表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メテオクライシス  作者: 森野一葉
エピローグ
32/32

31

「なんていうか、普通ね」

 チャーハンを口に運んだ凛奈は、開口一番そう言った。

 寮の居間に集まって、迅達三人は昼食を取っていた。カーテンを開け放したベランダからは、暖かな日差しが差し込んでくる。日差しを浴びていると少し汗ばむようになってきて、初夏の終わりと本格的な夏の兆しを告げているようだ。

 今日の昼食は、迅が作ったものだった。テーブルの上にはチャーハンとスープ、大皿のサラダが並べられている。チャーハンの具は豚バラ肉を中心に、細かく切った玉ねぎや椎茸、人参などを卵で絡めて米と具がパラパラになるまで炒めている。

 湯気とともに香ばしい匂いを上げるチャーハンを掬い、迅はそれを口に運んだ。咀嚼しながら、醤油の塩気と具の旨味を舌で転がす。

「……確かに、二人の料理と比べると普通だな」

 迅のとっては一番の得意料理だったチャーハンだが、やはり凛奈やレニの作る料理には敵わなかった。

 それを素直に認めて消沈していると、レニが慌ててフォローしてくる。

「で、でも、春日君の料理もちゃんと美味しいですよ? 確かに、ちょっと大味は感じはしますけど、そこが春日君らしいというか……」

「……無理にフォローしなくてもいいぞ」

 というか、後半は褒めてるのかけなしているのか、怪しいところだった。

 もう一度チャーハンを咀嚼してから、凛奈もフォローを入れてくる。

「や、実際悪くはないよ。ただ味付けが男らしいというか……調味料とか下味のつけ方とか覚えると、もっと奥行きが出るかもね」

「奥行き、か……」

 料理を趣味にしている人間の評価は、やはり辛口だった。

 迅はもう一度チャーハンを口に運び、懐かしい味を噛み締めてから、もう一度口を開く。

「……いいんだよ。俺は、この普通の味で」

 拗ねてるわけでも、開き直るわけでもなく、迅は苦笑して言った。

 凛奈とレニは驚いたように目を丸くしてから、くすりと笑みをこぼす。

「そーね。普通が一番」

「わたしも、春日君の料理好きですよ」

 二人が妙に嬉しそうに言ってくるのに、迅はなぜだか妙に照れくさい気持ちになっていた。ごまかすように一気にチャーハンをかきこみ、スープも飲み干してから席を立つ。

「悪い。食器を片付けといてくれるか。晩飯の時は、俺がやるから」

「どこに行くんですか?」

「……ちょっとな」

 それで事情を察したらしく、凛奈のレニもそれ以上追及してこなかった。

 彼女達の気遣いに内心で感謝しつつ、迅は部屋を出た。


 ヴァニルの御原島襲撃から、すでに二週間が経っていた。

 あの事件での死者は、九六人。あの規模の戦闘での死者数としては、奇跡的な数と言える。その他にも多数の重傷者を出しているが、一般人の死傷者はほとんど出なかったようだ。

 細川教諭も重傷だったが、かろうじて一命を取り留めたようだった。まだ職場には復帰していないが、来月中には復帰できるという噂を岳から聞いた。

 軍や学園関係者は、いまだに事件の後始末のために奔走しているそうだ。訓練も自習が増えたし、モールの修復もまだほとんど進んでいない。食料や衣類、日用雑貨など、必要最低限の店しか開かないままだ。

 奇跡的な犠牲の少なさとはいえ、失ったものはあまりに多い。

 それでも、学生達は少しずつ、元の緩やかな日常を取り戻しつつあった。


 御原島の外れに出来た墓地に、迅は立っていた。

 墓地の向こうには、一面に水平線が広がっている。吹き付ける潮風は心地よく、照りつけるような暑さを和らげてくれる。

 崖の前に並んだ墓のひとつひとつは、今回の事件で死亡した剣覚達のものだった。

 遺体の多くは遺族に返還され、正式な葬儀が行われたらしかったが、家族がいないものの葬儀は学園で取り行った。また遺体を遺族に返された者達の分も、名誉の戦死を遂げたということで、災害記念碑のような形で墓が作られることになったらしい。

 墓のひとつの前で立ち止まり、迅は潮風に目を細めながら口を開く。

「……また来たよ、小夜」

 墓に刻まれた名は、春日小夜。

 妹の葬儀は、新宿流星害の時にすでに行われていた。だが学園側の厚意で、学園での葬儀に小夜も含めてもらったので、その折に御原島にも墓を作ってもらう運びになったのだ。葬儀の際、小夜の痛ましい遺体と対面して、久しぶりに会った両親が更に老け込んだように見えた。

 妹の墓に線香を上げ、花を取り替える。軽く墓の周りを掃除してから、迅は再度口を開いた。

「……悪い。これから、あまり来れなくなると思う」

 謝罪の言葉を口にしながら、迅は清々しい思いで笑みを浮かべていた。

「仇討ちは終わったけど、俺はもっと強くなりたいんだ……今度こそ、大切なものを守れるくらいに」

 言って、小夜の墓から踵を返す。力強い足取りには、もはや迷いはなかった。

 今の自分には、守りたいものがあるのだから。


   ―了―

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ