ぷろろおぐ
ごきげんよう。異世界の諸君。
いずれ俺と同じ運命を辿るであろう最低の宝くじ当選者の君たちのために、今筆を取っている。
何の話か分からないって? 簡単だ。異世界転生、ダンジョン経営。これだけで頭の良い、もしくはサブカルチャー文化に浸りきった日本人の皆々様には即座に察していただけることだろう。
それこそ始まりは何の捻りもない、神の悪戯と言う奴で、いとも簡単にこの世界に叩きこまれた。住み慣れた地球を離れ、遠路遥々この異世界、アンドオアまで。
この名前の時点で神(笑)の適当さが知れるというものだが、奴はものぐさでもある。テンプレともいうべき、主人公の友、チートを俺にくれやがらなかったのだ。
何かしらのビックバンか天変地異でも起きて、奴の性格が180度捻じ曲がりでもしないかぎり、君たちも同じ憂き目に遭うだろうと思う。そこで、この俺が考えだした天才的方法をここに記す。
ダンジョンを開放しろ。
ダンジョンは人類の敵ではなく、クソ女神の暇つぶしの道具でもない。
金銀財宝を産み、我らの家となり屋根となる。一大建造物。まあ要は、観光名所である。
――初代ダンジョンマスター 一色 要――
ダンジョンコアルーム。本来は迷宮の最下層、強力なモンスターや意地の悪いトラップ、仲間割れ、パーティ内の軋轢、報酬分配のトラブルを超えた先にそれはある。
材質が良くわからないが大理石っぽい床とか、とりあえずなんか豪華そうなレッドカーペットとか、別に必要もないけどなんかあったらカッコいい白い円柱とか。
此処に至るまでの厳しい道程を踏破した英雄達を出迎えるために相応しい内装と言えるだろう。
その部屋の最奥。王宮風に言えば、王の玉座が存在する最も偉大な位置に、俺は布団を敷いて寝転がっていた。
眼前には、青白い光を放つ半透明のウィンドウ群が、この大迷宮「迷宮ランビリンス」の状況をリアルタイムに表示している。
現在は全てオールグリーン。あ、ごめんウソついた。先程から、ある一項目が執拗に赤字を訴え、目を逸らしても瞑っても、たまに気分転換に散歩に行ったってついてくる。
曰く【ダンジョンポイント:-10000DP】とある。
「ダンジョンコアァ!! なんでぇ!?」
「はい、マスター」
少女の鈴の音のような声が室内に響く。その声の主こそがこのダンジョンそのものであり、俺の魂を勝手に植え付けられてお互いに迷惑してる挙句一蓮托生になってしまった。ダンジョンコアちゃんである。名前はダンジョンコア。
「それはマスターが私の命名権を買えないゴミクズ故に初期設定であるだけなのですが」
「思考に横槍入れんなよ! 原因はなんだって聞いてんの!」
「それも一週間程前から再三尋ねられておりますね。確か、これで193回目」
淡々とした声で責められ、俺の良心が疼く。いいや、俺に良心なんて存在しない。なんせ生まれつきのワルである。転生させられた時点でダンジョンマスター、人類の敵なのだから当たり前だが。
「ポイント浪費の一番の理由は、地上の住人の不法投棄が原因です」
「それは確定か?」
「確定です。現実を見ろマスター」
「お前最近口悪いね!?」
うちのダンジョンも、そこらへんによくあるダンジョンと同じく、死体は吸収し、死んだ人間のアイテムは奪い取り、数十分もすれば跡形もなくなるという、大変クリーンな造りになっている、のだが。
「不法投棄とは、より具体的に説明すれば、はいせt」
「あーーーあーーあーー!!! 分かった分かりました!」
ダンジョンを解放し無魔物化したのをいいことに、地上の住人、つまり、この世界の無法者達が、うちの可愛いダンジョンを下水道扱いしているということである。汚物を捨てまくっているということである。しかもそんなものポイントになるわけもないのでエネルギーが浪費されるばかりなのだ。マジで赦せん。
「しかたねえ……こうなったら家主として、一言言ってやる!」
現代風に言えば、気分はマンション経営者。
ノーマナーな住人達にお灸を据えてやろうと、俺は一週間ぶりに布団から這い出した。
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