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【完結】人魚は地上で星を見る  作者: 廿楽 亜久
4章 星探し編

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07

 そこは体を伸ばすこともできない水槽だった。

 手には行動を制限するための手枷。首には捕らえるための首輪と鎖。魔法を制限するの鎖を使用しているらしく、多少の魔法こそ使えるが、攻撃魔法などの大きな魔法は使えない。


「サイズ考えろよな!? あと酸素!」


 アレクが最もな文句を言いながら、水槽の外にいる人を睨みつける。

 すでに物理的に攻撃して、水槽が破壊できないことは確認済だ。なら、昔のように、無暗に暴れることはしない。それよりも、大人しくして、戦闘の傷を癒して、体力と魔力を回復させた方がいい。


「人間は水の中では息ができませんから、水の中に酸素があることを知らないのかもしれません」

「ふっつーに酸欠で死ぬんだけど」


 いくら枷や鎖をつけるとはいえ、人魚に自由に動けるスペースを与えたくないのだろう。

 結果的に、水槽に入った水は少なく、酸素も少ない。魔法で水槽上部の空気の層から酸素を取り込んでるが、それもいつまで保つか。

 水槽の頑丈さや鎖は一級品のようだが、この捕まえた獲物の扱いの雑さのアンバランスさ。違和感があった。


「考え事? 暇だし、付き合ってあげる」

「フフ、ありがとうございます」


 先ほどまで、不機嫌そうに唸っていたが、どうやらアレクも少し冷静になってきたらしい。


「まず、僕らを襲ってきたのは、十中八九密猟者でしょう」

「だろーね。んで、ここは闇市か、密猟者たちのアジト。まぁ、闇市かな?」

「でしょうね」


 アジトと呼ぶには、人が少ないし、狩猟具もなければ、空の檻ではなく、狩られた獲物の入った檻が多い。

 襲ってきた人数は多かったが、生け捕りの獲物を大量に抱えておくのは、維持費も掛かるし、正規販売ではない分リスクも高まる。向こうは、早く手放して売ってしまいたいのが本音のはず。


「何度か連れ出されていった方々は、おそらく売られたのでしょう。ここで、客のような人を見かけないので、オークション形式でしょうか。帰ってきた方を見ないですから、販売はうまいのかもしれません」

「かもねぇ。1日目に2人、2日目に4人売られてたから、買い取ってすぐ売ってんのかも」

「その方が足が付きにくいですからね」


 だとすれば、いまだに売られていない自分たちは、タイミングを見計らっているのか。もしくは、別の何かを待っているのか。


「解体業者待ってるとか?」

「酸欠で倒れたところにやってくるんですね。では、しばらく、酸欠しているフリでもしてみますか?」

「いーよぉ」


 悪い笑顔を浮かべたアレクは、忙しなく動くと、やがてぐったりとのしかかってくる。


「ところで、この水槽、僕らが稚魚の時に収められていたものに似ている気がしません?」

「覚えてなーい。でも、魔力も感じるし、頑丈そうだし、その辺の檻よりはいいやつなんじゃねぇ?」


 あの時は目も悪かったし、はっきりとそれとわかるほどの目を持っているわけでもない。そもそも、人魚を入れる水槽なんて、捕まっていた時しか見たことが無い。

 カリカリと鱗を弄られる感覚。さっそく飽きてきたのだろうか。

 ちらりと水槽の外に目をやれば、狼狽えた様子でこちらに近づく人。そして、何かに気が付いたように、奥にいる人に何かを叫んでいる。

 防音機能もしっかりしているらしい。


「もし、あの密猟者とこの水槽を用意したのが、この闇市の支配人じゃなかったら……」


 鱗を弄る手が止まる。


「どっちだろうが、ここにいる奴全員沈めて帰る」


 低く怒気をはらんだ声色に、同意した。


 水槽の前で、物々しい防護服を着た人が、最後にヘッドホンをつけた。

 人魚の能力である声を効かないようにだろう。こちらを見守る他の従業員たちも耳栓やインカムをつけている。


「――っ」


 首の締まる感覚。

 今は人に変身している時と違い、肺呼吸ではない分、首が締まったところで、すぐに酸欠になるわけではないが、気分がいいものではない。

 しかし、それは水槽の鎖のつけられた部分へ手を触れる作業員もわかっているのだろう。


「ギュィ゛ッ!?」


 全身に走る電流に体を跳ねさせ、視界が明転する。


 意識が戻れば、水槽には見慣れない苔生した石が入っていた。水槽に酸素を生み出す酸素石だ。

 どうやら、向こうは解体のために弱るのを待っていたのではなく、生かしておきたいらしい。

 まだ眠っているアレクの体には痣があり、クリソが先に意識を失った後もひとり戦ってくれていたことが見て取れた。

 抱き寄せれば、呻く声。


「ごめぇん……失敗したぁ……」

「僕の方こそ。先に気絶してしまって、ごめんなさい」


 動くが億劫なのか、ぐったりと腕の中で目を閉じたままのアレク。


「早く、出ねぇと……」


 解体のためではなく、生かして置く必要がある理由。

 人魚族の特別な存在でもない自分たちを、わざわざ生かしておく必要があるとすれば、それはコーラルに関わることだ。

 それ以外に、自分たちを生きたまま売るわけでも、殺して売るわけでもなければ、価値はない。


「はい。そのためにも、今は体を休めて。その間、僕が考えます」


 この場所から、逃げなければ。逃げられなくても、コーラルへ伝えなければ。

 コーラルはきっと僕らを探す。

 助けに来てほしくはない。けれど、助けに来てほしいとも思う。


――あぁ、本当に。矛盾ばかりだ。

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