二日酔いと水
便利屋"シャッフル"の看板がユラユラ揺れる。
「おい、遂に完成するぞ!!」
男が地下室から大声で叫んでいる。
俺は昨日の酒がまだ残っているようだ。頭の中で銃撃戦が繰り広げられている。こんな、狭めーとこで撃つんじゃねーよ、全く。
気持ちよくソファーで寝ていたところを起され不機嫌になる。
テーブルの上にある、瓶やらコップやらを腕で押しやり、常温になった水を一気に飲み干した。
口の中の酒の味が消えない。また、水を飲んだ。
「ジルス!早く来いよ。世紀の大発明だぞ」
うちの相棒はこうもせっかちと来たもんだ。一服くらいさせてくれてもいいだろうに……。
頭と尻をかきながらシャツのボタンを外し、地下室へと続く階段を降りて行った。
「どうなさいましたかな、我が家の発明家さんや」
大きな欠伸をしながら部屋の電気をつけた。良くもこんな暗い中で作業出来るな。
「ニヒヒ、長年の牢屋生活で夜目が効くんだよな、これが。それより見ろよ、完成したぞ」
我が相棒クルフ・パスタークは自慢げにその品に手を向けながら俺にドヤ顔をしてきた。しかし、奴の作っているものに差ほど興味のない俺はその発明品とやらが何に使う物なのか分からない。
丸い台の上に煙突?みたいのがついていて周りが半透明な何かで覆われている。台の上は人が1人くらい、脚を抱えたら入れるようなスペースがあり、辺り一面には理由の分からない管や機械やらが散乱していた。
「おいおい、いったい何に使うんだこんなもん。今まで集めてきた金、全部つぎ込んでこんなガラクタ作ってたのかよ。」
「ガラクタとは失敬な。これは物体転移装置だ」
物体転移装置?なんだそりゃ。
俺はこいつがまた得体の知れないもんを作り上げたことに酷く落胆していた。
明日の酒が買えなかったらぶっ飛ばしてやる。
「驚いてる様だな。これはどんな物体でも一時的に細分化して見に見えない状態にするそしてまた、再構築する」
ほうほう、今回はまだまともそう事を言っている様だ。もう少しだけでも聞いてやるか。
「そして、面白いことに座標を細かく設定し、物体の情報を入力することでどんな場所にある物でもこの場に持ってくる事が出来る。」
……なんだと?それは凄いじゃねーか。どう凄いかは分からんがとにかく凄そうだ。
「ちょ、ちょっとまて話しは聞いたが、物体を細分化?ってのはどうやってるんだ?この世界そんな事が出来るでのか?」
そんな話は聞いたことが無い。俺は自分の中にあった疑問をぶつけた。
「前にシャガール博物館から蒸発の指輪ってのを盗んで来たよな、俺ら。」
蒸発の指輪と言うのは身につけた人物がまるで蒸発してしまったかの様に消えて見えなくなるというお宝のことだ。
「その指輪を調べてみたら、不思議なことによ。太古の昔に失われた技術が使われていたらしく、それを俺がチョチョイと手を加えてこの機械を作ったって訳さ」
俺はそれを聞いて、奴の目を見た。すると奴はニヒッと不敵な笑みを浮かべていた。多分、俺も同じ顔をしているのだろう。
「そう言うことは、コイツさえあればどこにを忍び込まずに金も宝も奪い放題ってことか」
「ご名答よ」
これさえあれば、俺は何もしなくても金が手に入る。酒は飲み放題、女は選び放題。人生ハッピーってな感じよ。
「でかしたな、相棒!!」
「ジルス・クラッチェスさんの御眼鏡に叶って良かったですよ」
そうと決まれば吉日、すぐにでも使ってしまいたい。もう、追われる身とはおさらばだ。死線、苦戦をもう掻い潜らなくてもいいと思うだけでも小躍りしそうだ。
「それでは早速、お宝を拝借したいと思います。待っててね、お宝ちゃん」
そうするとクルフは文字盤をカタカタと打ちながら何かを入力し始めた。
そして、こちらみてニカッと微笑むと手に持っていた指輪を機械の穴にはめ込みレバーに手を置いた。
「それでは参りましょう。我らが未来への第一歩を」
そして、力強くレバーを押すと機械は蒸気をあげながらガタガタと揺れ始めた。
「お、おい!! これ本当に大丈夫なのか?なんかヤバイ音とかしだしてるけど」
「心配するな、これは余興だ。俺の発明を信じろ」
信用ならんな。こいつの発明は失敗の方が多い。これは今回も失敗だったなと思った時だった。
「おー、物体移転装置の中が光だしたぞ!! 俺の発明に不可能は無かったんだ」
そう発言しているクルフの横目に俺は機械へ目をやった。すると、一瞬に部屋全体が謎の強い光に包まれて視界が消えた。
数秒してから目を擦ると視界が回復し周りの様子が分かるようになった。
暴走機械からは煙が出ており、辺りに立ち込めていた。
クルフも視界が回復したようだ。危険物へと歩み寄っている。
「やめとけ、いつ爆発してもおかしくないだろ」
機械がトラブルにより故障したと思っている俺はクルフに忠告した。しかし、奴は話しを聞かずに蓋を開け放った。
「おい!! ジルス。なんか、中にあるぞ。来てみろ」
俺は手招きしながら呼んでくるクルフに渋々従って危険な機械に近寄って行った。
そして2人で中をのぞき込んだ
「「誰だ、コイツ?」」
俺らは一斉に同じことを口にしていた。
なぜなら、見たこともない服を身につけた女が中でうずくまり気絶していたのだった。