第1話「うんのよさだけで生活できますか?」ミイニャ回
私はミラ家の三女(双子の妹)として生まれた。
ミラ家は生まれた時から家系限界突破と言って、ある一つのステータスが振り切れている。私で言うなら『うんのよさ』がそれにあたるのだ。
双子の姉とはいつも一緒で仲良しだった。髪色が違い姉は赤、私は赤みがかった茶ぱつだったので、髪型もお互いにかえているが、背丈や顔の輪郭は一卵性なのでほぼ一緒。
マーニャ(姉)は優しく、明るく、よく喋る。私は姉と比較すればおとなしい方だと思うが、それでもお喋りするのは好きだ。
7歳になったとき、両親が呪いにかかり氷漬けにされた。
もしかしたらその原因を作ったのは、あの女を招き入れた私かもしれないと思うと、やりきれない気持ちになる。
「ミイニャのせいじゃないわ。あの人、術者じゃないと思う」
「どうして……昨晩一緒だったのあの人だけでしょ」
「知る限りではね。自分を責めないの! お父さんもお母さんも死んだわけじゃない。生きてる。あなたのうんのよさがそうさせたのかもしれないよ」
うんのよさ……振り切れてるにしては、全然使えない。
「ステータス限界突破はすごいけど、それだけでは戦えないし、先に行けないんだわ。きっと……ミイニャもいつかこのアイルコットンから出てみたいなら、手を引いてくれる強い人見つけないと無理よ」
「私、もう少し大きくなったら、とりあえずこの家出る」
「なに急に?」
「ミラ家のしきたりとか、結婚相手を選べないとか嫌だから。だからミラ家を出る……お姉ちゃんも一緒に……」
お姉ちゃんは難しい顔をする。
「あたしはすぐにはちょっと無理。この家であの呪いについてもっと調べてみたいの。書物保管庫に色々術式について書いてある本があるし」
「そう……」
二人一緒なら、気が楽だし心強いのに……
両親の呪いが解けることはなく、私は16歳になり、家を出ることを一番上の姉に伝えた。
「ミイニャ、何を考えているの! 女の子が1人で生活していけると思ってるの。お金は? 住む場所は? どうやって生計立てていくつもりなの」
サーシア姉さまにはひどく反対された。
「お金は自分で稼ぐ。少し前、地脈アドバイスをしたら、そこに源泉があって、温泉が噴き出したみたいだから、私にもお金がもらえると昨日話を聞いた。それでカフェでもやりながら待つことにする」
「待つって何を待つのかしら?」
「タイミング」
「何を言っているのやら……あなたがこの家のしきたりに不満があるのはわかります。けど、お父様たちとお母さまがあんな状態じゃなかったらなんて言うでしょうね」
「2人は割と自由にさせてくれると思う」
「……マアニャ、さっきからなに本なんて読んでるの。あなたが説得した方がわたくしより効果があるはずですよ」
「説得はしないわ。あたしはミイニャが家を出ることに賛成だもん。あたしたちは双子。少しの間離れてお互い1人で考えた方が良いこともあるし」
マアニャお姉ちゃんはこっちを見て微笑んだ。
思っていたよりも全然多い金額が手元に来た。他に継続して月別で支払いもあるそうだ。やはりうんのよさは凄いのだろうか?
温泉の地脈を見つけられる能力……あんまり実用性はないな。仕事には困らなそうだけど……
手元のお金でカフェをするために作ったと言う一軒家をかなり安く譲りうけた。
これもうんのよさのなせる業。
「さて……」
カウンター内に入りこれからのことを考える。
いずれはこのアイルコットンを出て、ゆっくり旅でもしたい……が、外は魔物がいるし、闇の教団もいる。騎士団数名を引きつれていくわけにもいかない。わたしはミラ家を出たんだし……
「困りました……」
サーシア姉さまのことは心配していないが、問題は双子の姉であるマアニャ。近い将来危険がある気がしてならない。なんていうか予感がするのだ。私がここにいてうんのよさで好転させなければ。今度こそ家族は守りたいし、お姉ちゃんは家族の中でも特に信頼関係があるし。
「となると、呑気にカフェ営業をしていたら、いざってとき大丈夫なんでしょうか?」
そして私はひらめいた。
このカフェ、人が数名しか来ないカフェにしようと。
まずはメニューを決める。
真っ黒握りこぶし……超巨大ハンバーグ。あまりの大きさに焼けない。
限界への真っ赤な試練……タバスコ、唐辛子、とにかく赤くて辛いものを大量投入して、ソーダ水と混ぜる。
顔色真っ青……こっちはとにかくすっぱいものオンパレードでいい。
「看板メニューはこの3品でいいでしょ。キャッチフレーズはあとで考えるとして……大きな大きなグラスが必要ですね。頼まれないために……あとで調達して……問題はそれでどうやって利益を得るかと言うこと……はっ、ふふふ……お水ですね! お水は美味しいですから」
3品を注文した方のみ、ドリンクなどを注文できるようにして、3品以外のものをどうしても頼めないとしたら、
「お水があります! これで行きましょう。お水を超高額設定にして、払ってもらえるか会計時に同意書を作成しておけば問題はないはず。もしこれで営業できるレベルなら、わたしのうんのよさの証明にもなりますから」
こうしてカフェ『グランデ』はオープンしました。
そしてお店は半年もの間黒字を維持したのです。お水だけで!
渾身のカフェメニューはある人との出会いで、廃止され、高額なお水も無くなり、カフェはカフェになります。
優斗君に出会う為に、わたしはここに居たのかもしれませんね。
異世界には外れスキルとおまけスキルを覚醒させて~俺は双子姉妹の召使いから成りあがる~の番外編みたいなお話で、双子のマアニャとミイニャ。ミラ家のメイドのクレア視点で何話か書いていきます。
気に入っていただけたら、本編『異世界には外れスキル【すれ違い】とおまけスキル【両利き】を覚醒させて~俺は双子姉妹の召使い(スローライフ)から成りあがる~』の方もお読みいただければ嬉しいです。