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【完結】人魚は地上で星を見る  作者: 廿楽 亜久
3章 人魚の涙編

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05

 見渡す限りの白。


「寒……」


 吐く息もすぐに白く染まる。元より雪が降りやすい森ではあるが、凍り付いた森というのは、やはり異常だ。

 後ろから抱き着かれ、頬に触れる冷たい感触。


「鼻真っ赤じゃん」


 ご機嫌なアレクに頬ずりをされながら、森の様子を見る。

 キャンプ場の管理人が言うには、森の奥が凍り付くことはよくあるらしいが、今年はコテージがある場所まで凍り付き始めているため、困っているらしい。


「こういってはなんですが、人間にこの寒さは堪えるのでは?」

「まぁ、寒中水泳をしたいなんて異常者いないのは確かね。ただ、そうね。寒いからじゃない?」


 意味わかんねーと体重を掛けられ、少しだけ肩を揺らせば、抱き着く腕の力が強まる。


「森も凍えるような寒空に、人がいるわけない。誰もいない、静かな空間っていうのが、たまには欲しいんでしょ」

「コーラルも?」


 不思議と聞かれた言葉に、頭に過ったのは、生々しく覚えている、誰の声も聞こえなくなった屋敷。


「どう、かな」


 理解できないわけではない。きっと、人として誰にも邪魔されないひとりの時間は欲するだろう。

 でも、今は。


 無意識に触れていたアレクの腕をつねる。


「それより、お前、仕事は忘れてないでしょうね?」

「ちゃんと覚えてるって。いたずらしてる精霊、ぶっ飛ばせばいいんでしょー?」


 腕を振り、離れるアレクは、笑顔で首を傾げた。


「うん。もっと穏便にしなさい」


 森と精霊は、切っても切り離せない関係だ。精霊の機嫌ひとつで、森の機嫌も変わる。魔術師なら何とかなるかもしれないが、ここには一般人も立ち入る。

 精霊を怒らせて、人食い森に変貌しました。なんて許されるはずもない。


「では、原因ですね。ここは本人へ直接聞いた方が早いですね」


 当たり前の顔をして、精霊本人へ聞きに行こうとする辺り、このふたりが精霊側の存在であることを痛感する。


「僕が聞いてきますから、アレクは先に行っててください」

「わかったぁ。早く来ないと、コーラル凍えちゃうかもよ?」

「それは困ります。僕が行くまでにコーラルが帰ろうとしたら、足を凍らしておいてくれますか?」

「よく本人の目の前で言ったな。お前」

「大丈夫。薬もちゃんと持ってきてますから。寒さは感じません」


 アレクに渡されている薬が、決して凍傷の薬でも、体を温める薬でもないことは、容易に想像がついた。


***


 管理小屋で、諸注意の書かれた用紙と地図、鍵を客へ渡す。

 服装や持ち物からして、寒空でテントを張って寝泊まりはしなさそうだが、バーベキュー程度は楽しみそうな客だ。


「では、こちらが鍵となります。先程も説明しましたが、今年は例年に比べて寒さが厳しいので、森へ入らないでください」

「わかりました」


 精霊がいたずらしているため、凍り付いた森から出られなくなる危険もあることは、宿泊する全ての客へ伝えている。

 コテージには獣除けの魔法をかけているし、宿泊させるのも凍り付いている範囲から離れたところのものだけ。


 各コテージに鍵がかかった棚に、凍った森のコテージの鍵がひとつ抜けている。


「父さん。12番の鍵ないんだけど」

「言っただろ。魔術師の人に頼んでるって」

「え、来たの? いつ」


 今日は、さっきのグループと子供を3人しか見ていない。先程の客は一般人のようだったし、なによりそんなこと一言も言っていなかった。


「その子供だよ」

「え……親とかじゃなくて? 大丈夫なの?」

「お前なぁ……アークチストのお嬢さんだぞ」

「アークチストって、前に強盗が入ったっていう?」


 あまり魔術師に興味が無いから、詳しくはないが、確か魔術師の中で有名人という話だ。

 呆れた顔の父に、また小言を言われる前に、逃げるように雪かきに出た。


「ん?」


 さっきの客が案内したコテージへ続く道とは別の道へ歩いていく姿。

 表記はあるので、間違えたとは思いにくいが、その方向は凍り付いた森の方向で、一応追いかける。


「あれ? いない?」


 見失うほど離れていたとは思えないが、小道に客たちの姿はなかった。

 小道は整備されていて、道を見失ったなんことはないだろう。一応、周辺を見回るも、姿はない。


「まぁ、大丈夫か」


 きっと、気づかなかっただけで、別の道に行ったのだろうと、諦めて管理小屋に戻る姿を確認すると、木の影から現れた人影。


「状況は?」

「現在、一匹は森の中に。もう一匹は、魔術師と一緒に海辺にいます」

「では、森にいる奴からだ」


 頷くと、人影は森の奥へと消えていった。

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