『関心領域』
【作品情報】
原題:The Zone of Interest
製作:2023年/105分/アメリカ・イギリス・ポーランド
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル/ザンドラ・ヒュラー/ラルフ・ハーフォース
ジャンル:お察しください、人類はクソです系前衛芸術
(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)
【ざっくりあらすじ】
舞台は第二次大戦中――
アウシュヴィッツ収容所のお隣の豪邸に暮らす、司令官のルドルフ一家。
彼はお喋りでまあまあ粗野な妻ヘートヴィヒと、5人の可愛い子どもたち(+使用人たち)と共に、素敵なお庭のあるお家で楽しく暮らしていた。
しかし仕事ぶりが認められた結果、ルドルフは栄転&本国ドイツに戻される羽目に。
「せっかく3年かけて、こんな綺麗なお庭にしたのに!あなた、独りでドイツに戻りなさいYO!」とゴネる妻を御しれなかったルドルフは哀れ、ドイツへ単身赴任。
それでも胃痛や睡眠不足に見舞われながらも頑張り続け、遂には出世&愛するマイホームに戻れることが決まった。やったねルドルフ!
――という家族のよくあるすったもんだの裏側というかお隣では、毎日悲鳴と銃声が聞こえて人が焼かれ、使用人たちのメンタルもギリギリなんすわ!クソが!!
【登場人物】
ルドルフ:
軍馬として騎乗している馬さんにはめっちゃ懐かれ、そして初対面のワンコにもデレてもらえる天然テイマー。でも立ち姿がだらしない。腹筋に力を入れろ!
本作の原作小説では架空のナチス将校が主人公だったらしいけど、映画では実在したルドルフ・ヘス中佐に変更されたそうで。
なお、オードリー春日さんの上位互換みたいな髪型も、当時の写真を見る限り本人準拠っぽい。ドイツまたは軍での流行りだろうか。
ヘートヴィヒ:
ルドルフの奥さんで、歩き方がせんべろした後のオッサンみたいな堂々たるガニ股。股関節と体幹、鍛えんかい!
彼女のお母さんは元掃除婦なので、どうやらあまり裕福な家の出ではない模様。超玉の輿じゃーん。
そんな出自+都会育ちで田舎への憧れが強いため、自宅のお庭への執着心がエグい。
ヘートヴィヒのマッマ:
娘とは離れて暮らしており、途中で家に泊まりに来る。
が、昼夜を問わず燃えてる収容所の焼却炉の炎や悪臭にダウンし、置き手紙を残してこっそり家を去る。正しい判断です。
二人の子どもたち:
息子コンビはナチスの選民思想にどっぷり浸かっており、ユダヤ人のご遺体から引っこ抜かれた歯で遊んだりしている。
娘コンビは印象が薄いものの、片方のインゲちゃんが夢遊病持ち?ちょっと情緒不安定なのだろうか。
そして残りの性別不明の赤ん坊は、アル中で病んだ感じの乳母さんに面倒を見てもらっているけれど、いつの間にかフェードアウト。ねえ、なんかあったの!?
マルタ:
一家の下で通いの使用人をしている女の子。
収容所のユダヤ人のため、立入禁止エリアにまで侵入してせっせと食べ物を置いている善性の塊にして人類の希望。
なお彼女の活躍シーンは全て暗視スコープみたいな映像のため、顔が非情に分かりづらい。
そしてそんな活躍と一緒に語られる、グリム童話『ヘンゼルとグレーテル』の魔女焼却シーンが意味深ってか直接的過ぎィ!
【感想など】
前衛が……前衛が過ぎる……!
映画が開始して1・2分ぐらい真っ暗な画面がずっと続いた時点で、「なんかこの映画、思ってた以上にヤバいかも」と身構えたらその通りでした。ヤバい。
さすがはジャミロクワイのあのPVを撮った監督。
そんなわけで一度観ただけどころか、何度観ても「んん?」となるシーンがあるかと思うので、鑑賞後に映画サイト等での解説も併せ読むことをオススメいたします。
私もそうしたよ。だってなんで暗視スコープ映像なのか、意味わからんし。
映画紹介サイトなどで
「平和な家族の暮らしから見切れる形で、ユダヤ人虐殺が匂わされている」
という事前情報だけは入手していたのですが。
いや、見切れるとかいうレベルじゃねぇんだわ。姿は見せずとも、悲鳴と悪臭をプンプン漂わせてんだわ。
妻ヘートヴィヒがウキウキで毛皮のコートを試着してるなぁ、と思ってたらポケットから使いかけの口紅が出てきて「あ……」となり。
下働きっぽいお兄さんが軍靴を洗ってるところをよく見れば、ブーツが血まみれで再び「あ、あ……」となり。
そしてルドルフと子どもたちが川で遊んでいると、白い灰と一緒に骨が流れてきて「ああ、ああ……」ですよ。
観るともれなくカオナシになれます。
そしてシンプルにヘートヴィヒの性格が悪いので、プラスアルファで「このクソアマァ!」と怒れること間違いなしです。
ユダヤ人虐殺への無関心さ云々以前に、ルドルフが疲れてるのに気付かずガンガン話しかけたり、本人にもどうしようもない転属の件で詰めまくったり、使用人のマルタちゃんに八つ当たりしたりとか、そういうもっと基礎的なトコがね。
ルドルフ、この人のどこが良かったんだい……?
ただそんな、女の趣味に難ありなルドルフに関しては、あまり嫌悪感がなくて。
私生活では口下手で、クソ嫁に押されまくりな情けなさとか、動物にむちゃ甘い一面とか、子煩悩なところとか、そういう可愛げが結構描かれているのよね。
家族の中で唯一ユダヤ人虐殺に直接携わっているので、罪悪感……までは行っていないけれど、収容所という存在に不快感は覚えてそうだし。本人が自覚してるかはともかく。
うーん……夫婦での性格描写の格差が酷い。
ま、現実で悪人として裁かれたのはルドルフの方なんですけどね。ユダヤ人殺害や焼却の主導者でもありますし。ついでに職場に、街娼らしき女性も呼んじゃってるし。
うーん、プラマイゼロ!ってか職場で致すな!
監督の意図に沿ってるのかどうかは分からんのですが(なにせ画面構成含め、全てが前衛過ぎるので)、こんな愛すべき一面も持った不器用オジサンだって、状況が揃えばガンガン人を殺すんだよねぇ……と思い知りました。
怖いよう、人類怖いよう……あとエンドロールの音楽が、その辺のホラー映画を凌駕する怖さだよう……何なのアレ……
「興味あるけど、本編まで観るのはちょっとハードルが高い」って方は、ぜひこのエンドロールだけ観て。一番意味不明で怖いから。
自分のようなヘタレでは、この人たちと同じ状況下に置かれても、虜囚の人々に食べ物を届けるマルタのような勇気を絶対に持てない!という謎な自信があるけれど。
でもせめてヘートヴィヒのマッマやマルタの家族のように、ユダヤ人が焼かれる炎を見て、吐き気や嫌悪感を覚えるぐらいの良心は持っていたいであります。