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あこがれ少女  作者: mia
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2人の巫女

私はお姉ちゃんのことが大好きだ。

かっこよくて、可愛いい私のお姉ちゃん。嫌なことも最後まで逃げずに、辛いことは私にだけ話してくれて、私には甘えん坊。チョコレートとココアが大好きで刺身が苦手、運動神経は抜群で、部活では一年生にしてレギュラー入り。勉強は人並みだけど日本歴史にはすごく弱い。動物が大好きで動物番組は必ずチェックしてキラッキラな目でテレビにくいついてる。ちょっと子供ぽい私のお姉ちゃん。

そして今日のお姉ちゃんは一段と可愛い。真っ白なワンピース、緑のリボンが付いた麦わら帽子。夏に本家に行くいつもの服。そう、今日私たちは本家に行く。一か月可愛いお姉ちゃんとはお別れ、息の詰まる場所。

お姉ちゃんは行きたくないっと駄々をこねた。それもいつものこと。これからお姉ちゃんは「人ぼっち」になるはずだったいつもなら。でも、今年はさくらちゃんがいるからきっと大丈夫なはずだ。きっと、今年はいつもより少し違うから。





「ただいま戻りました。」

玄関に響く声

奥からぱたぱたっと足音が聞こえてくる。

「ひめちゃーん!」

小さな女の子が小雪に向かって抱き付こうと両手を前にして走ってくる。

「待って、転ぶぞ!!」

それを追いかけるように後ろから男の子が走ってくる。

女の子はパーカーのついたワンピースにスパッツ、男の子は袴を着ていた。

走ってきた女の子を小姫が受け止める。

「ひーめー」

女の子は小雪の方に手を伸ばしていた。

「姫さま申し訳ございません。妹が、」

男の子の方は息が上がっている。

「その方は?」

さくらを見て、小姫に問う

「私たちの新しい家族です。名はさくら。」

さくらはじっと周りを観察している。

「お姉様も長旅で疲れているので、お先にお部屋いいかしら?」

「あ、どうぞ。姫さま長旅ご苦労様でした。」

男の子が深々と頭を下げる。

小雪に向かって。



「あれはどういうことだ?」

さくらは部屋に入り小姫に説明を求めた。

2人で使うのには少し広い気がする。

「私たちは代々神に仕える巫女の一族。お姉ちゃんは歴代の巫女の中で一番力が強くて、神の子って言われているの。本家ではお姉ちゃんが一番で私はお世話係兼儀式付添い人。本家は巫女の力だけで優劣が決まってしまうの。今はお姉ちゃんと従姉妹のお姉ちゃん2人以外はみんな私みたいな役割を与えられてるの。」

「だからお姉様なのか?なぜ巫女は2人なんだもっといてもいだろ?」

さくらの口調は拾われた時とは違う。遠慮のなくたった本来の口調。

「本当は巫女は一人で充分なの」

小姫は青色の袴に着替えを始める。

「でも、お姉ちゃんの力が強すぎて巫女の踊を頻繁に踊ってしまうと悪影響が出てきてしまうの、だから当主代理の従姉妹のお姉ちゃんが代わりに踊ってるの。でも、お姉ちゃんが踊ればどんな悪影響が出るのかは聞いたことがない。教えてもらえなかった」

着替え終わり。髪をもう一度結び直す。

「代理ってことは次の当主は小雪?」

小姫が言葉を出そうとしたとき

「小姫さん、準備整いましたか?」

襖の向こうから小雪の声が聞こえる。

いつもの明るい声とは違う、すごく冷たい低い声

「はい。遅くなって申し訳ございません。お姉様」

小姫が襖を開ける

小雪は先ほどとは違う白いワンピース。ボタンと襟が付いている。先ほどとは違う印象が与えられる。頭の左には青いリボンが付いている。いつもの小雪はどこにもいない感じがする。

小姫が長い廊下を歩き出す。その後ろにさくら、小雪と続く。



「失礼いたします。」

小姫がすっと襖を開け小雪を先頭に三人は中に入る。

部屋の真ん中に四角い机、着物を着た真っ白な髪の老婆がそこにいた。

「まぁ、姫さま。また大きくなられて、どうぞお座りください。」

しわの寄った優しい声

「失礼いたします。」

一声かけ小雪が机を挟んで老婆と向かい合う。

小姫とさくらは扉の横に座る。

「大祖母様お久しぶりです。お変わりなく安心いたしました。」

どうやら老婆は2人のひいおばあさんのようだ。

「ええ、私はとっても元気ですよ。姫さまはもう中学生なのでしょう。当主になる日ももうすぐね。凄く楽しみだわ。」

ニコニコと話す曽祖母に対し小雪は社交的な、完璧な作り笑いでいた。

「はい、勉強も忙しくなりましたが毎日がとても充実しています。」

「まぁ、それは良かったわ。もう変ななことはしていらっしゃらないのでしょう」

「はい」

「そう、それはよかったわ。まったく始められたときは驚きましたわ。もうこれ以上変なことはやめてくださいね。姫」

「はい。みなんさんにはご心配をおかけしました。」

小雪は相変わらず笑顔を絶やさずいたが、横で小姫がぐっと手に力を込めていた。

「では、私はこれで。」

そう言って小雪が一礼をして立ち上がる。

「まぁ、もう行ってしまうのですか。もう少しゆっくりお話いたしましょう。」

「大祖母様、お話はまたいつか。」

曾祖母は少し困ったような顔をしていた。きっともっと孫である小雪と話がしたかったのだろう。でも、孫は小雪だけではないはずだ。まるでこの部屋には小雪と自分の2人しか居ないかのように。

横を見ると小姫が襖を開けるところで顔が見れなかった。

3人は部屋を後にした。



「風夏お姉様、お久しぶりです。」

「姫、お変わりないようで。」

離れに向かう廊下に一人の女性が立っていた。

小雪と同じ白のワンピース。右の頭に白いリボンをつけている。小雪とは一回りほど離れて見える。とても大人っぽい印象。

「それでは私たちはこれで。」

そう言って小姫が一礼をして引き返す。

とりあえずは自分も小姫についていく。






目の前に座っている着物を着た曾祖母。畳のいい匂いがするこの部屋は息がしにくい。

私はこの人が嫌いだ。

世間体ばかり気にする曾祖母は小姫をとても酷く扱う。その反面巫女としての力がある私にはいつもニコニコとしている。気持ち悪いくらいに。

実際は一滴も血は繋がっていない、詳し事実は知らないが曾祖母はここの家の養子らしい。なので巫女の力は全くなく、昔酷い扱いを受けたとか、そんな噂話ならいくらでも聞いたことがある。だが所詮噂だ、昔のことなんて知らなくても私は生きていける。

きっと今もさくらのことは見えていないはずだ。

ここは少しでも力のある人は「普通の人が見れないものを見る」ことができる。この人には力がないから見えてないはず。一度もさくらの方に視線を向けてないのがその証拠。

ここは小姫のために早めに出た方が良さそうだ。

「よし!」っと心の中で覚悟を決める。



疲れた。

曾祖母の部屋を出て長い廊下を離れに向かって歩く。ふと目の前に人の影

「風夏お姉様、お久しぶりです。」

少し声が弾んでしまった気がした。

「私たちはこれで。」

小姫が一礼をして離れていく。

いつもここで別れる。

本当は小姫と一緒に行きたい。「巫女なんだから、小姫も行こう」っと言いたい。だが、それは許されない。

「姫?いかがなされましたか。」

姉の言葉で我に帰る。

ここからは姉っといっても、関係は叔母にあたる。お母さんの双子の妹の2人だけになる。

「立場は風夏お姉様が上ですよ?当主さま」

自分と同じくらいの身長の叔母は実年齢より若く見える。

「私はただの代理ですよ。姫が当主になるまでのお飾りです。」

戯けたように言われる。

この人は誰にでも優しい。もちろん小姫にも。

そしてここでは誰よりも話しやすい。

会話をしているうちに目的の場所についた。

大きい木の扉。

一息入れ。

ガラガラと扉を開ける。

目の前には神棚。隅に柱が4本正方形部屋の横に一メートルほど幅がある廊下。障子の向こうかの夕日で部屋は少し赤い。

一礼して一歩を踏み出す。空気が冷たい。

真ん中に座り

「雪穂様。ただ今戻りました。」

神棚に向かい深々と頭を下げる。

隣で姉も同じように頭を下げている。

冬の守り神。冬、雪が降り続ける中でも村の人々が餓死しないように守っている。っと言われている。

スッと頭を上げる。いつもならここでこの場を離れる。だが、今日は違う。

体を姉の方に向る。

「風夏お姉様ご相談がございます。」

叔母は自分をじっと見つめ

「それは、雪穂様の前ではないといけないご相談ですか。」

「はい。雪穂様にもお聞きしてほしい内容です」

叔母が自分の方に向き直る。

よかった、やっぱり叔母は話を聞いてくれる。「話を聞いてくれる人がいる」それだけでとても心強い。

小雪は話始めた。

「実は…」

小雪は春にさくらを拾った事、さくらは元人間で今は妖怪である事、力の後継者を探している事、そして、自分がさくらの力を継承したい事、全て話した。


「当主の意見としては、巫女の力が失われるようなことが無ければ、その力は継承しても構いません。ただ、力を継承される前に、跡継ぎをきちんと産んでください。次期当主は跡継ぎを産む義務があります。」

叔母はそこで一旦話すのをやめる。

一寸の沈黙

「叔母としては、お姉さんの可愛い娘にそんな危険なことはしてほしくない。本当はもっと普通の女の子みたいに生きてほしい。誰にも…家にも縛られず、普通の恋をして、幸せな家庭を持って、いつまでも小姫ちゃんと2人で笑っていてほしい。」

「姉様!?」

叔母は泣いていた。

「この気持ちはどっちを優先すればいいのかな。」

叔母は泣きながら謝っていた。こんな姿を見たのは初めてだ。

叔母は子供を産むことができない。巫女の力を持った跡継ぎを残すには、私か小姫が身籠もるしか方法はない。もし分家に巫女の力を持つ子が生まれれば話は別なのだが、確率はとても低い。生まれてもとても弱い力なのだ。

「そんなのも、わかんないの、にんげんって、なんにも、がくしゅう、しないのね」

2人の頭に声が響く

「雪穂様?」

小雪が神棚を見上げる。

「こお。おまえは、みこのちから、だけはつよい、ようりょく、うけついでも、なにも、もんだいは、ない。たとえ、おまえが、みごもっても、いちじてきに、わたしが、ちからを、あずかって、やろう。あんしん、して、ようりょく、を、もらえ。」

雪穂様は私のことを「こお」っと呼ぶ。今は夏だから完全体の雪穂様を見ることはできない。目の前の神棚から直接声が頭に聴こえてくる。

「それは今日でも、問題はありませんか。」

「雪ちゃん?早いよ、もう少し考えよ。小姫ちゃんにも相談しないと。」

叔母の話し方は完全に素に戻っている。

「大丈夫ですよ。小雪もわかってくれますよ。」

明るく冷静な声で話す。

「こんや、よにん、で、こい」

短い声が頭に響く。

「ありがとうございます。」

小雪は深々と頭を下げる。


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