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【完結】人魚は地上で星を見る  作者: 廿楽 亜久
1章 総合魔法実技試験編
5/45

05

 手紙とダイアの話を聞いて、コーラルは軽く頭痛がする気分がした。


「あいつが貴方に協力してほしいって言った理由がよくわかるわ」


 そして、無償で一回手を貸すという理由も。


「ね~ぇ~俺、今、こいつらボコボコにしてから聞いてなかったんだけど、手紙、なんて書いてあったの?」


 話を聞いている間にも、また新たな襲撃があったのだが、漏れなく双子が返り討ちにしていた。

 背中と頭にのしかかる重さに、手を伸ばし頭を撫でておく。


「要は、こいつは人質を取られてて、試験中に助けに来ないと、その人質の命はないってこと」

「なにそれ。お姫様かよ」

「しかし、問題なのはその人質の方なのでは?」


 上機嫌に笑うアレクに、冷静に質問してきたのは、クリソ。

 その手には、呻いている男。


「ちょうどよかったので、お連れしました。いかがしましょうか。

 必要なければ、マナー違反ですが、道端に捨てさせていただきますが」


 顔をひきつらせたのはダイアだけで、コーラルはまだ意識のあるらしい生徒ではない男に目をやる。


「監禁場所と警備、依頼主」

「承知いたしました」


 にこりと微笑んだクリソは、男の前に屈み、歌うように問いかける。


「教えてください。貴方に襲撃を依頼した方は?」

「――ハートリー」


 素直に答えた男に、クリソは続けて、監禁場所と警備についても確認するが、首を傾げただけ。

 どうやら依頼主しか知らないらしい。

 これ以上、聞きだすことはないと、クリソは容赦なく気絶させると、他の襲撃者と同じように草陰に投げ込む。


「というわけで、ハートリーさん。という方が、今回の襲撃の犯人ということで良いかと。お知合いですか?」


 魔術師として有名な家であれば、コーラルが知っている。

 今回はまさに当たりだった。めんどくさそうな表情をしている。


「魔術師の中でも、偏屈な奴ら」


 ヴェナーティオ家は、やっていることは置いといて、あくまで他種族に対して友好的であり、シトリンが言った通り、獣人などに対しても、人権を認めることに賛成している。

 逆に、ハートリー家は、戦争において負けた種族に対して、従属を命じ、獣人を動物と同等の扱いをする魔術師の旗持ちともいえる家だ。


 アークチスト家は、中立の立場ではあるが、ハートリー家からすれば、穏健派は皆敵となるため、結果的に対立することはたびたびあった。


「でも、ハートリーが関わってるなら、秘密裏に逃がされた王族が人質と言われても、理解できなくない」

「王族?」


 獣人の王族は、全員殺害されたはずだ。

 それが、きっかけとなって獣人は、人間に降伏したのだから。


「逃げた王族の存在は知っていたんでしょうね。

 それこそ、あの王宮襲撃作戦に関わった魔術師の二大勢力のひとつだもの」


 王宮襲撃作戦に関わった魔術師の内、大きな力を持っていたのは、先程から言った通りハートリー家。

 そして、もうひとつは、ヴェナーティオ家。


「あいつら、マジで意味わかんねーんだけど」

「意味わからないついでにもうひとつ。

 その王族を逃がしたのも、おそらくヴェナーティオ」


 コーラル以外の全員が、眉をひそめた。


「あの変態たちは、今はどうでもいい!

 今は、早く指定された場所に行って、ハートリーの用意した喜劇でも見に行くわよ」

「勝算はあんのか?」


 監禁場所はわからなかったが、こちらにはダイアが受け取った手紙がある。

 そこには、十中八九彼らの用意した罠があるだろう。


「何をもって勝利にするかによるけど、その場での戦闘についてなら、必ず」


 単純な物理的な戦いで負ける気などしない。

 しかし、一番の問題は、


「バーバリィ様の安全は」


 囚われている王族の安全。

 第一、呼び出された場所に、誘拐した相手を連れてくる必要はない。それだけリスクになりかねない。


「しかし、聞いていればハートリーは素直な方々と見受けられます。

 動物に対しては、特に」


 コーラルが持つ手紙を奪い、目を通せば、クリソは楽し気に笑う。


「確認しますが、コーラル。

 王宮への襲撃を提案したのは、ハートリーでは?」


 少しだけ驚いた顔でクリソを見ると、コーラルは小さく笑った。


「同じ轍を踏みたがっているのは、向こうってことね」

「えぇ。この場所も僕らには、お誂え向きです」

「案外ノリ気じゃない。先週までが嘘みたいよ」

「おや、僕らはご主人様の意向には従順ですよ」


 見つめ合うふたりの笑みと言葉は、どうにも仲がいいようには見えず、ダイアも喉の奥で唸るだけ。

 そんなふたりを、コーラルの頭に顎を乗せたまま見ていたアレクは、顎を放すと、コーラルの肩に手をやり、振り始めた。


「ふたりだけずーるーいー!! おーれーもぉー!!」

「うわ、うわわっ! ちょっやめろ! そこ! 笑ってないで止めろ!」

「すみません。アレク。ちょっとコーラルを独り占めしたくなってしまって」

「クリソはいーけどさぁー! コーラルは混ぜてくれていーじゃん!」

「散々人にのしかかっておいてか! あーっ! もうっ!」


 アレクの腕を弾き、振り返れば、アレクを指さす。


「お前は私の傍を離れるな。そして、私を守れ」

「はぁい」


 心底嬉しそうに目を細めた。

 そして、クリソへ目をやる。


「お前はそこまで分かってるんだ。やることもわかってるな」

「はい。心得ております」

「なら、任せた」

「かしこまりました」


 一度、クリソはコーラルへ礼をすると、そのやることのために、森の中に消えていった。


「なんていうか……お前も大変だな」


 つい、そんな言葉を漏らしてしまった。

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