前章「始まりの合図は」
――肘が…痛い。
今日の特打ちは辛いなんてもんじゃない。石田め、何本ミスりやがってんだ。
特打ち、それは紗羽高校バレー部で行われる練習の一つ。
スパイカーが50本連続決めるまで、永遠に続く練習だ。
拾われたりブロックされたらダメなわけで、そのたびにトスを上げ続けるセッターはもう最悪なわけである。
そんなわけで、今日は何百本上げたか分からないくらい上げ続けた俺の肘と腕はもう限界ってわけだ。
やっと練習が終わって、んー、アイシングでもするか。
「とーしーづーか!アイスバックどこか分かる?」
「あ?あー、池宮が膝ぶつけたって氷もらいにもってった。一之瀬どっか痛めたのか?」
「いや、ちょっと肘をな。石田も利塚みてーに上手ければ俺の苦労も少しは軽く――。っておい、池宮お前大丈夫かよw」
「ちょーっとまずいわ。まぁ冷やしてるわ。」
池宮の膝に目を向けると、まぁバランスよくアイスバックが乗っかってるもんだ。
バレー部っていうのは怪我が多い部活だ。それもあるし、あと疲れもたまるので部員たちは練習後に体を休めながら体育館のベンチで休むことが多い。
ある者はスマホを見、ある者は膝にアイスバックをのせ、ある者はそれを眺めていた。石田は...一番に帰りやがった。
『ヴー ヴー 』
その場にバイブ音が鳴り響く。通知か。だれのスマホだ。
「悪ぃ、俺だ。ん、...おめでとうござ――」
利塚がエナメルの中のスマホをのぞき込みながらその言葉を言い終わらないうちに、池宮のアイスバックが吹っ飛んだ。
地面から突き上げるような、大きな衝動を感じる。
地震だ。
想像以上に大きい。
「揺れてね、っこれ地震地震震度いくつ?ねえやばくね関東大震災またきたんじゃねねえ聞いてるおい――。」
「黙れ一之瀬お前の声が一番怖えーよ、つーか揺れ長くねまだかよってか大きくね――。」
混乱し興奮する一之瀬に池宮が怒鳴る。
「利塚っ、これ震度いくつだよどうなってんだよ!」
身体が大きく地面に揺らされながら一之瀬は尋ねる。
「知らねーよ、スマホなくなってるし...!!」
まだ揺れは収まらない。
一同みなこの揺れがおかしいことに気付き始める。
長い。長いのだ。もう2,3分は揺れてる。
しかも大きい。体育館つぶれるんじゃねえかこれ。
どのくらい揺れたかわからなく、なんだか吐きそうになったころ、揺れは収まりを見せた。
「おい、大丈夫か!」切羽詰まった形相で池宮がみんなを確認する。
「あぁ、一応は。しかし随分と長い揺れだったな。」利塚がそれに応えた。
しかし利塚はその直後、大丈夫でないものを目にする。大丈夫ではなかった。空間に現れたソレは。