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後編

 このエッセイは前後編に分かれています。


 まだ前編をお読みでない方は、前編から読むことをお勧めします。

 オッス、オラなろう作家。メガヒット小説書いて、書籍化、漫画化、アニメ化でウハウハ印税生活がしてぇぞー。(CV アイデンティティ田島 直弥)


 と、お思いの欲深いなろう作家の皆様(我が同志よ!)、朗報です!


 当エッセイのテーマはタイトル通り、経済の視点から過去に社会現象にまでなったヒットアニメと当時の世相を読み解き、次にヒットする主題が何になるかについて解説していくものとなっております。


 なろう読者の皆様におかれましても、新鮮&アナタの心にジャストフィットするネクスト作品が何なのかを知る手掛かりとなっております。だから帰らないでね!


 それでは、後編を始めて参りましょう!







 ◇◆◇ 失われた20年におけるサバイバル術 ◇◆◇




 前回はバブル崩壊によるセカンドインパクトで悲惨なことになった日本経済と若者の悲しい現実について解説したわけですが、その後の日本経済はどうなったでしょう?


 結論から述べると、全然良くなりませんでした。


 日本経済は失われた10年と呼ばれていましたが、とうとう20年コースへと突入してしまいました。日本の経済大国としての地位はズルズルと下がり続けていきました。


 そんな閉塞感が支配する暗い世相の中、メガヒットしたのが、


『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年初放送)と『らき☆すた』(2007年初放送)でした。


 一見すると対照的な作風に見える2作品ですが、ある共通点がありました。


 それは――、


『閉塞感漂う苦しい現実を如何に生き延びるか?』


 なのです。


 そもそもですね、大人は(私も含めてですが)中高生くらいの若者に対して『彼らは元気いっぱい夢いっぱいなんだろうなぁ』と、勝手な想像をしがちなのですが、果たしてそうなのでしょうか?


 ここに一人、日本の若者を取り巻く現実に対し、大きな不満を抱く少女がいました。


 少女の名は涼宮ハルヒ。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公です。


 彼女が生まれた時から日本はずっと不景気の中にありました。彼女の両親はバブル崩壊前に就職したお陰で家計はまだ安定していましたが、昔の様に給料が増えていく状況にはありませんでした。


 彼女の両親よりもう少し後に生まれた世代は『ロストジェネレーション(失われた世代)』と呼ばれ、新卒で正社員になれなかった人たちの多くが、安定しない非正規雇用地獄の中でもがき苦しんでいました。


 日本経済は未だ出口の見えない真っ暗で長いトンネルの中にあり、彼女は今後、自らが進んでいくであろう未来を思うと憂鬱になるのでした。


 思わず目を背けたくなるような現実を前に彼女は呟きました。


『宇宙人とか未来人とか異世界人とか超能力者とか何処かに居ないかなぁ。はぁ~。現実つらたん。ラノベの世界にいと行きたし……』


 『涼宮ハルヒの憂鬱』という作品はややこしそうに見えて、ストーリーの基礎の基礎、コアとなる部分はかなり単純にできています。


 『現実つら過ぎ~。ラノベの世界に行きたしぃ~』


 と現実逃避の妄想を垂れ流すハルヒに対して、


 『寝言は寝てから言いなさい!』


 と、語り部であるキョンがツッコミを入れます。


 この夫婦(めおと)漫才みたいな展開が『涼宮ハルヒの憂鬱』の本質なのです。


 実際、ハルヒは物語の終盤で、今生きている現実を放棄し、ラノベのような空想まみれの異世界に旅立とうとします。(結果的には、キョンの盛大なツッコミによって阻止されるのですが……)


 こうして考えてみると、『涼宮ハルヒの憂鬱』って精神衛生上、あまり健康的とはいえない作品ですよね。


 しかし、この作品は現在大量に生み出されている異世界転生物語ブームに繋がる重要な作品となりました。ハルヒ自身は異世界へは旅立ちませんでしたが、彼女が異世界へと繋がる扉の鍵を最初に開いたのでした。




 一方、『らき☆すた』の主人公、泉こなたがとったサバイバル戦術は、


 『魔法は無くても、等身大の日常だって楽しいよ?』


 でした。


 つまり、


 『バスケで目指せ、高校日本一!』みたいな大きな夢を追わなくてもいい。学校で友達と他愛もないおしゃべりで盛り上がったり、大好きなアニメイトに通ったり、教室の窓から見える青空と高圧線と鉄塔の作り出す一編の詩のような風景にちょっと感動したり、そんな小さな日常の幸福を大切にしていけばいいんだよ。


 ってことなのです。


 まとめ。


 『涼宮ハルヒの憂鬱』と『らき☆すた』がヒットした理由は、厳しい現実を生き延びる為のサバイバル術を提示したから。その手法の違いは、

 

 『涼宮ハルヒの憂鬱』――辛いなら夢(妄想)の世界へ行ってみませんか?

 『らき☆すた』―――――身近にある幸せを大切に!


 でした。







 ◇◆◇ 現実と戦う? それとも逃げる? ◇◆◇




 とうとう現代に追いつきました。


 『涼宮ハルヒの憂鬱』の時代に比べて日本経済はさらに悪くなっていました。


 GDPも中国に抜かれ、世界第3位に転落しました。『社畜』なんて諦めと自虐のこもった言葉が一般的に使われるほど、人々の心が疲弊した時代になってしまったのです。


 そして、禁断の扉『異世界転生』をくぐり、異世界(あの世)へと旅立つ者が現れました。


 『ソードアートオンライン』(2012年初放送)と『ログ・ホライズン』(2013年初放送)の誕生でした。


 この2作品がヒットした理由については皆さん思うところが多々御有りになることと推察しますが、私個人の見解としては、


 『俺たちが本当に行きたかった異世界は、ゲームの中にある異世界だ!』


 という潜在的欲求を満たしたからなのだと考えています。


 もう少し詳細に述べると、


 私たちが望んでいた異世界は『ロードス島戦記』の世界ではなく、『ロードオブザリング』の世界でもなく、『ドラゴンクエスト』を源流とするゲームの中の異世界。

 子供の頃に遊んだ、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』や『テイルズ』や『ファイヤーエンブレム』の遺伝子を受け継ぐ世界なのです。


 そう考えると、現在も『小説家になろう』で大量生産されている異世界転生モノの多くに、レベルやスキルといった概念が導入されていることにも納得がいきます。




 さて、ここで近年のヒット作としては傾向の違う作品を一つ取り上げなければなりません。


 それは『進撃の巨人』(2013年初放送)です。


 この作品もまた『新世紀エヴァンゲリオン』と同様、多元的な解釈を可能にする複雑なストーリーのため、論じることが容易ではないのですが……、


 私なりの解釈、それもTVシリーズ第1期のみを独立した一つの作品として見た場合、この物語は、


 『瀕死にある日本社会にあって、死に抗い世界に立ち向かおうとする青年(企業)の物語』


 となります。


 『進撃の巨人』では最初、人類の生存圏は三重の壁に囲まれたわずかな範囲に限定されています。


 これは、世界で日本の製品が売れなくなり、『ガラパゴス化』と揶揄されていた頃(『涼宮ハルヒの憂鬱』の頃ですね)の日本に似ています。日本製品は海外では売れなくとも、まだ国内では売れていたので、深刻に考える人は多くありませんでした。


 ところがある日、超大型巨人が現れ、三重の壁の一番外側にあるウォール・マリアを破壊してしまい、結果、人類は生存圏をウォール・ローゼまで後退せざるを得なくなります。


 この部分は、アップルやサムスン、LG、ダイソン、アイロボットなどの海外の家電製品や、アマゾンなどの超巨大ネット通販企業が日本に上陸してきた状況と重ねて見ることが出来ます。


 主人公、エレン・イェーガーは人々に向かって叫びます。


『外の世界が怖いからって目を背けて震えていても、俺たちは絶対に勝てない!』

『俺は現実から逃げない!俺は一人でも外に出て巨人と戦うぞ!』


 はっきり言ってエレン・イェーガーは強くありません。

 戦闘力ではリヴァイ兵長やヒロインであるミカサより劣るザコです。


 しかし、彼の巨人と戦おうとする意志は揺るぎもしません。


 そんな彼の強固な信念が奇跡を呼んだのか、彼は巨人への変身能力を手に入れ、ウォール・マリア奪還に成功したのでした。


 私なりの解釈では巨人とは企業の比喩となります。


 この考え方を適用すると、最終話で登場した壁の中に埋め込まれていた超大型巨人は、世界で大活躍していた嘗ての日本企業の姿となります。


 とまぁ、こんな解釈も成り立つよ!って程度に考えておいて下さい。


 まとめ。


 『ソードアートオンライン』と『ログ・ホライズン』がヒットしたのは、『俺たちが本当に行きたかったのは、嘗てゲームを通じて体験した異世界!』という潜在的欲求を掘り当てたから。


 『進撃の巨人』がヒットした理由は、苦しい現実から目をそらさず立ち向かう主人公の姿に、多くの人が共感したから。





 ◇◆◇ 圧倒的な現実は、妄想への逃避を許さない? ◇◆◇




 あともう少しで結論部分です。


 このエッセイを書くにあたって、過去にヒットしたアニメを分析してみると、ある程度の法則性が確認できました。


 それは、


 『大規模自然災害や経済危機が発生すると、セカイ系の物語が流行る』


 という法則です。


 『新世紀エヴァンゲリオン』がヒットしてから数年間は雨後の筍のようにセカイ系アニメが量産されたので、この時期だけはちょっと例外なのですが、すっかり廃れてしまったかに見えるセカイ系が突如息を吹き返す瞬間が、この20年程の間に何度かありました。


 論より証拠。下記の年表をご覧ください。


 1995年、『阪神大震災』発生。ヒットアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』

 2007年、『新潟中越地震』発生。ヒットアニメ『ぼくらの』

 2008年、『リーマンショック』発生。ヒットアニメ『とある魔術の禁書目録』

 2009年、リーマンショックの余波がまだ残る。ヒットアニメ『化物語』『東のエデン』

 2011年、『東日本大震災』発生。ヒットアニメ『STEINS;GATE』『未来日記』

 2016年、『熊本地震』発生。ヒットアニメ『君の名は。』『僕だけがいない街』


 『東のエデン』をセカイ系にカテゴライズしてもよいのか、ちょっと迷うのですが、『僕だけがいない街』は『STEINS;GATE』と同じ物語構造なので、セカイ系に含めても大丈夫でしょう。


 『君の名は。』が何でセカイ系なの?というご意見もあるでしょう。しかし、思い出してみてください。あの作品って、主人公の瀧くんと三葉以外の登場人物はほぼ書き割り同然で、妙に閉塞感を感じさせますよね。


 人間関係がやたら狭い範囲でまとまっているのはセカイ系の大きな特徴の一つです。この点に於いて『君の名は。』は(一応)セカイ系に分類出来るのです。(そもそも、新海誠監督の過去作品ってセカイ系ばっかりですが……)


 『異世界転生』や『日常系』のヒット作は、基本的に上記以外の年に流行しています。


 要するに、私たちの生活を脅かすような惨事に直面すれば、流石に現実逃避なんてしていられないってことなのでしょう。


 しかし、2016年だけはちょっと違います。


 この年は『熊本地震』が発生したにもかかわらず、異世界転生モノである『この素晴らしき世界に祝福を!』と『Re:ゼロから始める異世界生活』がヒットしたのです。


 この事実をどう解釈すればいいのか大いに迷うのですが、


 仮説その1


 『近年多発する大規模災害と比較して『熊本地震』なんてまだまだ大したことじゃない』


 仮説その2


 『私たちは不幸に慣れ過ぎて、何も感じなくなってきている』


 等が考えられます。



 あと、『懐古系』とも呼べる作品がたま~にヒットすることがあります。


 『懐古系』とは、『まだ幸せだった頃の日本を連想させる作品』と私は定義しています。


 具体例をいくつか紹介しましょう。


 『それでも町は廻ってる』――まだ商店街に活気が残っていたあの頃。

 『のんのんびより』――昭和の香り漂う田舎で小学生がスローライフ。

 『ハイスコアガール』――スト2が発売されたあの頃はまだ夢があった。

 『君の名は。』――80年代のトレンディドラマを現代リメイク。


 と、こんなところでしょうか?


 アニメじゃなくて実写映画ですが『ALWAYS 三丁目の夕日』なんてモロに『懐古系』ですよね。



 まとめ。


 大規模自然災害や経済危機が発生するとセカイ系がヒットする。(ただし、近年はその傾向に変化も?)







 ◇◆◇ 次にヒットするのは〇〇系だ! ◇◆◇




 これまで自説を前後編に渡ってぐだぐだと並べてきましたが、そこから得られる未来予測としては、


 大規模自然災害や経済危機が発生すれば、


 『セカイ系』 が流行る。


 特に何も起こらなければ、


 『異世界転生』か『日常系』 が流行る。


 と言えるでしょう。



 しか~し、安倍政権による経済政策の影響か、近年、労働者の雇用環境は改善しつつあります。デフレ脱却は未だ達成されていませんが、もし、これが成し遂げられたなら、日本は遂に暗いトンネルを抜け、日の光が差す世界に戻って来れるかもしれません!


 もしそうなれば、『セカイ系』や『異世界転生』や『日常系』なんて全く流行らなくなってしまうでしょう。


 じゃあ、その時はどんな物語が流行るのでしょう?


 恐らくは、若者が大きな夢を追う物語がヒットすると予想されます。


 2018年にヒットした『宇宙よりも遠い場所』は女子高生たちが南極を目指すという、まぁまぁ大きな夢を追う物語でした。


 これは、ひょっとしたら、日本経済が復活する兆しなのかもしれません。(できればそうあって欲しいですね)



 最後のまとめ。


 Q:メガヒット小説書いてウハウハ印税生活したいです。何を書けばいいの?


 A:自然災害とか経済危機が来ると思うなら『セカイ系』を書きましょう。

   低空飛行の不景気が続くと思うなら『異世界転生』か『日常系』を、

   日本経済が復活すると思うなら、若者の『成長物語』を書きましょう。



 皆さま、長らくお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。なろう作家の皆さまの中から、一人でも多くのウハウハ印税生活者が出ることを、読者の皆さまには、貴方の心に届く新しい物語と出会えることをお祈りして、締めの言葉とさせていただきます。


 それでは、また次回作でお会いしましょう!

ご意見ご感想をお持ちしております。(気楽にガンガン書いてね!)


あと、前作


異世界転生モノって、要するに『ボクの考えた最強の天国(あの世)!』だよね?って話。


https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1308081/


も、よろし御お願いします。



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