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「鬱陶しいです、マスター」


「聞いてくれよ~ダンジョンコア~ あの女俺をノーマナー不法投棄業者と一緒くたにしてきやがったんだよ~」

「鬱陶しいです、マスター」


 コアルームの布団の上、俺は黒色のスライムを抱いてクッション代わりにしながらダンジョンコアにウザ絡んでいた。

 ダンジョンコアとしても問題がひとまずの解決を見せたのは喜ばしいようで、いつもの毒舌の中にも隠し切れない喜びが滲み出ている。滲み出てるよね? 滲み出てて欲しい。


「よし、じゃあ久しぶりにダンマスとして働きますか!」


 クロスラを手放して立ち上がる。行く先にあるのは菱型の水晶体だ。ダンジョンコアルームの最奥に鎮座する。このランビリンスの心臓、ダンジョンのあらゆる機能を司る操作盤。主である俺に呼応してか、淡い蒼色の燐光を放っている。

 俺の周囲に仮想ウィンドウ群が乱立する。気分は近未来のプログラマーだ。


「このギミックだけで1000DPくらい無駄にしたんでしたね。マスター」

「無駄じゃない! なんかこう、すごい気分が高まる!」


 モチベーションは大事だよ。

 

 ダンジョンコアと軽口を交わしながら現在のランビリンスのコンディションを確認する。どうやら迷宮内に放った五匹のスライムたちは精力的に活動しているようで、浄化も無駄な負担がなくなり正常に機能していた。

 一区画一区画丁寧に確認作業を進めていると、ふと右上に表示された赤文字が目に映る。


【ダンジョンポイント:-9950DP】


「ダンジョンコアァ!! なんでぇ!?」

「はい、マスター」


 俺が出掛けている間に何があったというのか。ほんの50DPほどだが、我がランビリンスの借金が返済されているではないか! まるで俺が居ない方がまともにダンジョン運営出来るとでも言いたげに!


「その通りです。ゴミ」

「ついにマスターですらなくなった!? どうやってDP稼いだの? いい子だから教えて?」

「猫撫で声が気色悪いですマスター。ダンジョンログを見ていただければ分かるかと」


 あ、なるほどその手があったな。


 ダンジョンコアの声に従いログを表示させる。うち、モンスターとか野蛮な民族雇ってないから使う機会ないと思ってたんだよね。トラップ発動の報告とかあるけど全部落とし穴だし。

 

【ルーナ・エステラ(王女) が 入場しました DP+50】


「えっ」


【ルーナ・エステラ(王女) が 入場しました DP+50】

【ルーナ・エステラ(王女) が 入場しました DP+50】

【ルーナ・エステラ(王女) が 入場しました DP+50】


「うるせえ! 分かってるよ! 誰だウィンドウ三連続起動させたやつ!」

「私です」

「子供か!」


 眼前には太文字で表示されたルーナ・エステラと、妙に傾いててウザいルーナ・エステラ、虹色に輝くルーナ・エステラの文字列が踊っている。うわ、本当に踊りだした! 気持ち悪い!

 仮想ウィンドウから飛び出して俺の周りで不思議な踊りを始めるルーナ・エステラの文字列たち。眺めていると段々ゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。ルーナ・エステラってなんだっけ……。

 澄ました声してえげつない悪戯を仕掛けてきやがって、ダンジョンコア、恐ろしい奴……。


「私から報告させていただきますと、彼女は火と水魔法を主に扱う魔剣士のようです。ああ、それとマスターよりも早くダンジョンを綺麗にして頂きましたので、良い人だと思います」

「完璧にお前の主観じゃねえか」

「ですが最下層にて不審な動きを繰り返していました。おそらくこのコアルームを探していたのでしょう。放置するのは危険な存在です」

「ふーん……」


 ダンジョンコアの話を聞き流しながら、怪しげな儀式を始めた文字達を一つ一つ指で掴んでウィンドウに押し付ける。最後に残った"エ"を掴むと、足(?)をぱたぱたと動かし暴れて抵抗し、仕舞いにはむくれて"H"のようになってしまった、意地でも帰らない気だなこいつ。


「こうしてやる!」


【ルーナ・H・ステラ(王女) が 入場しました DP+50】


 ふう……これでよしと、いい感じにミドルネームっぽくなったな。


「何を遊んでいるのですか、マスター」

「元はといえばお前が始めたんだろが!」


 一難去ってまた一難。新たな問題に頭を抱えながら、布団で横になり目を瞑る。

 ダンジョンマスターに休息はない、この身はコアと一蓮托生。故に睡眠も必要なく、それが砕ける時は同じように命を散らす。


「やれやれだぜ……」


 広大なだけの居室。張りぼての絢爛豪華に囲まれて、小さく溜息を漏らした。




 翌日。黒スライムを枕にすると安眠できることに気づいた俺は、いい加減こいつにも名前をつけてやろうと頭を捻らせていた。


「やっぱり全てを飲み込む漆黒の王がいいかな?」


 全てを飲み込む漆黒の王は嬉しそうに身体を震わせている。心なしか表面が刺々しい気がするが、気のせいだろう。


「あからさまに嫌がっていますよ、マスター」

「なんだと!? お前に全てを飲み込む漆黒の王の何が分かる――あっ痛い考え直すから刺さないで」


 それでよし、と言わんばかりに堂々と俺の布団に居座る黒スラ。子供にはこの迸るセンスが分からないようだな……。

 

「というか、私より先にそこの黒餅に名前をつけるのですか。マスター」

「あ、黒餅。それいいな。よし、今日からお前の名前は黒餅だ!」

「聞け、ゴミ」


 俺だって出来れば名前をつけてやりたいのは山々なのだが、如何せんダンジョンコアの命名権というのは高い。その額なんと一万DPである。それなら名前をつけるより、生存率に直結するダンジョン拡張を優先してしまうのは致し方ないことだろう。


「――報告します。ステラ王女の侵入を確認。直ちに臨戦態勢を」


 ふざけた口調から一転、仕事モードのダンジョンコアが敵対勢力の接近を感知した。


「あいよ」


 仮想パネルを操作してウィンドウを呼び出す。右上に表示された残DPの表記は-9900。間違いない。


「モニタに映してくれ。追跡モード」

「了承」


 機械的なダンジョンコアの声が響き、俺の眼前にはステラ王女――あの赤髪の女が映し出される。

 片手にはこのランビリンスの地図を持って、最下層への道をとんでもない速度で走っている。地球に生まれていれば世界記録間違いなしだろう。


 ――これがアンドオアの冒険者か。


 知識としては知っていたつもりだったが、実際に目の当たりにすると驚愕を隠し切れない存在だ。完全装備でこの身体能力なのだから恐れ入る。


「ダンジョンコア。ステラの昨日の様子はどうだったんだ」

「報告の通り、最下層を隅の隅まで調べつくしていたようです」

「なんだ。それなら問題ない……だけど」


 こっちの命を狙う賊相手となれば、黙っちゃいらんねーな。

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