第三話
前回までのあらすじ
犬耳っ子と一緒に腕慣らしついでに狩りに行ったらおっきな熊さんと遭遇。
意外と弱くて、あっさり撃破
そしたら、村長から村を出てくように言われてしまいました。
悲しいです。
翌朝の早朝、フィールはまだ寝てるのか静かだ。
せっかく泊めて貰ったのに挨拶しないのは失礼かもしれないが、寝てるのを起こすのはかわいそうだからやめておこう。
家をでて、村の出入り口に村長と護衛と思しきお兄さんが2人いた。
村長もこちらに気がついたようだ。
「おはようございます。村長さん」
「おはよう。君には悪いことをしていると思うが悪く思わないでほしい。これが地図とお金だ」
そんなことを言いながら、地図とお金を渡してきた。
お金はさっさとしまって地図を広げて見てみる。
「この辺りがこの村のある位置だ」
と、指をさすが村があると書かれておらず、木々があるだけだ。
俺の困惑した表情を読み取ったのか村長は話を続けた。
「村の場所を悟らせないために、地図には描いてないのだ。万が一、この地図がだれか別の人間に渡ったとしても村の位置がわからない様にする為なのだ。少々わかりにくいかもしれないが森を抜ける分にはこの地図で十分に抜けられる」
「そういうことですか。森を抜けられるなら問題ないんでいいですよ」
「それと、これも少ないが食料だ」
「ありがとうございます」
そういって、何かの肉のジャーキーを渡してきた。
この際、毒物なんてことはないだろうから受け取っておいた。
「フィールには悪いけど、俺はそろそろ行きますね」
「そうか、わかった。君が森を無事に抜けられるように祈っているよ」
そして、俺は村を後にした。
村を出て二時間くらいだろうか、周りには昨日の狩場と違って色んな生き物がいた。
ちゃんと、いるだけで意外と安心できるものがある。
所々で適当な生き物を狩り、刀の使い方や剥ぎ取りの練習をしたりしていた。
勿論、食料になる生き物だけで必要以上には狩っていない。
しかし、思った以上に剥ぎ取りが難しくグチャグチャになってしまったり、ボロボロになってしまって手を真っ赤にするだけして、素材にも食料にもならない物にしてしまっていた。
刀の方だが、少しわかった事があったのでまとめておく。
まず、この刀は抜いてから斬るより抜いた直後、居合い斬りの容量で斬った方がよく斬れるらしい。
次に、この刀には魔力を込める事が出来るらしく、魔力を込めると僅かに鈍色に輝き、切れ味も少しだけ増す。
魔力のコントロールがうまくいってないからそこまで増さないが、上手く魔力を込められるようになればもっとよく斬れるようになりそうだ。
ここは要検証って感じかな。
刀についてはこの三点がわかった点だな。
短くまとめると
この刀は抜き身より居合い斬りが良い。
魔力を込めると鈍色に輝く。
魔力を込めれば切れ味がさらに上がる。
以上だ。
さて、俺自身の方はというと。
少なくとも強化はされているのは実感できるんだけど、正直どんな強化をされているか全くわからない。
予測の範疇だが、刀の使い方の知識なんてないのにそれなりに扱えるし、村の男の子の拳を受け流したり、熊さんの攻撃を受けたりできたから身体的な強化はされてるんだろうくらいかな?
ゲームみたいにウィンドウ開いてステータス確認できればいいのにとか思った。
森のなかで見えにくいが太陽がほぼ真上に来ている。
時間的に正午くらいだろうか?
「村を出たのが多分5時か6時くらいだったと思うから、6時間は歩いた計算かそろそろ昼飯にでもするか」
適当なところを探したら倒木があったのでそこに座ることにした。
「そういえば、せっかくウリンコとか狩って肉を集めたけど火を起こすもの持ってないじゃん」
リュックのなかも見たがライターとかもなかった。
とてもじゃないが原始的な方法では火をつけられる気はしないので、諦めて持たせてもらったジャーキーを食べてる。
「森の中で地図を片手に抜けるってトレッキングと違って中々に辛いな」
地図的には村から出て中腹って所だろうか。
「6時間歩いてこれくらいなら、割とすぐに森を抜けれそうだな。とは言っても、森を出てから街までもあるから逆算してあと12時間くらいの距離かな?」
さて、休憩はこれで良いだろう。
そろそろ、出発しよう。
「今日中に森を抜けたいけど、流石にハードだな」
その後3時間程歩いたがこれと言ったハプニングもなかった。
この森で魔物や狼人族を狙うやからでも出くわすと思ったがそんな影すらない。
てっきり、一歩歩けば魔物と出くわし、更に歩けば盗賊と出くわし……なんて展開になるかもと少し意気込んでいたから拍子抜けではある。
「日が暮れてきそうだから、ここで野宿かな?」
場所は出口まで3時間くらい……だと嬉しい。
テントと言える程いいものではないが野宿をするだけの簡易仕様の
タープを立てて夜に備えた。
ここまで来るのに順調だったけど、明日には森を抜ける。
森を抜ければ本格的に魔物や盗賊が出てくるだろうから気を引き締めなければ。
異世界三日目にして始めての一人での夜だ。
三日も共にした訳ではないが、フィールがいないのは少し寂しい。
少なくとも、ここに来て得た今知っている知識は、全部彼女に教えてもらったのだから感謝しかしてない。
日は完全に暮れて、月が昇り始めている。
「う~ん、飯はまだジャーキーがあるからいいけど、明日街に着けなかったら流石にまずい量だな」
持たせてもらったとは言えど、そこまで大量って訳では決してない。
量的に3食もあれば十分と言えそうな量だった。
既に1食分は食べているから残りは2食分、せめて火を起こせればどうにかなったんだけどな。
そう考えながら、ジャーキーを食べ終え寝っ転がっていた。
合計9時間を歩きっぱなしなんて殆ど無いせいで、気がついた時には瞼は落ちて眠っていた。
目が覚めると太陽はもう昇っていた。
昇り具合的に8時か9時くらいだろうか?
寝過ごした感は否めないが、そんなことを考えるだけ無駄だ。
俺はタープを片付けて、朝ごはん代わりのジャーキーを加えながら歩き出す。
人間、ゆっくり咀嚼すれば満腹中枢が刺激されてお腹いっぱいに感じられるんだから、それを利用してお昼ごはんを抜けるように、時間を空けてゆっくり食べよう。
幸いにもジャーキー、そう、干し肉だ。
噛みごたえは抜群だぜ!
などと阿呆な考えをしながら、歩いていると小川が見えた。
この小川は目印だ。
森の出口から2時間程の場所に小川があるらしい。
地図にはそう描いてあるのだから、そうなのだろう。
もっとも、2時間という時間は俺が逆算して言ってるだけなので実際はどれくらいかはわからない。
まて、俺は天才的な事を考えながら歩いていたらもう1時間も歩いていたのか!?
と、更に阿呆な事を考えながら、歩み続けた。
歩いていてふと気がついた。
今まで歩いていたところはギリギリ獣道が少し整地されたような小道だったが、今はそれなりに広くしっかりと踏みならされて、整地された道だ。
わかりやすく言うと、トレッキングコースの道と河川敷の道くらいの違いかな?
あれ?むしろ分かりにくい?
「気がつかないくらいに、徐々に道が広がってたんだな。歩きやすいから、昨日よりも進めそうだな」
日が真上に来る頃には森の出口に差し掛かっていた。
が、そんな平和に森を出ることはできなかった。
というのも、目の前にはまさに盗賊に襲われてる馬車がいたのだ。
うっわ、やっぱりこういうのはあるんだな。
盗賊か、あれは狩っていいんだよな?
そう思ってゆっくり歩きながらバレないように近づいていると
馬車に乗ってた男が引きずり下ろされた。
そして、その引きずり下ろされた男と何故か目が合った。
合ってしまった。
ちょっと嫌な予感がした。
えぇ、しましたとも面倒な予感が。
「た、助けてくれ!!」
はい、男は叫びました! こっちを見ながら!
盗賊の男達も当然叫んだ方向に目をやる。
そして、綺麗に盗賊全員と目が合った。
「えっと、おはよう?」
「獲物が一匹増えやしたぜ! アニキ!」
と、喜々として叫ぶ子分A
「あいつ、身なりは微妙だけど持ってる武器は売れそうですぜアニキ!」
と、地味に分析して叫ぶ子分B
「ほぅ、こっちはもう良いだろう、あいつからせしめてさっさとずらかるぞ」
と、特に言うこともない普通な事を言う親分
さてと、相手は3人?少ないな。
馬車の男はいいとして、護衛の一人も雇ってないのか?
「悪いけど、この刀はお前らなんかに渡せないから。さっさと帰った方が、身の為だよ?」
「は? 何言ってやがる、お前は見たところ一人だろうが3人相手に勝てるかよ!」
ダメ元で脅しっぽい事言ってみたけどダメですかそうですか。
「じゃあ、遠慮なくお前達を狩り上げるわ」
柄に手を当てながらゆっくりと近づく
「なめんじゃねえぞ、クソガキが!」
最初に口火を切ったのは子分Bだった。
冷静そうに分析するタイプかと思ったけど違うらしい。
だが、子分Bが持ってるのはダガーナイフ。
リーチが違いすぎる。
「うるせえよ。これでも二十歳過ぎてるわ!」
「うぐっ!?」
俺は、鞘の鏢部分が頭に当たる様に殴りつける。
意外にも、それで子分Bはノックダウン。
「ガッツが足りないんじゃないか? さて、次はどうする? 荷物を置いて帰るなら見逃してあげるけど」
「ふ、ふざけるな! こちとら、何年も盗賊してんだ! お前如きに!」
子分Aが走りながら持っていた鉄剣を振りかざしてきた。
馬車の男も「あぶない!」と叫んだ。
「うおぉぉぉおぉぉおぉぉ!!!」
「じゃあ、これならどう? 俺式……『居合い斬り』!」
子分Aの持っていた鉄剣は真横から半分に斬られた。
「よし!」とつぶやきながら地味に練習してた居合い斬りが見事に成功。
鉄剣だけ斬ろうと思ったが少し失敗していたらしく、子分Aの服が切れていて少し血も滲んでいた。
子分Aも想定外の攻撃に「ヒィッ!」と情けない声を上げて戦意喪失したようだ。
最後は親分だが。
「な、なんだお前は? まさか、王国の騎士なのか!? クソ! 今日はついてない!」
「俺? 俺は柊だ。 残念ながら、王国騎士でもなんでもないただの一般市民だよ」
「一般……市民だと!? 嘘をつくな!」
嘘じゃないんだよなぁ……
「どうした? 怖いのか? かかってこいよ!」
「やろう! ぶっ〇してやる!!」
そう叫びながら親分は突っ込んできた。
親分、その発言は色々まずいっすよ。
「じゃあ、練習ついでにもう一本逝っとこうかな? 『居合い斬り』!」
が、親分が寸での所でバックステップで後ろに下がりこれを回避した。
「それさえ避けちまえばお前なんて怖くねぇ!」
そして斬りかかってくる。
だから、親分さん色々マズイですって。
「もう少し、違う動きをしてくれないと練習にならないんだけど」
「なに!?」
「柊式刀術『燕返し』」
親分は声も出ず、その場に倒れる。
「こんな感じかな? 燕返しってやったことなかったけど、これでいいならおkだろう」
自己完結をしていると、馬車の男がこちらを見ていた。
独り言を聞かれるのって意外と恥ずかしいよね。
「命を助けて頂きありがとうございます。流石に、もうダメだと思っていました……」
「あぁ、護衛も無しにこんなところを通っているなんて危ないだろう」
「そ、それは、その」
と、濁しながら荷台の方を見ると血溜りが一つ出来ていた。
「そうか、失礼を言って悪かった」
「いえ、そんな。 助けていただいた恩人を悪くいうことなんてしませんよ」
「それでお前は何処に行く予定だったんだ?」
「私は先日まで王国の方で商売をしていまして、都に戻る途中に今の襲撃にあったのしまったというところです」
「商売ってことは商人なのか?」
「はい、しがない商人でございます」
「まぁ、何はともあれ大変だったな。俺は歩きだから、そろそろ行くわ」
さっさと会話を切って背中を向けて歩き出そうとしたら商人の男は呼び止めてきた。
「お待ちください! 貴方様のお名前はなんと仰るのですか?」
「ん? 俺か? 俺は柊だ」
「ヒイラギ様ですか。そのよろしければ都までの護衛をお願いしてもよろしいですか?」
ちょっと、予想通りの行動をしてくれてお兄さん嬉しい。
商人的には当然の選択とも言えよう。
盗賊には襲われるかもしれないが、護衛は今死んでしまっていない。
雇った護衛よりも強い人がそこにいるんだ。
しかも、自分が行こうとしている方向にそいつも進んでる。
声を掛けずしてなんとする!
「雇って頂くのは結構ですが。 俺は高いですよ」
「そうですね、それでは銀貨5枚でどうでしょう?」
「それ、相場的にどうなの?」
「一応、私の知ってる中で結構高い相場だと存じております」
銀貨5枚か、因みに昨日貰ったお金は金貨5枚だ。
正直、金貨5枚ってだけでも十分に資本になるが稼いでおいて悪いことはないだろう。
相場は知らないが、別に数人相手なら余裕っぽいしな。
「わかった。仕方ないからそれで受けよう」
「ありがとうございます!」
「時間が惜しい。さっさと行くぞ」
「はい! では、行きましょう」
盗賊からナイフやら宝石っぽい物やらをさっさと回収して馬車を出発した。