19
――暗い。
夜の底のような、深い暗闇の中。
一人の少女が、夜空に腰掛けるように漂っていた。歳はまだ一四、五といったところだろうか。肩まで伸ばした黒髪が夜風に揺れ、白百合を思わせる端正な顔立ちが心地よさそうに笑みを作る。華奢な身体を包む、喪服のような黒地の制服が、彼女の妖しい魅力を一層膨れ上がらせていた。
腰のベルトには、刀身が九〇センチほどもある野太刀を差している。華奢な少女の持ち物としてはあまりに異質だが、野太刀はまるで身体の一部であるかのように自然と馴染んでいた。
彼女は笑みを浮かべながら、眼前の風景を眺めていた。
眼下に広がる海は闇に染まり、黒く濁っている。上空には星もなく、雲に隠れて月明かりもない。
光の届かない闇の中。しかし、彼女の目は眼下の景色を正確に認識していた。
関東の外れに浮かぶ人工島、御原島。その一角を締める、天刃館学園。忌まわしき怨敵どもが、その牙を研いている場所。
そこにいる最愛の人物を思い、彼女はそっと目を細めた。
「……待っててくださいね、兄さん」
この場にいない兄に向けて、彼女はそっと甘やかな声を漏らす。
恋人に囁きかけるような濡れた熱情の中に、彼女はささやかな思いを乗せる。
「もうすぐ……」
野太刀を鞘から引き抜き、抑えきれない熱情を冷ますように、彼女は黒銀色の刀身に頬を寄せた。
うっとりと蕩けた瞳が、夜より尚深い闇をのぞかせる。
「もうすぐ、私が迎え行きますから」
睦言のような甘やかな声には――堪え切れなかったどす黒い殺意が、じわりと滲んでいた。




