!?!?!?」
「とりあえず移動しようか。」
苦笑いするオリバーに誘導され空き教室へ。
「お兄様、なんでこんなとこに?」
「そんなことはどうでも…」
「今日は学園の研究所に用事があったんだと。な?」
「そ、そうそうそう。俺らも王宮だけで働いてるわけじゃないんだぞ!」
なるほど。将来宰相候補の兄たちは今王宮で働いているが忙しいようだ。
「なんで先ほど止めたのですか?早速婚約破棄をしようと思ったのに!」
そうだ、あんなの見せられて逃げてきたようじゃないか。
「あのなローズ。王族との婚約は個人の問題じゃないんだよ。」
「勝手に婚約破棄なんてできないし、公爵家の将来にもかかわるんだぞ。」
…お兄様たちの正論に何も言い返せない…。
「そこでだ。」
オリバーを見るとニヤニヤと人差し指を立てている。
「婚約破棄大作戦と行こうじゃないか。」
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「ローズ、君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで高らかに宣言するのは、婚約者のジョージ。
隣には勝ち誇ったような顔をしたマーガレットが引っ付いている。
エスコートをしてもらえなかった時点で気づいていたけど、本当にオリバーの予想通りになったわね。
「理由をお聞かせ願いますか?」
一応形だけ聞いてみましょうか。
「理由だと?自分がよくわかってるだろう?平民出身であるマーガレットを身分を理由にいじめ、卒業パーティーのドレスも汚しただろう!」
…おおっと?予想より罪状が多いわ?
「ジョージ様!ドレスの件はいいですわ!こうやってジョージ様から素敵なものを贈っていただいたのですから…」
恥ずかしそうにうつむくマーガレットを見てピンときた。
私に汚されたとうそをついてドレスをねだったのね…。
もう何でもありの状態にため息をつきそうになる。
「身に覚えはございませんが、第一王子のご命令なら、」
「よって国外追放とする!」
は???国外追放???
「わけが分からないという顔をしているな。私が平等を大切にしているのを知っているだろう!身分を理由に人を見下すお前をそのままにしておくものか!連れて行け!!」
私の肩に手が置かれる。衛兵かと思い恐る恐る振り向くと、サファイアの瞳と目が合った。
「オリバー…」
鉄仮面をかぶった無表情のオリバーは私にだけわかるようにニヤッと笑った。
何だろう、いつも見てるオリバーとは違う雰囲気…
「国外追放なら私と婚約していただけないでしょうか。」
「え?」
「改めて、隣国フローリア国第二王子オリバー・フローリアです。母国の事情のため、身分を隠していて申し訳ありません。」
オ、オリバーが隣国の王子?!誰も予想していなかった自己紹介に会場が静まり返った。
オリバーは口をパクパクしているジョージとマーガレットを無視し私に跪く。
「後で星空の下でしてやるよ。」
小声でそうささやくと、私の手を取り
「ローズ嬢、私と婚約していただけないでしょうか。」
そのセリフを聞いて幼い頃の記憶がよみがえってきた。
幼い頃母の実家に遊びに行った私はオリバーと森で迷子になった。
その時気を紛らわすために理想の王子様の話を語ったのだ。
「王子様はね、満天の星空の下で、お姫様に跪いて愛を告げるの!そしてお姫様がうなずいたら手の甲にキスをするのよ!」
そう語る私を見て、オリバーは真剣な顔で
「その時が来るまで待ってろ。」
そういって大人に見つかるまで星空の下手をつないでいてくれた。
あぁ。私の夢をかなえてくれる王子様はこんなに近くにいたのね。
サファイアの瞳を見ながら静かにうなずく。そうしたらきっとオリバーは…
「君に愛を誓うよ。私のお姫様。」
そう言って手の甲にキスをした。
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卒業式から1年後、私はオリバーと結婚した。
オリバーは第二王子だったが、体が弱かったため派閥争いに担ぎ上げられないよう遠縁の辺境伯の所に人知れず預けられていたらしい。
「卒業パーティーの半年前だよ、兄上の王位継承が決まったのは。そこで身分を明かしてもよかったんだが、どうしてもロージーの理想の王子様になりたくてね。」
ニヤニヤしながらオリバーが教えてくれた。
後から分かったことだが、オリバーのニヤニヤ顔は照れている顔だとお兄様たちが教えてくれた。
「だからお前以外の前ではしないんだよ。」
「あんなにわかりやすくお前を溺愛してるのはあいつしかいないよな。」
お兄様たちは昔から知っていたらしい。
ジョージとマーガレットといえば、あの後ローズの無実の証言や証拠が次々に挙げられ国王陛下にこっぴどく説教を食らった。
もちろんマーガレットは婚約できず、男爵領に返された。
マーガレットは最後に暴れ
「私は王妃になるのよ!そのためにここまでやってきたんだから!」
「身分にゆるいジョージなら私を選んでくれるんだから!」
と叫んでいたらしい。
ジョージは本当の平等とは何か、一から勉強させられているらしい。
「ロージー。」
愛しい夫が私の名を呼ぶ。
相変わらずニヤッと笑うのは、私を愛している証拠だと今ならわかる。
今日は満天の星空。オリバーはテラスに私を連れ出して跪く。
正式に婚約を受け入れた日と同じシチュエーションに心が弾む。
「ロージー、私のお姫様。これからも君にだけ愛を誓うよ。」
「私の王子様、夢を叶えてくれてありがとう」
オリバーは立ち上がって私の唇にキスをした。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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