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刀の力  作者: takatoyo
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ブンッブンッ

「998、999、1000! はぁ、はぁ、ふぅ。朝の稽古は終わりだ」


俺は鄰人。

火の国の中の地方の領主の息子だ

火の国全体で火の魔法に長けている人が多く、鍛治が盛んで、素振りで使っている刀も領主お抱えの鍛治師から送られた物だ。

この国の武士であれば基本火の魔法と刀を使い戦うのだが…15歳になった今でも俺は魔法が上手く使えない。

全く使えない訳ではないが、戦いで使えるかと言うと微妙な所だ。


「鄰人様、朝御飯の用意が出来ております。」


稽古が終わるのを見計らってか、侍女の凛が呼びに来た。相変わらず美しい。


「ああ、ありがとう。身体を拭いたら行こう。」


すっと頭を下げ凛が戻っていく。

凛は戦で亡くなった武士の娘だ。俺が12歳の頃、乗馬の練習で遠駆けをしていた時に毎日畑仕事をしていた。

普通は親も一緒に行うのだが、一度も見た事がないので気になって声をかけた。


「ねえ、君。いつも一人で畑仕事をしているが、親はどうしたんだ?」


不審そうな目をこちらに向けながら答えた。

「父は戦で死にました。母は身体が弱く、家で糸を紡いでいます。この畑は私が何とかしなければなりませんので」


よく見ると身体の線は細く顔はやつれている。

満足な生活は出来ていないのだろう。しかし、目には力があり、尚且つ澄んでいる。引き込まれそうになり、目を離せなかった。

そして口から勝手に言葉が出てきた。


「もし良かったら俺の家で働かないか?畑仕事をしなくても母親にも苦労させない位の給料は出す」


「私が職を探しているならまだしも、知らない方に、急に家で働かないかと言われて行くと思いますか?それともお金で簡単に身体を売る女に見えましたか?結構です。では、まだ畑仕事は終わっていませんので」


フラれた。完全にフラれた。

しかし俺は諦めない。

「待ってくれ!俺は龍園 鄰人、領主の息子だ。だが権力を振りかざすつもりは無いし、君の身体を好きにしたいとかは考えていない。ただ単純に、その…君に惹かれて」


娘は少し驚いた様に目を開きながら頭を下げる。

「龍園家のご子息様でしたか。お顔を拝見した事が無く失礼致しました」


「いや、まあ知らなかった事は気にはしていない。着ている服も立派な物ではないし…名乗らなかった俺が悪い」


「私共からすれば十分立派なお召し物です…気づけなかった私が悪う御座います。ですが、やはり龍園様の元で働くよりも、私は父との思い出がある先祖代々のこの畑を大事にしたいと思います。今のままでもなんとか生活は出来ておりますので。それでは」


再度頭を下げ畑仕事に戻る


フラれた。またフラれた。

というか普通は領主の家からの誘いを断るとか大丈夫なのか?打ち首ものじゃ…いやまあ俺は権力を振りかざすつもりは無いからそんな事しないが


「まっ、待ってくれ!せめて名前を教えてくれないか」


「凛と申します。それでは」


凛、凛か…良い名だ。

「また来る!」

その日はそこで諦めて帰った。


それから毎日遠駆けを理由に凛の畑に行き話かけるが

「まだ仕事が残っていますので」

と言われすごすごと帰る日々

しかし、いつしか話かけるだけではなく畑仕事を手伝うようになり、くだらない話までするようになった。


ある日いつもの様に畑に向かうが凛がいない。

次の日も、その次の日も…

心配になり、今日いなければ家来を使って探し出そうかと思っていた日、凛が畑にいた。

しかし見るからに元気が無い。


「凛!どうしたんだ?畑に来ないから心配していたんだ。何かあったのか?」


凛が疲れ果てた顔で俺を見上げながら答えた。

「母が…母が亡くなりました。風邪を引いていたのですが、急に高熱を出して…」


「っ!そうか…

お母さんの事は残念だ。凛のお父さんの事も…領主の息子として心が痛い。

なんて言葉をかけていいか…


なあ、龍園家に来ないか?この畑が大事なら畑仕事をしに来ても良い。

だから、龍園家にきて俺専属で働いてほしい。俺は凛にそんな苦しい顔はさせたくないし独りにはしたくないんだ」


「…少し考えさせて下さい。今は気持ちの整理が…」


「わかった…とりあえず毎日畑を手伝いに来るから、落ち着いたら答えを教えてくれ」


「はい…ありがとうございます。」


それから10日程経ち


「凛、どうだろうか。そろそろ答えを聞かせてくれないか?」


「…はい。

私は龍園家にお仕えさせていただきます。

ただ、一つ鄰人様に約束して欲しい事がございます。これだけはどうしても約束していただけなければお仕え出来ません」


「約束?なんだろうか。叶えられることなら構わないが」


「もし鄰人様が戦等で死んでしまったら私も後を追います。

だから…死なないで下さい。もう私を置いて死なないで下さい!」


「… 約束しよう。俺は凛を置いて死なない。一人にはさせない。



ただ…老衰だけは勘弁してくれないか?」


「…ばか」

凛は微笑んでいた。


今の思えばあれ以来凛の笑顔を見ていなくないか?あれ?

でもたまに母や他の侍女と凛が談笑している声は聞こえる。

俺専属なだけあって一番一緒にいる筈なのに…何故だ


「鄰人様。ご飯が冷めてしまうので早くしていただけませんか?」


後ろから凛の声が聞こえた。冷ややかな声だ。

ああ…凛よ、俺にも笑顔を。


こうして今日も一日が始まる。

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