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マルコ・ポーロからの手紙

柏木 玲は空を眺めていた。


退屈な世界史の授業など聞いていても頭に入らない。なら、空を羽ばたく鳥を見ていた方がいい。


ここの所、頭の中に変なモヤモヤがずっと存在する。


何かを忘れているような……。そんな思いに駆られ、外を眺めることが多くなった。


何を忘れてるいるかは分からない。しかし、忘れては行けないことのような気がする。


この教室に対する違和感。先生や同級生が普段通りに過ごしている違和感。それが、玲の心にチクチクと刺さっている。


先生はさっきから教科書の言葉を吐き出しているだけだ。「大航海時代?」そんなセリフが聞こえてくる。


私はふと、資料集をカバンの中から取り出して机の上で広げた。


何故、広げたのかは分からない。でも、広げてみなければと思いたったのだ。


資料集の後ろのページ、用語索引を見る。「えーと、大航海時代っと」あった。56ページ。


パラパラと紙をめくり、斜め下にあるページ数を見ながら目的の場所まで進める。


50…52…54……。


その瞬間、教室の中に強い風が吹いた。換気のために開けていた窓の隙間からだ。


髪の毛が風にさすらい、目に入ってきたために一瞬目を閉じた。


「……ん?なんだこの紙は」


資料集56ページの上には封筒が置いてあった。丁寧に封蝋までしてある。宛先は不明だし、見たことのない文字が書かれている。


玲はおもむろに封筒を開けて中から手紙を取り出した。


手紙の手触りは今まで触ったことが無いものだった。いったいこれは何なんだ。


二つ折りにされていた手紙を開く。すると、文字が浮かび上がり、私に語りかけてくるように……理解することが出来るのだ。


"親愛なる友 柏木 玲



ハルホートの丘は今日も赤い朝日が沈む。冬は近々、ペルナソの街に訪れ夏を配るだろう。私は今日とて晩餐での祝杯を上げる。また、会う日を夢見て……



貴方の心の隅に 新崎 梨奈"


「しんざき……りな!?」


意味不明な言葉の羅列を読みながら送り主の名前に驚愕した。


新崎 梨奈。あぁ、どうして今まで忘れていたのだろう。毎日抱いていた焦燥感の正体が判明した。


新崎 梨奈。私の掛け替えのない友人。それを思い出したのだ。


鼓動が速くなる。


私は思った。梨奈は同じクラスメイトだ。なのに彼女の席が無くなっている。先生もみんなも彼女がいないことが差も当然のように振舞っていることがおかしかった。


私も今の今まで忘れていた。何故だ?いったい。何故、記憶から梨奈は姿を消したのか。何故、今になって私が手紙を見つけたのか。


そんなことよりも、梨奈はいったいどこにいるのだ。彼女はどこに姿を消したのか。彼女の両親はどうしたのだろう。


そんな事が頭の中を過ぎる。


ふと、窓から校庭を見た。校庭の周りに生えている木々の中の物陰に体を隠している者が目に入った。


今思えば、何故それが梨奈に関係があるのかと考えるがその時点では私の直感が「確かめなければ」と体を動かしていた。


居ても立ってもいられず、私は手紙を握りしめて教室から走り出した。


「おいこら、柏木!!どこに行くんだ」


教室からは世界史の先生の声がこだましていたが私には関係がなかった。


靴を履き替えることも無く校庭に飛び出した。


怪しい人影は同じ場所に立っていた。そして少し揺れる。私の存在に気がついたようだ。


いや、何故動かなかったんだ。「私のことを待っていた?」そんなことを考える。


しかし、人影はそのまま背を向けて校外へと走り出した。


私はそれを追いかけた。


それから2km程走っただろうか。日頃、運動をしていない私は足の力を振り絞り、辛い息を押し殺して追いかけた。そして、影は町外れの廃材置き場へと入っていった。


ゼェゼェとしている息を整えて、廃材置き場に入るとそこの中央で黒いローブを着た何者かが仁王立ちしていた。


ローブの者と対峙している私は無言の時間を汗を垂らしながら過ごす。


すると奴は私に指を指してきた。


「☆%$#☆$○€!!」


何語を話しているのかは分からなかったが私の持っている手紙のことを伝えているのは理解することが出来た。


「この手紙はなんなの?」


私は手紙を持っていた右手を奴に目掛けて突き出した。


それから数秒間、また無言が続き、そして奴がコクリと頷いた。


「たしかに、わたした。ここにさいんを」


奴は指で空に文字を書くと、私の目の前に一枚の紙と羽ペンが現れた。


「これにサインすればいいの?」


私は訪ねた。


「さいんを」


奴は同じことをただ繰り返した。ローブの中から片目だけがチラリと見えた。人の目ではない。


私は羽ペンを手に取ると紙の中央に名前を書いた。インクはついていない状態でサインすると、後から文字が浮かび上がってきた。


その文字はフワフワと漂いながら奴の目の前まで行き、ローブの中から出てきた口に食べられた。


バクりっ


「おわった。おわった。……けいやく成立」


そして、その場から姿を消した。


二つの影が。





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