7手詰めクエスト~将棋でオレtueeeしたいんだよ!!~
よろしくお願いします。最近、将棋ウォーズから24に鞍替えした作者です。
ーー目覚めよ。
・・・・いやだ、寝る。
ーー目覚めるのじゃ。
・・頼む、頼むからもう少しでいいから寝かしてくれ。
ーーいい加減に目覚めよ。
ガシャン、
オレは寝ぼけ眼で枕元にあった目覚まし時計のアラームのボタンを苛立ちとともに叩きつける。そうして目をこすりながら時刻を確認すると朝の5:30だった。
誰だ、こんな時間に起こしやがったのは、
布団をかぶったまま上体だけを起こし辺りを見回すと空中に見慣れない奇妙なものが浮いていた。
・・なにかの本、なのか?
夕暮れを思わせるオレンジ色の表紙に文庫本サイズの長方形がパラパラとページをはためかせながら何事かを言っている。
『われの名は7手詰めの精霊。この世界の7手詰めを統べる王たる存在じゃ。』
・・なんなんだ、この本は。
よく見ると表紙には"7手詰めハンドブック"著 浦野真彦 と書かれている。
「もろに市販品じゃねーか。よくそんな姿で王とか名乗って出てこれたな。」
『ぬ、何を言うか、たわけ者が。この7手詰めハンドブックこそが将棋を極めるうえで最高のバイブルなのじゃぞ。プロ棋士も、そこそこ強いアマチュアもみんなこの本を解いておるんじゃぞ。』
「うるせー、こんな朝っぱらから出てきやがって。帰れ。」
フッ、その本はなにやらオレのことを鼻で笑うともったいをつけて言った。
『知っておるのじゃぞ?』
「何がだよ?」
『いや、ネットで将棋を指してて、あれ、オレって相当に将棋強いんじゃね?とか思って家から最寄りの将棋道場に行って、小学3年生の女の子にボコボコにされてメンタルを崩壊させていたのはお主ではなかったのか?』
「なっ、なぜそれを!?」
『なかなかに愉快であったぞ。いつ見てもよいものじゃな、井の中の蛙が大海の中で溺れれいる姿というものは。』
「ふん、負けているのは今だけさ。いずれはあの道場にいる全員に勝てるくらい強くなってやるさ。」
『どうやってじゃ?そんなことが無理なのは昨日、ぼろ雑巾のように捻り潰されたお主が一番よくわかっているはずだがな。』
くっ、確かにこのふざけた本の言う通りだ。正直、あの道場にいる子供たちは指す将棋の次元が違った。ゲームとしての将棋じゃなくて競技として、何か譲れないものとして将棋を指している感じだった。
オレが小学生の時なんて毎日をひたすら惰性の赴くままに友達とゲームしたり漫画を読んだりすることが当たり前、それが日常だった。
しかし、あそこの小学生たちは違う。将棋なんだ、遊びが、日常が。
今までオレが漫画やゲームで費やしていた時間をあの子たちは今、将棋に使っている。弱いはずがない。
『諦めるのか?始めるのが遅かった、自分には才能がなかったと言い訳をして。』
そんなオレの様子を見て本はオレに問いかける。
「いや、ぜんぜんそんなこと思わないよ?むしろ、そんなに小さい頃から将棋指してる子供を、ぽっと出のオレが将棋でぶちのめせたら最高に楽しいと思わない?」
『フッ、なかなかいい性格しておるな。やはり我の見込んだ通りじゃ。お主、我を手に取るがいい。』
「・・それ、定価いくら?」
ーーゴンッ
なにか固い角で頭を殴られた感触がしてオレの意識はそこで途絶えた。
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・・ああ、この音だ。
起きたくなんてないが起きざるを得ない時間が来たことを毎朝オレに無情にも告げてくれる目覚ましのアラームの音がオレの部屋の中に響く。
ーーガシャン
今日もこの一日の始まりの時間が来てしまったことを感謝しながら、その苛立ちをぶつけるようにして目覚ましのアラームボタンを押す。
日付を見ると7月14日の日曜日だった。
目覚ましをかけて平日と同じ時間に起きてしまったことに損した気分になりながらも、枕もとのスマホを探ると何やら見慣れない本が転がっている。
オレンジ色の表紙に"7手詰めハンドブック 浦野真彦"と書かれた本だ。
寝ぼけた頭でパラパラとぺーじをめくる。どうやら漫画でいうところの「フッ、貴様はあと7手、7手後に死んでいる。」みたいな展開を将棋のなかで味わって読者が悦に入ったり、単純に将棋の実力をつけるための参考書としての本のようだ。
少しやってみるか、
そうして適当なページの右端にある問題に目を向ける。なんだ、意外に簡単そうじゃないか、そう思って詰みの局面をイメージしているとなんとか解くことができた。
たった一題解くだけなのに割と疲れる。しかし気づけば次の問題を解いていた。
自然と次の手、数手先の局面を頭のなかで描いているのが自分でもわかる。なんとなく中盤の入り口や終盤で先の展開をイメージする感覚に似ている。
これはいいかもしれない、そんなことを思いながらオレは詰将棋にのめり込んでいった。
部屋から少し離れた本棚では最近オレが購入したラノベが積み重ねてあった。
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