↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラズーン 5  作者: segakiyui
10.アシャの封印

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/131

4

「当然じゃないか」

 美しい姫君は人殺しなぞしない。浴室に剣なぞ持ち込まない。怪物が現れれば悲鳴を上げてすがりつき、傷を受ければ痛みに涙を零し気を失う、たとえそこが戦場であっても。

 誰が自分で身を守れる人間を助けようと思うだろう。そう言う人間は守るべき存在ではない、あえて言えば、隣で肩を並べて競うべき人間だ。

「うん、当然のことなんだ。アシャの野郎がああ言うからかいを向けたのは、ほんと腹が立つけどさ」

『…それぐらい元気があれば大丈夫だな』

 にやりと笑ってみせるしたたかな顔。

 あんな危険な任務を背負って、不安そうなユーノを前に、ああ言うふざけたやり方で元気付けてくれたのかもしれない。いつか考えたようにレアナに向けられない想いをユーノにぶつけたのではなくて。

『安心しろ。もう襲わんさ、二度と』

「…もう、二度と」

 ああ言う距離に近づくことは、ない。

「…当然…だ…」

 アシャこそ大変な想いをして敵地に向かうのに、罵られて顔を殴られて。

「………」

 ちゃぷん、と膝を抱えて湯に沈む。

 ごめん、アシャ。

 そうだよな、まず何を言うかなんてはっきりしている。

 お帰りなさい。無事で嬉しい。お疲れ様。それから、ごめんなさい、いつも子どもで、うまく応じられなくて。

「っよしっ」

 ばしゃばしゃと湯を掬って顔を洗い、頭から浴び、わしゃわしゃ身体をこすって一気に湯から上がる。

「しっかりしろ、ユーノ!」

 声を出して叱りつけ、浴室から出た。

「…で、私が着るのはこれ、と」

 この前の、様々なドレスが揃えられた小部屋で、ドレスに背を向け、鏡の近くに重ねられた薄青の長衣、ズボン、紺の短衣などにしゃがみ込む。少年向きの礼装用をミダス公に頼んで揃えてもらった。

「身体を拭いて、髪乾かして」

 ごしごしと布で身体をこすり、下着もつけないまま髪を拭きにかかる。ちらりと鏡の中に視線を投げ、口を強く結んで向き直り、自分の裸身を睨みつけた。

「覚えておくんだ、ユーノ」

 低く呟く。

「これがお前、セレドの第二皇女、ラズーンの正統後継者候補、ユーノ・セレディス。これが他の誰でもない、私自身なんだから、ばかな後悔なんか、絶対するなよ」

(するものか)

 響くように、胸の内側で声が応じた。

 するものか。後悔など、ただの一瞬だってするものか。この道を選んだのは自分、ここまで生きて来たのは自分、たとえ、この先にどんな果てが待っていようと、一瞬だって振り返るものか。

(たじろぐな。ユーノ・セレディスの名にかけて)

 長衣をまとい、腰のところで紐を結ぶ、ズボンを押さえつけるようにしっかりと。その上から短上衣を羽織り、首のところ、胸元2ヶ所、腰の4ヶ所で銀の飾り紐を結ぶ。両方の袖の手首も同じような飾り紐で巻き、小さな銀の留め金にかけて留める。

 鏡の中には1人の少年がいる。蒼の礼服、肩に触れるか触れないほどの焦茶の髪、額に透き通った『聖なる輪』(リーソン)、腰には『泉の狩人』(オーミノ)から渡された剣を下げている。

 に、と不敵な笑みを浮かべた。

(よし、行け)

 屋敷が不意にざわめきを増したようだ。ぱたぱたと駆けてくる軽い足音、レスファートの嬉しそうな声が聞こえる。

「ユーノ!! アシャ、帰ってきたよぉ!!」

「今行く!」

 ユーノは顔を振り上げ、身を翻した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。