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【完結】人魚は地上で星を見る  作者: 廿楽 亜久
2章 星祭編

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07

 広げた図面を前に、頭を悩ませながら、お茶に口をつければ、すっかり冷め切っていた。


「……」


 目を前にやれば、連日の準備に追われ疲れた双子が、お互いに寄り掛かり眠っている。

 寄り掛かるというより、絡みついていると言った方が正しいかもしれない。

 アレクがソファに横になり、その足がクリソの膝の上を通過し、その足にクリソが手をかけて休んでいる。

 ふたりの寝姿を見ると、必ずこうして絡むというか、どこか触れ合って眠っている。

 魚は海流に流されないように、岩や海藻に巻き付いたりするという。陸の生活も長くなったとはいえ、そういった危険を回避するために刷り込まれた本能は、簡単に治るものではないだろう。

 そもそも治せと命じたこともない。


「……」


 冷たくなったお茶を一気に煽ると、淹れ直す為に静かにソファを立つ。

 貴族はあまり自分でお茶を淹れることはしないが、アークチスト家は元より保有している財産に価値がある家というより、長い歴史に価値のある家だ。

 特に、コーラルの付き人は、家として繁栄させるつもりのないアークチスト家に危惧し、使用人たちが雇えなくなっても困らない程度には、家事を教えていた。実際、彼女のおかげで、ひとりになった後もコーラルは家事に困ることはなかった。


 大きめのポットに紅茶を淹れ、テーブルに戻れば、こちらを見つめる双子。


「火傷でもすると思った?」

「あんま、離れんな」

「お茶だったら、淹れたのに」


 文句ありげに目を細められる。この寝ぼけている双子の手の届く範囲に行けば、きっと掴まれた挙句、拘束される未来が容易に想像できる。

 向かいのソファに座り、ポットを置けば、不自然な影がポットにかかる。

 顔を上げれば、体を寝転がしたまま、腕だけでこちらへ身を乗り出し迫るアレク。まるで、ここが海の中かのように。


「――クリソ!!」


 アレクがテーブルへ倒れ込みそうになるのと、クリソが襟を掴んだのは、ほぼ同時だった。


「……ごめんなさぁい」


 寝ぼけていたとはいえ、ここは地上。重力がある。あんな風に動いたら、転ぶ。加えて、テーブルの上には、熱いお茶だ。

 

「それで、これは?」


 熱いお茶を飲みながら、図面に目をやる。

 場所は、学院の星祭の会場のようだ。


「学院でやる星祭が、こっちに影響が出ないような配置をね」


 回収している願い石を暴発させるのを防いでいるが、あとひとつ気になることがあった。

 それが、正規に願い石を購入し、願いを込めて、自身で暴発させるという方法。

 そんなことはない思っていた。思っていたのだが、可能性がある人物が出てきてしまったのだから仕方ない。


「例の方々ですね」


 願い石の購入名簿が割り出した人物を、双子には調べて回ってもらっていたが、2人可能性ありと判断された。

 教師には、穏便に済ませるように言われているため、その2人のことや星祭のことはシトリンに任せているが、この双子にやらせれば絶対に早い。


「やりましょうか?」

「そうね……」


 膝の上で眠るアレクの頭を撫で、微笑む。


「いいわ。お前たちは、私の護衛に務めてくれれば」

「しかし、星祭は失敗するわけにはいかないのでは?」

「大丈夫。考えてもみなさい。セレスタイン家が儀式を失敗すると思う?」


 情報さえ伝えておけば、確実に妨害は止めるはずだ。


「だから、私たちは私たちの星祭に備えて、もう寝ましょう」


 ペチペチとアレクを軽く叩き、頭を起こした隙に、立ち上がる。

 すぐに裾を引かれる感覚に振り返れば、寝ぼけた目で服の裾を掴んでいるアレク。


「なに? 一緒に寝たいの?」

「ん……」


 歩けば、生まれたてのひよこのように後についてくる。

 ただし、サイズは自分よりも大きな男だが。


「……当たり前のように入ってきたな」


 ふたりが眠るベッドに、当たり前のように入ってきたクリソ。


「仲間外れなんてひどいじゃないですか」


 しかも、全く気にした様子もなく、布団を被る。

 うっすらと見えるクリソは、やはり少し疲れた表情をしていた。掴まれている左腕はそのままに、右手でクリソの頭に手をやり、撫でる。

 少しだけ動揺した息遣いが聞こえたが、すぐに擦り寄ってくる。


「おやすみ」

「おやすみなさい」

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