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前編

 オッス、オラなろう作家。メガヒット小説書いて、書籍化、漫画化、アニメ化でウハウハ印税生活がしてぇぞー。(CV 野沢雅子)


 と、お思いの欲深いなろう作家の皆様(我が同志よ!)、朗報です!


 当エッセイのテーマはタイトル通り、経済の視点から過去に社会現象にまでなったヒットアニメと当時の世相を読み解き、次にヒットする主題が何になるかについて解説していくものとなっております。


 なろう読者の皆様におかれましても、新鮮&アナタの心にジャストフィットするネクスト作品が何なのかを知る手掛かりとなっております。だから帰らないでね!


 それでは、さっそく始めて参りましょう!







 ◇◆◇ 『乾いたところに火をつける』 by 山田玲司  ◇◆◇




 単なるヒットではなく、社会現象になるようなメガヒットを生み出すにはどうすればいいのか?端的に言ってしまえば、『まだ顕在化していない人々の欲求に応える作品』を提供することです。


 これを指して漫画家の山田玲司さんは、


『乾いたところに火をつける』


 と表現しました。


 多くの人々が心のどこかで思っているんだけど、それがはっきりと意識されていなくて、


「あーじれったい!モヤモヤする~!」


 と渇望しているところに、その思いを汲み取った作品を提供する。そうすれば爆発的大ヒット!社会現象化し、ウハウハ印税生活となるのです。







 ◇◆◇ まずはヒットの歴史を知ろう! ◇◆◇





 では、現代の人々が何に渇望しているのでしょう?


 これを理解するためには、今がどのような時代なのかを読み解いていく必要があります。


 しかし、今ってどんな時代でしょう?


 それを知るには一旦過去に遡さかのぼって、現在までの社会の変化や人々の意識の変遷を、歴史の流れとして学ぶ必要があります。






 ◇◆◇ 若者文化の黎明(れいめい)期 ◇◆◇




 メガヒットアニメの歴史を見ていく前に、メガヒットアニメが登場する以前の歴史にもちょっと触れておきましょう。


 そうすれば、メガヒットアニメが誕生するために必要な土台が何なのかが分かるからです。


 さて、ここで問題です。


 アニメがメガヒットするには、それを支持してくれる人たちが居なければならないのですが、それってどんな人たちでしょう?


 答えは『若者』です。


 流行なんて大抵は若者から火が付くものですが、アニメもその例に洩れません。2016年にヒットしたアニメ映画『君の名は。』もまさに若者から人気に火が付きましたよね。


 それでですね、


 現代の感覚からすると不思議なことの様に思えるのですが、1970年より以前には『若者』は存在しても『若者文化』はありませんでした。


 と言うのも、1970年以前の日本はまだまだ貧しく、中学or高校を卒業したらすぐに就職して大人社会に仲間入りするのが一般的だったからです。


 だから、『子供文化』や『大人文化』はあっても、その中間である『若者文化』は存在しなかったのです。


 厳密には戦前の日本にも若者文化はありました。戦後の1950年代にも『カミナリ族』とか『太陽族』のような若者文化がありました。


 しかし、文化を享受できるだけの経済的余裕のある若者が、現在よりも遥かに少なかったのです。


 そんな状況に変化が出てきたのは、敗戦直後の傷も癒えてきた1960年代のことでした。


 若者の間で『フォークソングブーム』が起こったり、前衛的で実験的なパフォーマンスが繰り広げられる『小劇団ブーム』が起きました。


 まとめ。


 1960年代はひと言で言うと、貧しいんだけどちょっと文化を楽しむ余裕も出てきた、『若者文化の黎明(れいめい)期』でした。







 ◇◆◇ アムロ=レイは悩めるモラトリアム青年 ◇◆◇





 さて、いよいよ『若者文化』が花開き、社会現象化するメガヒットアニメの登場する時代がやってきました。


 1970年代の日本は高度経済成長期の真っただ中にありました。


 大阪万博が1970年に開催され、同年には日本初のファミリーレストラン『すかいらーく』(現在は『ガスト』の名でお馴染み)がオープンし、翌年にはマクドナルドの一号店が銀座四丁目にオープン。1974年には日本初のコンビニエンスストア『セブンイレブン』が登場しました。


 要するに、現代の私たちにとってなじみ深いものが普及しだしたのはこの頃のことで、それだけ人々が豊かになったってことなんですよね。


 実際、人々の所得は倍増し、大学進学率も1960年代と比較して、約16%から約30%へと急上昇しました。


 この社会的変化の中で新たに誕生したのが『若者層』でした。


 もう少し詳しく説明すると、


 高校3年間に大学4年間、合わせて7年間のモラトリアム期間を有し、子供と呼ぶほど幼くはなく、大人と呼ぶには成熟していない『若者』が大量に世に登場したのです。


 そんな若者たちは飢えていました。


 何に?


 『自分たちが楽しめるアニメ』に、です。


 この状況に救いの手を差し伸べたのが『機動戦士ガンダム』(1979年初放送)でした。


 アニメ『機動戦士ガンダム』は従来のロボットアニメと違い、緻密な設定や複雑なストーリーが売りだったのですが、それが仇となり当時の小学生には全く受けませんでした。


 まぁ、政治とか戦争の話題をある程度理解しながら物語を楽しむには、最低でも中学生くらいにならないと厳しいですよね。結果、初年度放送の視聴率はさっぱり振るいませんでした。


 人気に火が付いたのは翌年の再放送からでした。


 まずは中学生の間で話題になり、次第に高校生やそれよりも上の世代にも広がっていきました。


 若者の観賞に耐えられるだけの力を持った子供っぽくないアニメ、『機動戦士ガンダム』が、ついに社会現象化したのです!


 『機動戦士ガンダム』の主人公、アムロ=レイは、当時の若者にとって新鮮な驚きを持って迎えられました。


 だって、ガンダム以前のロボットものの主人公は、ロボットに乗って敵と戦うことついて、ちっとも悩んだりしなかったのです。


 それに反して『親父にもぶたれたことがないのに!』とか言いながらロボットに乗って戦うことグチグチ悩む主人公は、まったくヒーローらしくありませんでした。


 全く以ってヒーローらしからぬメンタルの持ち主であるアムロ=レイではありましたが、当時の若者たちに別段嫌われることはありませんでした。


 というのも、


 70年安保闘争や『べ平連』によるベトナム戦争反対運動を、テレビを通じて見て育ってきた当時の若者にとって、戦うことに苦悩する主人公アムロ=レイは、なんだだかんだ言って感情移入できる部分の多い、愛すべき主人公だったからです。


 まとめ。


 『機動戦士ガンダム』がヒット最大の理由は、1970年代になり、日本社会に新しく誕生した『若者層』の心を掴むことが出来たことが最大の要因だったと言えるでしょう。







 ◇◆◇ バブルだよ! 強ぇーヒーローの誕生! ◇◆◇





 かつて世界は二つに分断されていました。


 これは異世界ファンタジー小説の話ではありません。私たちの世界は本当に二つに分断されていたのです。


 『冷戦』という言葉を皆さんは知っておられるでしょうか?


 若い人の中には良く分からない方もおられるかもしれませんね。


 なので『冷戦』を簡単に説明すると、


 アメリカを盟主として『資本主義』を標榜する国家群と、ソビエト連邦を盟主として『共産主義』を標榜する国家群が、世界を二分する覇権争いを繰り広げていた状態。


 となります。


 この対立はかなり深刻で、一歩間違えば全面核戦争!文明崩壊!人類滅亡待ったなし!となる、かなりシビアな対立となっていました。


(後ほど解説しますが、1980年代を代表するヒットアニメの一つ『北斗の拳』は、核戦争後の世界が舞台となっています。この設定は冷戦構造下における核戦争の恐怖にあった当時の時代背景が影響しているんですね)


 そんな世界情勢の中、当時の日本はどうだったのでしょう?


 当時の日本人は、ソビエトの『アフガン侵攻』(1978年~1989年)などどこ吹く風で、核戦争の恐怖もほとんど感じることなく平和ボケしながら毎日元気に暮らしていました。


 それどころか、日本経済は飛ぶ鳥を落とす勢いの絶好調だったのです!


 GDP成長率こそ二桁近く……とはならなくなりましたが、それでも5%以上の成長を続けていました。また、国際競争力ランキングでもアメリカを抜いて世界一位を獲得しました!


 当時の日本人は、アジアにおける資本主義のトップランナーとして経済活動に邁進していたのです!


『24時間戦えますか?』


 というキャッチコピーで、製薬会社の三共(現在は第一三共)が栄養ドリンク『リゲイン』のCMを流していましたが、これは当時の日本の世相を実によく反映していました。


 実際、現在の日本を代表する大企業が、日本のローカル企業から、世界的なグローバル企業へと成長していったのもこの時代でした。


 自動車業界を例にとると、


 トヨタが丸紅と手を組んでタイに進出しました。ホンダはサッチャー政権下のイギリスに、スズキはインドに工場を進出させ、海外での自動車製造販売台数を急速に伸ばしていきました。


 さて、そんな当時の日本を象徴するメガヒットアニメと言えば、


 『北斗の拳』(1984年初放送)と『ドラゴンボール』(1986年初放送)でしょう。


 この2作品に共通するのは『主人公が最強キャラ』という点にあります。


 『北斗の拳』の主人公ケンシロウも、『ドラゴンボール』の主人公 孫悟空も、強敵と戦い、時には敗れはするものの最後には勝利をつかみ、勝利を重ねるたびに強くなっていき、最終的には作中最強キャラとなりました。


 これは、時には日本とは違う国民性や法律、習慣などの壁にぶつかり、時にはライバルの欧米企業と鎬を削る戦いを繰り広げながらも最強のグローバル企業へとのし上がっていった日本企業の姿と重なるところがあります。


 放送当時に『北斗の拳』や『ドラゴンボール』を見ていた若者が、当時の日本企業の大活躍をケンシロウや孫悟空に重ねて見ていた……と流石に断言はできませんが、何となくでも時代の雰囲気を感じ取っていたであろうことは間違いないでしょう。


 まとめ。


 『北斗の拳』と『ドラゴンボール』がヒットした最大の理由は、当時のイケイケでアゲアゲな時代の空気を反映させたキャラクター&ストーリーを作ったから!


(ちなみに、大分県別府市に『ドラゴンロール』なるロールケーキを販売する洋菓子店があります。怪しげな筋から得た情報によると、この『ドラゴンロール』を7本集めると、願いが何でも1つ叶うとか、やっぱり叶わないとか……)


 今になってみれば、この時代はとても幸福な時代でした。


 しかし、冷戦構造の崩壊を象徴する『ベルリンの壁崩壊』(1989年)と『ソビエト連邦消滅』(1991年)を経て、この幸福な時代も終焉を迎えます。


 平成バブルの崩壊でした。






 ◇◆◇ バブル崩壊とセカンドインパクト ◇◆◇




 1990年代を代表するヒットアニメと言えば『新世紀エヴァンゲリオン』です。セカイ系といえば真っ先に名前の挙がる超有名作品です。


 しかし、『エヴァンゲリオン』を語るには、その前に1980年代末に起こった『平成バブル』の発生と崩壊、その後の影響について説明しなければなりません。


 これが辛い。正直、気が重くなります。


 平成バブルが始まったのは一般的には1986年からとされています。原因については『プラザ合意』(1985年)による円高ドル安誘導や日銀による金融緩和が原因であると考えられています。


 で、その結果、土地バブルが発生しました。


 不動産を買ったら後は何もしなくても、地価の上昇により資産がどんどん増えていくという異常事態が起こったのです。


 溢れ出したお金は株式市場も押し上げ、バブル前の1985年は1万3千円程だった日経平均株価は、1989年には3万8千円台まで急上昇しました。


 さすがにこの異常事態を放ってはおけないと日銀は金利を引き上げ、大蔵省が総量規制(銀行が貸し付けることが出来る金額を規制すること)を行いました。結果、バブルは一気にはじけてしまったのです。


 (ただ、もう少し視野を広げて歴史的に考えてみるなら、『トゥキュディデスの罠』だったのかなぁ?と私は考えています。超要約すると、ソビエト亡き後は日本がアメリカの覇権を脅かす存在として因縁つけられて、IT革命直前を狙ってぶん殴られたのではないか?ということです。しかし、この話を書き出すと本論から脱線するので割愛)


 バブルが崩壊してしばらくの間は、皆、あまりこのことを深刻に考えていませんでした。


『景気ってのは、好景気と不景気の間を行ったり来たりするんだから、また暫くしたら景気が良くなるよ』


 と、軽く考えていたのです。(因みにこれを『景気循環説』といいます)


 しかし、ちっとも経済は好転しません。バブルの頃にヤンチャして不良資産を大量に抱えてしまった企業はじわじわと追い詰められていきました。


 日本社会に重苦しい空気が漂い始めた1995年、二つの重大な事件が起こります。


『阪神大震災』と『地下鉄サリン事件』です。


 大地震にオウム真理教による無差別テロ。この上なくショックな事件が立て続けに起こり、皆が大きな不安と恐怖に苛まれるようになりました。


 そんな中で登場したのが『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年初放送)だったのです。


 『エヴァンゲリオン』(TV版)ヒットの理由について語るのはかなりの困難を伴います。情報量が多く、難解なストーリーが多元的な解釈を可能にするからです。(逆にそこが面白い部分でもあるのですが……)


 そこで、私が個人的に重要だと思う要因を一つだけ挙げたいと思います。


 『エヴァンゲリオン』ヒットの理由、それは『アダルトチルドレン』の問題を掘り起こたことが大きな要因だったと考えられます。


 『アダルトチルドレン』については定義の難しい部分が多いのですが、大雑把にまとめてしまえば、


 『機能不全家庭で育った子供が、自身の生き方や、他者とのコミュニケーションに支障をきたすこと』


 と、言えるでしょう。


 『エヴァンゲリオン』の主人公の父親である碇ゲンドウは、正面から息子を愛することが出来ないダメ大人です。息子の碇シンジも自己肯定感がやたらと低く、他者とのコミュニケーションが痛々しいまでに下手な陰キャです。


 碇家は立派な機能不全家庭でした。


 現実社会においても1980年代には顕在化していなかった様々な問題が家庭の中で噴出しました。


 1980年代、とある評論家が、


 『最近の若者には反抗期がない』


 と指摘していました。


 確かに1970年代と比較して若者の非行・暴力行為は大きく減少しました。


 通常、子供は自己のアイデンティティや価値観を形成していく過程で、親や教師のような大人の提示する価値観と衝突するものです。


 しかし、それが起こらなくなった。どういうことでしょう?


 結局は過剰に自分を押し殺して、無理に自分を大人の提示する規範に合わせようとしていただけなのではないでしょうか?


 バブル崩壊以前は、


 『有名大学に進学し、有名企業や公務員になれば、人生の成功は約束される』


 みたいな成功モデルが正しいと信じられていました。


 ところがバブル崩壊後は、ダイエーなどの大手企業の経営悪化により、この成功モデルが成り立たなくなってきました。


 そして、山一證券(1997年破綻)や北海道拓殖銀行(1998年破綻)の経営破綻により、成功モデルの破綻が証明されてしまいました。


 大人を信じ、自分を殺してまで人生の《正しい》レールを走ってきた若者にとっては堪らないでしょう。

 さりとて人生の路線転換をしようにも、次に目指すべき成功モデルが見つからない。


 八方塞がりの中、自信を無くして自分を見失ったり、あるいは引きこもったりしても仕方ない部分はあったでしょう。


 まとめ。


 『新世紀エヴァンゲリオン』ヒットの理由は、日本社会を覆う不安や閉塞感、家庭における機能不全などの問題を巧みな比喩を用いて掘り起こすことに成功したから。







 長々と語ってきましたが、ようやく折り返し地点までやってきました。

 次は現在に直接つながる潮流と、予想される物語のこれからについて解説します。


 後編も引き続きよろしくお願いします。

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