第一話
ワァアアアアアアアアア…
「今大会もまたチャレンジャーを下し勝利したのは我らが今代アルマトリオ、ダリアナスクラムのアルゴシュタインーーー!!」
司会の男であろう声が街の外まで響いてくる。
「見たかったなぁ…。」
ため息とともに漏らす正直な心中を隣を歩く少女が詰る。
「あのねぇタツキ…気持ちはわかるけどまた関所で面倒になるんだから早くアレ出しときなさいよね。」
そう、必ず面倒になるだろう…これまでの道のりで幾度となくそうなったが、避けようがない。
肩から下げたバッグを漁りつつ、歩を進める。関所に到着すると警備トリオの1人がこちらに来る。
「身分証の提示を。それと荷物を検査するからマントは一度取ってね…この街は初めてのようだね、ようこそアンスリアへ!…うん?後ろの彼は…っっ!お前!!何故死体を背負っている!!」
「すいません死体じゃないです生きてるんです!これを読んでください!」
「そんな訳がないだろう!明らかに上半身しか…それはブーゲンスクラムの紋章か…?」
このくらいの面倒にはかなり慣れた…しかしこの手紙がなければ道中巡回中の警備トリオに詰め寄られた時ももっと時間を取られただろう。もっとも大会を見ることはできなかったが…。
「ふむ…彼がどんな状態なのかは私達には計れないが手紙はブーゲンスクラムからのもので間違いないようだね…正直このまま街に入れると混乱が起きる可能性がある、一度真っ直ぐ宛名のダリアナスクラムまで向かってもらいたいが少し遠いな…術駆動で送っていくから少しここで待っててくれ。」
「ふーよかった。タツキ、あんたかなり手際良くなったわね。手紙見せるタイミングとか!アハハ!」
「慣れたって嬉しくはないよ…。」
送ってくれた警備トリオの術駆動を感謝を伝え降りると物凄い喧騒が目の前の巨大にそびえる真っ赤なテントから漏れ聞こえてくる。…少し入るのを憚られるが意を決して飛び込む。ー信じられない、およそ外観がテントだったとは思えない光景が広がっていた。2階、いや3階もありそうだ、地下に続く階段も見える。
「クゥー!惜しかったなぁ!今回はフリーズフリオも準決くらいまで勝ち進むと踏んでたんだがなぁ!」
「仕方ねぇよ3回戦でアルゴはツキがなさすぎたな。同じスクラム同士が当たる確率も結構なモンだからな。」
「お前らが素直に応援しろよな…仲間の試合で賭けるなよ全く。」
「仲間の試合だからこそ賭けが割れて面白いんだろうが。そういやなんでお前今大会は欠場してんだよ?」
「それはもちろんウラク…「んー?君達はなに?知ってると思うけど今私達ダリアナはお祭り中なの!急ぎの依頼なら街の反対にあるレチススクラムに行くのが手っ取り早いと思うよー?」
ーなんだ? ー大会の日にウチに依頼持ち込むヤツなんているか? ー大会知らないとかないよね?
入り口近くで圧倒され2人して呆けているとなんだか軽そうなお姉さんが話しかけてきてくれた。それで気付いたのか四方から視線が飛んでくる。
「あ…あのこれを…」
手紙を渡すと彼女は暫く読んだ後、こっちの方…いや正確には僕がマントの下に背負っている腰から下が無い仲間を一瞥すると奥に通してくれた。案内されたソファに腰掛けて一息つく。
「事情はうちのボスが聞くから少し待っててね〜あ、私はビスカ!このスクラム、ダリアナのメンバーだよ〜
君達3人組みたいだけどトリオ組んでるんだよね?」
「あ、どうも…僕はタツキ、隣のこの子がエナ、そしてこの彼がヤマツ…です。そうです…いや、正確には組んでいました…ヤマツがこうなる前まで…」
「ふむ、成る程な。面倒事を押し付けられたかな。」
!!急に目の前のもう一つのソファに大きな…人が現れた。彼女の反応を見るに彼がここのボスなのだろう。同じ人間とは思えない体躯と威圧感が形を成したかのような立派な口髭を蓄えている。
「ワシはサボン。わかるだろうがここのボスを務めておる。自己紹介はいい、大規模スクラムのボスには各テントにいる間は中の事は大方把握できる術具が支給されるのだ。その手紙を見せてくれるか?」
テントは建物なのか?という疑問はあるがここに関しては間違いなくそうだろう、なんてことを頭の片隅で思ったがひとまず置いておいて手紙を渡すと、彼は持ち前の髭をさすると話し出す。
「ふーむ、後ろの彼…ヤマツだったな、彼を治す為にここまではるばる来たようだが、ワシらには彼が失った半身を復活させる事は出来ない。」
「そ…うですか…正直期待より諦めが大きかったので…でも意識は無くても生きてはいるので一度今までお世話になっていたブーゲンスクラムに戻り彼を預けてまた何か方法を探しに…」
「いや、彼に意識はあるだろう。それに、もうブーゲンに彼を預る余力は無いのかも知れない。治すだけなら彼らも努力していただろうし、ウチの術師に期待しているなら呼べばいいだけだしな。」
「い…意識があるって!どういう…」
萎縮していたのかスクラムテントに入ってから口数が減っていたエナが叫ぶと彼は続ける。
「意識はあるだろう、生体術具を使ってこうまで完璧に生理機能を支えの術師無しで行うのは案外難しい。勿論術具の性能もあるだろうが意識的に行っているだろうな…今は意識を外に伝える事が出来ないのだろう。ふむ…内臓が動いている以上他が動かないのは案外精神的な物かも知れんな、半身を失うショックなぞ計り知れん。」
「あの〜ボス?それじゃモミ連れてくる?精神系ならもしかしたら!」
「そうだな、頼む。モミはうちでもかなりの腕を持つ術師だ、もし精神的なものなら試す価値は十分ある。」
彼らの言葉ははるばる旅をしてきた僕達にとって、希望そのものだった。
初投稿です。誤字脱字、改善点等至らない点が沢山あると思いますが都度ご指摘お願いいたします。
一日の大半を寝て過ごしているのであまり高頻度での更新は難しいかも知れませんが折角一話出来たので続けられたらなと思います。