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【完結】人魚は地上で星を見る  作者: 廿楽 亜久
4章 星探し編

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15


「――!!!」


 全身の毛が逆立ち、傍らにいたシトリンが抑えてくれなければ、飛び出すところだった。


「アイツ、アイツらッ!!!」


 鼻についたよく知った匂い。

 アレクとクリソの首は舞台の上を転がり落ちていく。


「誰だ!?」

「あぁ、実に良くない。ダイアく、ん。うん。必要はなかったね」


 シトリンたちに気が付いた従業員たちを、次々と伸していくダイア。獣人の瞬発力でも、遠巻きにいる従業員たちまで倒すのは時間が掛かるだろう。まして、すでに銃を構え始めていては、間に合わない。

 シトリンは杖を取り出すと、魔法を天井のライトに向かって打ち上げると、照明の割れる音と共に辺り一面が闇に包み込まれる。

 突然光が無くなったことに動揺する人の声に、昂る感情を抑えた息遣い。そして、ふたつの瞳が浮かび上がった。


***


 赤黒い染みを作りながら転がったアレクの頭は、ルチルの足元に転がる。


「ハッ! イイ表情(かお)じゃねェか!」


 怒り、焦燥、恐怖が入り混じった表情。

 澄ました表情がようやく崩れた。


「あ゛~~~~気分がいい!! サイッコーの気分だ!」


 コツリと足にぶつかる頭。

 隙あらば暴れては、手のかかった人魚も、今や首と胴が離れる醜態を晒している。若さが欲しい老人共の前で、丸焼きにして食ってやりたかったが、こうして、アークチストの顔が見れたのなら、おつりがくる。


「そら! 近くで見たいだろ?」


 人魚の頭をアークチストの娘に向けて、蹴り寄越す。

 しかし、残念なことに頭は、娘の立つ階段の半分もいかず、跳ね返り、転がり戻ってきた。


「おっと……悪いな。なに、お前がここまで下りてきて、取ればいい話だ。大切なペットなんだろ。なァ?」


 そして、頭を垂れろ。


 お高く留まった連中の頭が、許しを請うように、簡単に踏みにじれる場所に。

 想像だけで涎が溢れて、溺れそうだ。


「困りますね」


 冷や水のような声に、頬が高揚する想像を打ち消される。

 周囲のひどく怯えた目は、こちらを、いや、自分より少し後ろを見ていた。今この場で、最も熱を帯びた情景はここだというのに、ワイプばかりを見る表六玉共め!


「――――は?」


 後ろにやった視線の先に映ったのは、首のない人魚の死体が、こちらへ手を伸ばしている姿。


 ひどい水音と、後頭部に響く衝撃。

 首に加えられる圧力に、酸素を求め喘ぐが、加え続けられる力が酸素を拒む。拒むだけでは飽き足らず、握り千切らんとする力に、細胞が悲鳴を上げる。


―――― 何故


 そんなルチルの疑問は解決することなく、細胞の絶叫を聞きながら意識は暗転した。


 会場は、騒然としていた。首なし人魚が二匹、生きているように動いているだけではなく、自分たちの主人を絞め殺した。

 その事実に、全ての感情が恐怖に塗り替えられる。


「ば、化け物!!」


 誰かが叫んだ。

 首なし人魚に向けられる震える杖たちから魔法が放たれる前に、杖は床に転がり、術者も追いかけるように床に倒れ込む。困惑した表情の獣人の当て身によって。


「ぶ、無事か?」


 困惑しながらも、舞台下に落ちて行った首なし人魚のいた場所へ目をやれば、首を抑えながら、見慣れた人の姿で立ち上がる、いつもの双子の姿。


「無事なわけねーだろ」

「首が離れている状態では、さすがに変身できなくて困りましたね。そこだけは感謝します」

「どういたしまして。うん。今なら、この高揚感でハラサ砂漠を越えられそうだ!」


 首が離れていたにも関わらず、当たり前のように動いていたり、また首が繋がっていたり、実は今まで魔法で幻術を見せられていたと言ってくれれば、どれだけ頭が楽だろうか。

 そういう話は聞いていなかったし、シトリンが双子に回復魔法をかけていたり、回復薬を煽っているのを見る限り、アレは本物だったのだろう。

 首の赤い線が消えると、双子は、帽子を取り出し被る。


「つーかさぁ……こいつ、俺の顔、蹴ったよね?」


 アレクは、足元に転がるルチルを見下ろすと、その頭を踏みつけた。


「頭に上った血、もう少し流した方が良かったんじゃない?」

「あ゛?」

「いえ。少し寂しかったので、代弁してみました」


 いつものように笑みを浮かべるクリソに、アレクが喉の奥で唸れば、困ったように眉を下げ、ニヒルに笑う。


「さて、僕としては、とっとと感動の再会と行きたいところですが……ここにいる方々は、どうやら主人と縁のあるようですし、少しばかりお礼をさせて頂きたいのですが。アレク。お付き合いいただけますか?」

「もっちろん。いいに決まってんじゃん」


 同じ顔が、同じ顔で笑った。


 そこからというもの、今までのことが嘘のような蹂躙だった。金で雇ったであろう腕の立つ魔術師は、依頼者が死ぬと見るや否や、姿を消した。残った使用人たちは、生き返った人魚たちに恐怖し、まともに魔法を使うことすら出来ず、泣いて助けを請うものいた。


「あぁ、よかった。来たみたいだね」


 極めつけが、シトリンが呼んだ保安局。

 黙認されているとはいえ、闇市は非合法。オークションにかけられているものも、非合法で手に入れられた物が多い。


「抜け目ないな」


 これから、このオークション会場のオーナーと保安局、ヴェナーティオで、今後の扱いについて話し合いが持たれ、ルチルはクォーツ家からも見捨てられることになるだろう。

 それが、オーナーにとっても、クォーツ家にとっても、一番被害が少ない顛末だ。


「さぁ、あとはヴェナーティオに任せて――」


 帰ろう。と、ゾイスが言い切る前に、コーラルの体が崩れ落ちた。

 慌ててコーラルを支えるが、刹那、本能的な恐怖が背筋を走る。

 荒く浅い息に、虚空を睨むように歪んだ目は強く光を帯びて、熱を持った光がゾイスの腕を払った。


 まずい。

 離れた腕をもう一度伸ばした時、


「そっちはダメ!!」「そっちはダメです!!」


 アレクとクリソが、コーラルの両腕を掴んだ。

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