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メテオクライシス  作者: 森野一葉
第四章 剣覚達の休日
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 土曜日のショッピングモールは。学生達でごった返していた。

 ショッピングモール『スカイガーデン』の入り口の前に立ち、迅達はぼんやりと行き交う学生達の姿を眺めていた。

『スカイガーデン』は天刃館学園から本土寄りに離れた位置にある、そこそこの規模のモールだ。いわゆるアウトレットモールという形式で、まっすぐ伸びた道の両端を挟むように三階建てのモールが並んでいる。モールを占める店舗は、アパレル関係からホビー系、本屋や電気機器、日用雑貨に食品関係……といった具合に様々だ。

 御原島においては唯一の娯楽施設でもあるため、学生達のデートコースにもなっているようだ。明らかにカップル同士で連れ立って歩いているものも多い。男女どちらかだけで固まっているのは、同じ班か仲のよい友人同士で来ているのだろう。寮で過ごすのに耐えられなくなったものはここに来るしかないのだから、様々なグループを見かけるのは当然と言える。たまに明らかに学生ではない壮年の男性や若い女性も見かけるのは、教師や軍施設の関係者だろう。

 とはいえ――周囲から突き刺すような多数の視線を向けられ、迅は少し胃が痛くなっていた。

 それもそうだろう。なにせ迅は今、男一人で異なる性質の美少女を両隣に侍らせているのだ。逆の立場だったら、迅も「どういう関係なんだ」と思い、じろじろと視線を向けていたことだろう。

「お、思った以上の人ですね……」

 レニが人の多さに少し気圧された様子で、感嘆の声を漏らす。

 今日は見慣れたブレザー姿ではなく、部屋にいる時にも見ないような、かなり女の子らしい私服姿だった。白いシャツの上に淡い色合いのストールを重ね、膝丈のスカートから伸びた細い脚にはショートブーツ――と、レニの小動物のような愛らしさを引き出すような、甘やかなコーディネートだ。

「そう? いつもこんなもんよ」

 応じる凛奈の服装は、少しラフだが彼女らしい華やかさがあった。Tシャツの上に薄手のモッズコートを羽織り、ショートパンツから素足をのぞかせている。モノトーンのハイカットスニーカーが、全体の印象をびしっと引き締めている。

 一方、迅の私服は至って地味なものだ。Tシャツにパーカーを羽織り、着古したデニムと履き慣れたスニーカーという、普段通りの格好だった。

 いつもは別に気にしないのだが、さすがにレニや凛奈と並んで立っていると、なんともいたたまれない気分になってくる。

「なに暗い顔してんの?」

「……いや、別に」

 顔をのぞきこんでくる凛奈に返しつつ、迅は開き直って胸を張ることにした。別にカップルというわけでもないのだから、見劣りしてても卑屈になる必要はあるまい。

 その様子に首を傾げつつ、凛奈が言う。

「じゃ、行こっか」

「おう」

「は、はいっ」

 各々の返事を聞きながら、凛奈が先陣を切ってモールへと歩き出す。その背中を頼もしく思いながら、迅とレニもその後に続いた。

 今日の目的はいくつかある。元々の理由は夕食の買い出しだが、なくなってきた雑貨の買い足しもしなければならない。先週の休みを実家から届いた荷物の整理で潰してしまったため、レニもいくつか私物を見て回る予定らしかった。

 凛奈が真っ先に向かったのは、レディースファッション系のショップが並ぶモールだった。ショップごとに色鮮やかに彩られた店頭ディスプレイは、迅からすると完全に別世界に入り込んだような感覚だった。店舗の中には下着を扱う店もあるようで、迅は慌てて視線を逸らした。

「レニ、なに買うんだっけ?」

「そうですね……とりあえず、梅雨前に夏物を買っておきたいです」

「りょーかい」

「……なぁ。終わったら荷物は持つから、ここで待ってていいか?」

 そのまま手近な店に突撃しそうな勢いの二人を、迅は弱り切った声で呼び止めた。

 当然というべきか、凛奈とレニは怪訝そうに顔を見合わせた。

「どうかしたの?」

「体調でも悪いんですか?」

「そういうわけじゃないんだが、さすがにちょっと入りにくいというか……」

 答えながら、迅は視線で周囲の学生達を見回した。

 レディースファッションのモールに集まる客は、当然女子生徒に限られる。かろうじて見かける男子生徒も彼女連れで、総じてどこか居心地悪そうにしていた。ショップの店員も女性のみで、夏物の宣伝も兼ねているのか肌の露出が多い格好の店員もいて、なんとなく気後れしてしまう。

 凛奈もそれに気づいたようだったが、特に気にした風もなく言ってくる。

「別に気にすることないでしょ」

「いや、気にするって……」

「えー。でも、せっかくだから迅の意見も聞いてみたいしー」

「……お前、俺で遊んでるだろ」

「バレたか」

 凛奈は悪びれる様子もなく、にやりと笑った。調子のいい時にこうしてからかってくるところは、岳と兄妹だなと感じる。

「でも真面目な話、離れて立ってるほうがよっぽどいたたまれないと思うよ? 『あの人、男一人でなにしに来たの?』みたいな目で見られそうだし」

「……それもそうだな」

「じゃ、決まりね」

 ぱちんと手を叩いて、今度こそ凛奈はショップに向かって歩き出した。迅が重い足取りでそれに続くと、隣を歩くレニが気遣わしげに見上げてくる。

「ご、ごめんなさい。わたしが服を見たいなんて言ったから……」

「いや、気にしないでくれ。その内慣れる……と思うし」

「は、はい……」

 レニは少しだけ申し訳なさそうにしていたが、ショップに着くと次第に瞳が輝き出した。やはり女の子というものは、服やかわいい物を見ているとテンションが上がるようだ。

 楽しげに服を選んでいる凛奈とレニを微笑ましい思いで眺めていると、二人の応対をしているショップ店員が迅に視線を向けてきた。人好きのする性格が滲み出るような、相手をほっとさせる笑顔が印象的な大人の女性だ。

 彼女はにこにこと笑顔を浮かべたまま、迅に声をかけてくる。

「お二人のお連れの方ですか?」

「そんなところです」

「お二人とも、とても可愛らしいですね。お客様はご兄妹……というより、クラスメートの方でしょうか?」

「はあ……まあ、そうですね」

 大人の女性とまともに話すのなど久方ぶりなので、迅はなんとなく気後れしながら会話に応じる。

 だが相手はそんなことを気にした風もなく、少し興奮気味に身を乗り出して小声で尋ねてくる。

「それで……お客様は、どちらを狙っているんですか?」

「……なに言ってんですか?」

「ま、まさか二股ですか!? それはちょっと……お姉さんは感心しませんよ?」

「いや、そうじゃなくて……」

 迅が向ける胡乱な視線を受け流しつつ、店員はにっこりと笑みを深める。

「すみません。冗談です。でも、女の子と一緒なのにつまらなそうな顔してちゃいけませんよ?」

 言われて、迅は思わず顔に手をやった。普段、感情が顔に出ないタイプなのであまり気にしていなかったが、初対面の相手からするとつまらなそうに見えるらしい。

 凛奈やレニは、迅の無愛想ぶりにすっかり慣れてしまったため、そんなことを意識したのも久しぶりだった。

「……すみません。元々こういう顔つきなもんで」

「そうなんですか? でもせっかく両手に華なのに、そんなにむっつりしてたら、女の子にもそのうち逃げられちゃいますよ?」

「いや、だから狙ってないんですってば」

「えー。あんなに可愛いのに、もったいない」

 ゴシップ好きのおばちゃんのようなことを言って、店員はがっかりしたような肩を落とした。

 その様子に、迅は思わず口の端を緩め――

「そうそう、それです!」

「……それ?」

「笑顔ですよ、笑顔! やっぱり男の子は、女の子と一緒にいる時は笑ってないとダメです。一緒に楽しんでくれないと、女の子だって楽しくなくなっちゃいますから」

「そんなもんですか」

「そんなもんです」

 しみじみとうなずいてくる彼女に、迅はあごに手をやって考える。

(この人、根っからのお人好しなのかもな)

 多少の野次馬根性もあるのかもしれないが、迅のことを心配してくれたのも事実だろう。また、凛奈やレニに今日一日を楽しんでもらいたいという思いもあるのだろう。それは迅にはない考え方だったし、それだけに彼女の助言をちゃんと受け取っておこうという気になった。

 だが、なんとなく気になって、迅は彼女に疑問をぶつけてみた。

「……心配してくれたのはありがたいんですけど、店員さんがこんなことして大丈夫なんですか? 言われて怒る人もいるでしょうに」

「大丈夫です。言う相手は選んでますから」

「それは……」

 自分が反論もしてこないような、気の弱い人間に見えたということなのだろうか――と反応に困っていると、彼女は笑みを漏らした。

「ふふっ。それだけ、お客様がちゃんとした人に見えたってことですよ。自信を持ってください」

「……それはどうも」

 なんとなく気恥ずかしくなって顔を背けると、また店員が笑みを漏らしたのが聞こえた気がした。

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