祭り
私が離れに出入りできるときは限られている。
儀式の準備の時と儀式の時、それ以外は入ることは許されない。だからお姉ちゃんからの話を聞いたときは驚きを隠せなかった。
星が綺麗に輝く夜。いつも別れる廊下の先を私は歩いている。
夕刻
「お姉様、お言葉を返すようですが。私のようなものが離れに儀式以外で足を踏み込むなど、許されるはずがありません。」
やっぱり、小姫はその言葉を言うっと思っていた。小姫が離れに必要以上に近づかないのは曾祖母の影響が大きい。
「雪穂様がお呼びなのです。それに逆らうのですか?」
小姫が驚きをあらわにする。
「そのようなことは決して、わかりました。」
「さくらも一緒です。四人揃うことが重要なこと、だと思うの」
その言葉を聞いた小姫が不安な表情になる。
「お姉様それは、」
続く言葉は小雪の手で止められた。
「何も心配はありません。」
小雪はにっこりと笑う。
お姉ちゃんはさくらちゃんの力を受け継ぐつもりだと思う、たぶん。受け継ぐだけならば私の立ち会いは必要ないと思うのだけど、お姉ちゃんいや、雪穂様の考えは私には分からない。そもそも見たこともない。お姉ちゃんは当たり前のように見えているらしく、幼い頃「どうして見えないの?」「本当に見えてないの?」っと何度も聞かれたことがある。
色々考えてうちに目的の場所についた。
「ここか?」
隣を歩いていたさくらが扉を見ている。
お姉ちゃん達が年季の入った扉をガラガラと開ける。
「失礼いたします。」
三人は口を揃えて一礼し中へ入る。
中は暗い。神棚だけが淡く蒼光を放っている。
さくらも一礼し中へと入る。
小姫が扉の横にあるスイッチで電気をつける。
四人が神棚の前に立つ。
「ぜんいん、そろった、では、はじめろ、」
全員の頭に声が響く。
「誰だ、おまえは。」
さくらが神棚に向かって話かける。
「わたしは、ゆきほ、ちいさな、おまえとは、ちがう、おまえ、が、ゆき、おんな、か、」
「見ればわかるだろう、あと、お前ほど弱くはない!!」
さくらが神棚に向かって指を指す。
「さくらもすごく可愛いよ。」
小雪がさくらの頭を撫でながら、笑うのを堪えている。
いつのまにか小雪の口調は戻っていた。
「そういう問題じゃない!!」
頭を撫でている手は止まらない。
少し張り詰めていた空気が緩むだ気がした。
「姫始めましょう」
風夏の声で一気に緊張が走る。
小雪が呼吸をひとつ
「さくら、私にその力を受け継がせて」
にこやかな笑顔で小雪がさくらに手を伸ばす。
この手を取ったら後戻りはできない。
「小姫本当にいいのか?」
さくらは小姫を見る。
さくらが全てを話したある夜。「力を受け継ぐ」っといった小雪を猛反対した小姫。
俯いている小姫の表情は見えない。
「わ、私にその力を受け継がせて!お姉ちゃんだけ負担が行くのは嫌だ!!」
顔を上げた小姫は目に涙を溜め今にも泣き出しそうだった。
「お姉ちゃんを置いていけるわけない。いや、お姉ちゃんと一緒がいい。もう、私を一人にしないで、置いていかないで。」
小姫の頬を涙が伝い落ちる。
「小姫…ごめんなさい」
小雪の表情も暗くさっきの笑顔はどこにもない。
まったく、手のかかる姉妹だ。
これは例外中の例外、いわば前代未聞の提案。小姫が猛反対したときに、ふと思いつてしまった考え、言いたくなかったのが本心。
「小雪と小姫、二人で一人。二人に半分ずつ力を渡せば揉めることもない。どちらかが人間のままでもない。」
「え?」
小姫が目を丸くする。
「さくら、小姫の負担は?危険とかない??」
後ろから声が聞こえる。
「はぁ、力を渡すことが危険なことだ。覚悟はしてたんだろ?」
小姫が止まらない涙を手で拭い。
「お姉ちゃんと一緒なら、大丈夫」
小姫がさくらの手をとる。
「大丈夫。小姫を一人にはさせないよ。」
優しい声で小雪が言う。
空いてる方の手を小雪が握る。
小雪はとても幸せそうな笑みを浮かべ、小姫は泣きながら笑っていた。
「お姉ちゃん」
「小姫」
あれから一週間の時間が流れ、村の夏祭りまであと4日っとなった。
適応力があったのか小雪は2日で歩けるまで回復し、小姫は今朝まで高熱にうなされていてが今は車椅子で移動できるまでに回復している。
変わったことっと言えば小さいながらも雪穂が人型を取れるようになったことくらいだろうか?
今は村の夏祭りに向けて、小雪が「舞」の練習をしている。袴を着ている小雪はまるで何かに取り憑かれたように見える。隣には車椅子に座っている小姫と雪穂がいる。
北側にある離れは広く、入り口側は壁があるが左右と目の前は開け放たれている。目の前には山が、左右には芝生が広がっている。風が通って涼しい。
「お姉様。お体は大丈夫ですか?」
小姫が小雪にタオルを渡す。
「つれの方が体への負担が大きい。こおは心配はない。」
雪穂様の姿は初めて見た。手のひらサイズで今は私の膝の上にいる。真っ白な髪は体よりも長い。そして私のことを「つれ」っと呼んでいる。
「小姫さんはいつも私の心配ばかり。もう少し自分の心配をしてください。」
小雪はタオルを受け取りながら妹の心配をする。
「私のことは何も心配いりません。」
自分は大丈夫だと首を振る。
「小雪は適応力が人よりも高い。小姫が適応力が低いわけではない、本当に適応力のない人間は一月寝込んで、最悪の場合死ぬ。」
さくらがつまらなさそうに淡々んと説明をする。
「その口調ですと前にも力を渡したことがあるような言い方ね。」
同じく小姫からタオルを受けっとた風夏がさくらを見る。
「先代の言葉だ。私は誰にも渡したことは無かった。そうほいほいと渡せる力でもない。」
力を受け継ぐには”血“を飲まなければいけない。
量としては決して多くはないが、いろんなものが体の中に流れ込んでくる。
自分が自分で無くなるような、そんな感じ。
意識がブラックアウトする前同じ量を飲んだはずのお姉ちゃんは倒れる私を支えてくれた。