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夢の喪失

作者: 青墨

本当にこういう夢を見たことはあったのかなかったのか、忘れました。

嫌いなものがふわふわとした目に見えない流動的な存在になって漂っているのを洗濯ネットに入れて攻撃する夢をよく見ていた。

感触は風船を押してるのと変わらない。

中身は何でもありで、四季の春だったり許せない過去の知人だったり漠然とした不安だったり、とにかく私の精神を騒がせるものがよく登場する。


攻撃する時に手に持っている「武器」もその時々で変わった。プール掃除以外であんまり見たことがない掃除用の大きなブラシ、学習机とセットで付いてくるあの卓上の長いライト、金属バット、現実では触ったこともないラクロスのラケット、水筒、何かのトロフィー。

それらで、洗濯ネットに入った嫌いなものや人を殴る。

洗濯ネットが大きいわけではなくて、嫌いなものや人が生まれたての子豚程の体積になり、収まっている。

夢が始まるのは、既に洗濯ネットに入れ終わり、チャックを閉めるところからだ。

そして洗濯ネットに収まって少しだけ動いてるそれをしばらく見ている。

最初の一振りはいつも興奮している。

強く強く殴れるように息を整えて、腰を入れて、肘が強張ったり曲げると速度が落ちるから腕を真っ直ぐ伸ばし、投球のようなフォームで殴る。

それでもそこからもっと強く殴ろうと角度や力加減を工夫して殴り続ける。

何度も殴るその間に瞬きが止まっていること、怒りで高揚して上から突き刺すように振り下ろしてしまうこと、足も出ること、ありったけの言葉で罵っていること、その怒りの発露は起きた後自分でも震える程の激しさだ。

こんなにも誰かや何かを憎めるのは、本当にその対象のせいなのか、自分がおかしいのではないのかと悩んできた。

そんな夢ばかり見ている訳でもなく、ごく普通の夢も見ている。荒唐無稽なもの、誰でも知っているような人が出てくるもの、現実にもありそうな状況で起きると安堵するもの。そんなものばっかりだったのにいつからかその夢の頻度が増えている。

ストレスが溜まっていることが原因なら今は会わない人間も出てくるのはおかしい。今のストレスの原因がもっと頻繁に出てきてもいいはずなのに。

それでも、冬なのに春が出てきたこともあるし、過ぎ去った時事や小さい頃に勝負して負けた記憶そのものだったりも出てくる。

恐らくどうしようもないものから順に出てくる頻度が高いのかもしれない。

夢の中でだけ、もう解決も出来ずに完全に水にも流せず割り切れないまま続いていくことや終わる物事を殴らせてくれる。

自分の憎しみや執着心に脅えながらも、その装置に愛しさを覚えていた。


今はもう、その夢は見なくなった。人も物も、余韻のように時たま出てくるだけだ。

きっとそれはいいことなんだろうが、喪失感が勝っている。

悲しくない喪失感は大事なものを失うよりも空っぽになった気がするらしい。

睡る度に夢を見ます。

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