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フリーターだった俺でも異世界でやっていける!  作者: 宵月八尺
第一章 『青年は冒険者になる』
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第二話

 前回までのあらすじ

 

 家で寝ていたと思ったら、犬耳尻尾を生やした女の子に起こされた。

 しかも森の中。

 どうやら、ここは異世界らしい。

 そして、なんだかんだでその犬耳っ子のお家でお泊り。

 ちょっと嬉しい。 

 夢の中の自分は夢であると認識はしている。

 攻撃することも防ぐこともできない。

 うなされながら朝を迎えた。


 身体を起こそうと力を入れたら、少し重さを感じた。

 布団の代わりにともらったタオルケットを捲ると、なぜかフィールが潜り込んいた。


「なんでお前、ここで寝てるんだよ」


 揺らしながら声をかけるとフィールも目を覚ました。


「あ、柊さん。おはようございます」

「あぁ、おはよう。それで、なんでここでお前は寝てるんだ?」

「夕べ、うなされていた様なので心配で見に来たんですけど、眠気には勝てなくて一緒に寝ちゃいました」

「わざわざありがとう。だが、いつもこんな感じだからうなされてても気にしなくていいぞ」

「そ、そうなんですか?」

「そうだ。それに、若い女の子が男の寝床に潜り込むのはやめてくれ」

「子供扱いですか?」


 フィールはムスッとした顔で呟いた。


「いや、違う。むしろ、子供っぽくは見えないから、あまりそういう事はしないほうがいいと言ってるだけだ」


 主に俺の精神衛生上的な問題だけど。

 嬉しくないわけじゃないけど手を出す程かと言われるとまだ幼さがあるから無理だな。


「褒められてる?」

「どうだろうな。それよりそろそろどいてくれ」

「あ、ごめんなさい。今降りますね」


 そう言って降りたらフィールは「じゃあ私は朝ごはん作ってきますね!」と言って調理場に走って行った。


 異世界二日目朝

 今日は、始めての狩りで……いいのかな?

 正直な話、ただの狩りでも実感が無いせいか全く危機感が沸かない。

 装備は命を守る絶対的に必要な物だ。

 しかし、今の服装はバイトに行く時に来ている長袖とシーパンにコートという防御力は皆無。

 魔物が発生してるとはいえ少ないらしいし、それに今日は普通の動物狩りだ。

 そこまで考え込んでるよりはとりあえず対峙して慣れる方が良いだろう。

 習うより慣れろだ。


 そんなことを考えているとフィールが朝御飯を作り終えて持ってきた。


「お待たせ~!」

「おぅ、ありがとう……これは?」

「これ? ウリンコの肉を甘く煮たやつですよ?」

「そうか……」


 食料的に、いいものが多い訳じゃないと思ってたけど。

 まさか、朝ごはんでがっつり肉になるとは……狼人族恐るべし!!


「口に合わなかった?」

「いや、美味しいよ。今日は狩りって言ったけどどうしようかなって少し考えてたんだ」

「そっか口に合ってよかった。狩りか……じゃあ、ウリンコ肉がそろそろ底をつき始めそうだから補充の為にもそれを狩りに行こう! 肩慣らしにももってこいだと思うよ」

「わかった。ならさっさと食べて準備しよう」


 …………甘い……。


 朝食も食べ終わり、狩りの準備を始めている。

 準備と言っても俺は昨日のリュックと刀以外に持ち物は無いからフィール待ちである。

 昨日見た服装なのかと聞いたら「あれはただのお散歩用だよ!」と言っていた

 どうやら他に狩り用に装備を用意しているらしい。 


「お待たせしました!」


 そんなことを考えていたらフィールは自分の自室から出てきた。

 革の胸当てに革のグローブ、腰には短剣が添えられている。


「ど、どうですか?」


 どうですかの意味はわからないが、強いて言えば普通の装備なんじゃないだろうか?

 ここの異世界知識が皆無な俺にどうと言われても困るが……適当に返しておこう。


「おぉ、いい装備なんだな。いつもそうなのか?」

「昨日も言いましたけど防具は命を守る大切な装備です! なので、そこにはしっかりお金を掛けるべきなのです」


 えへへとはにかみながらフィールは装備の大切さを説いてきた。

 昨日も装備を気にしてたな。 


「それで、狩りってどこでするんだ?」

「はい、ウリンコの狩場が村から歩いた所にあるのでそこに向かいます!」

「もう出るんだよな?」

「そうですね。私の準備は終わりましたので柊さんが良ければすぐにでも出発できますよ」

「わかった。俺は準備するほどの物はないから出発しよう」


 そういって家からでて村の出入口に向かう。

 相変わらず村人の視線は痛いがこっちから何かしなければ何もしてこないだろう。


「おい!」


 村の出入り口に差し掛かったところで後ろから声をかけられた。

 俺もフィールも当然振り返るとそこには、昨日の男の子ケルト君がいた。


「お前! フィールと何処に行こうってんだ!」

「ウリンコとやらを狩りに行く手伝いだが?」

「は? お前みたいな弱そうなやつが手伝い何か出来るわけないだろ!」


 嘘を付く理由はなかったからそのまま答えたが、少し癇に障るなこいつ。

 とはいえ、私服に刀が一振り。

 俺が見ても弱そうな装備だが、それで行けるか試そうというのに装備をどうこう言われても困る。


「あんまり騒ぐなよ、耳が痛いだろ」

「ふざけるな!」


 ケルト君はそう叫ぶと殴りかかって来た。

 しかしその拳はあまりにゆっくりで受け流すのは造作もなかった。


 ケルト君はありえないと言いたそうな表情を浮かべていたが、ケルト君だけでなくフィールも驚いていた。


「あれ? 俺なんかやばいことやった?」


 あまりにも2人が驚いているので聞いてしまった。


「や、やばいというか、すごいですよ! 拳を交わすんじゃなくて受け流すなんて!」

「え? 結構ゆっくりに見えたぞ?」


 その言葉にケルト君は愕然としていた。


「えっと、柊さんの職業って冒険者じゃないんですよね?」

「冒険者なんて職業もあるのか」

「冒険者みたいに戦闘経験がないのに攻撃を交わせるなんて戦闘の才能があるんですね!」


 フィールは喜々として尻尾をはち切れんばかりに振っている。

 ふむ、これが夢のやつがくれたっていう力なのか、便利っぽいし良しとしよう。

 昨日の夢も不幸はこれくらいで済んだだろうしさっさと狩りに行きたい。


「まぁ、よくわからんけど。さっさとウリンコ狩りに行こうぜ」

「あ、そうだった! じゃあケルト君! 行ってくるね!」


 ケルト君は答えなかったが手は振ってくれていた。


 30分くらい歩いただろうか、これと言った会話はなかった。

 フィールはウリンコの群れを探したり、別の脅威がないか探しながら探索しているらしい。

 流石に安全圏を歩きながらすぐにウリンコの狩場には行けないか……。

 それにしても、生き物が少ない。

 猪や鹿とかの中型も野うさぎみたいなのもネズミみたいなのも見当たらない。

 しかも、野鳥みたいな飛行生物もいない。

 そんなことを考えているとフィールが立ち止まって顔をしかめながらこっちを向いた。


「おかしいです」

「なにがおかしいんだ?」


 オウム返しの様に聞いてしまった。

 おかしいってまさか俺が襲ってこないとかじゃないだろうな。


「ウリンコもビンビラも何処にもいません」

「いないって見えないとか偶々見つからないだけじゃなくてか?」

「いえ、それなら臭いがします。でも全くしないんです」

「それってやばいんじゃないか?」

「とても、やばいです」


 そんな会話をしていると俺は嫌な予感がした。

 寒気やイライラとは似たようで違う逆撫でされた様な嫌悪感。


「一度、村に戻って村長に報告したほうが良さそうです」

「そうだな、俺も嫌な予感がする。早く――」

 《バキッ!》


 戻ろうか。

 そう言おうとして乾いた木の折れた音が響いた。

 俺の後ろから。

 フィールの顔が青褪めている。

 俺は「はぁ……」とため息をつきながら振り返るとそこには2mくらいの熊のような姿をした生物がいた。


「なにこれ、熊か?」


 フィールに聞いたが、恐怖で頭が真っ白みたいだった。

 大丈夫だと、言いながらフィールの頭の上にポンポンと撫でる様に軽く叩いて熊に向き直る。

 見たところ、ただの熊っぽいけど魔物なのか? 強くないと嬉しいんだが。


 《グルルルルゥゥ》 


 あ、熊さんめっちゃ怒ってらっしゃる?


「仕方ない。腹を括ってお前を狩り殺す」


 刃を抜こうすると熊はドタドタと重量のある足音を立てながらこちらに走ってきて殴りかかってきた。


「やっべ」


 流石熊、四足歩行は足が早く、油断していた為に刃を抜ききれず鞘で受けた。


「うっ……ん?」


 が、思いのほか軽い一撃だった。

 バックステップを2歩下がり刃を抜ききる。


「攻撃も軽いし身体も軽いな、これならやれそうだ」


 一歩踏み込む。

 その一歩にはまるで音が無く静かな一歩だ。

 間合いを詰めて、刀を振り上げた。


 《グギャァアアァア!》


 熊は森の中全体を響き渡らせるような悲鳴を上げた。


 それもそうだろう、たった一撃で左腕が身体からおさらばしてるのだから。

 血走ったような目をしながら熊はこちらを睨みつけて来たので俺も『笑顔で』睨み返してみた。

 熊はそれで死を実感したのか、尻尾を巻いて逃げようと背中を向けた。


「え、逃すわけ無いじゃん」


 さらに踏み込み、背中を斬りつける。

 その一撃が致命傷になったのか、熊は息絶えた。


 たった二撃。

 意外とやればどうにかなるもんだな、これならもう少し強い奴とか魔術使うやつとも戦えそうだ。

 そういえば、フィールを忘れてた。

 この戦闘、10分足らず。


「ひ、柊さん! あれ? ダーズベアは?」


 フィールは木の陰から怯えた顔をピョコンと出して訪ねてきた。


「さっきの熊さんならそこで寝てるぞ」

「え? 嘘、まさか一人で?」


 俺と熊を交互に見ながら顔がさらに青くなる。


「嘘ついてどうするんだよ。それにここには俺とお前しかいないだろ」

「こ、この魔物はダーズベアって言うCランク相当の魔物ですよ? それを、一人で倒すなんて凄いと思っていましたけど凄すぎです」

「あれで……」

「でもダーズベアは深部の方にいるはずでこんな場所じゃいないはずなんだけど……」


 あれでCランクなんて弱すぎとは言えなかった。


「とりあえず村に戻ろう。それとこの熊はどうする?」

「持ち帰って素材を剥いだあとにご飯にします」

「そうか……」


 ――――コレ、食べれるんだ。


 村に帰ると騒がしかった。

 そんな中、戻ってきた俺たちに気がついたのか一人の男が声をかけてきた。


「フィール無事だったか。今、森の中で魔物の声がしたってやつがいてな。討伐隊を編成してお前を探しに行こうとしていたところだったんだ」


 どうやら、俺のことはそもそも眼中にないらしい。


「村長さん、魔物ってまだいたんですか?」

「またって何を言ってるかは知らぬが声は一体だけだと言っていたな」


 こいつ、すげー若そうなのに村長なのか、大変なんだな。


「それじゃあもう大丈夫です! 柊さんがやっつけましたから!」


 そう言いながら、熊の生首を見せる。

 因みに、そのままだと流石に大きくて重いので革を剥いだり、肉を小分けにしたりなどして小さくし2人でもって帰ってきたが持ちきれない分は諦めて捨てる形になった。

 この頭(生首)は討伐の証の代わりに持ってきている。


「フィールとお前がやったのか?」

「違います! 柊さんが一人でやりましたよ」

「なん……だと……」


 もう、何度目かになるここの人たちの「ありえない」って表情は見飽きてきた。


「すまない、君。いや、柊君と言ったかね。悪いが今、時間は大丈夫かね?」

「フィールが大丈夫なら俺は特にやることはないですけど」

「そうか、ならばすぐに私の家に来てくれ。少しばかり話がある」

「わかりました」

「え、柊さん。村長の家に行くの? じゃあ、私も行きます! 村長、いいですよね?」

「彼がいいなら構わない」

「俺は問題ないんでいいですよ」


 ちょっと嫌な予感しかしないが、フィールの同行を了承してるんだしそれ程ヤバイことも言われまい。

 そのまま、俺とフィールは村長の家についていくことになった。

 流石は村長の家、他の家よりは広い。


 部屋の中の客間に案内され席に着いた。


「さて、席に着いて早速なのだが本題だ」


 席に着いてすぐに話始めてきた。

 アレな話、お茶くらい出してもいいのではないでしょうか?と言いたくなったが無駄な口論をするのは面倒なので我慢ということで。


「まずその子、フィールを助けてもらった事は感謝する」

「いえ、色々教えて貰ってるのでそこは別に」

「だが……」


 村長はほんの一瞬言葉が詰まったように難しい表情をして話を続けた。


「申し訳ないのだが。この村から出て行ってほしい」

「わかりました」


 だろうな。

 そんなもんならさっさと出ていくとしよう。

 村長とフィールは素直に受け入れると思っていなかったのか、二人して「え?」と言いながら俺の顔を見ているのでそのまま続けた。


「元々、そんなに長いするつもりはなかったですし。それに、ここの村人は人間が嫌いなようですからね。それならさっさといなくなる方がいいでしょう?」

「で、でも柊さんは私を助けてくれた恩人なんですよ!?」

「フィールが彼と一緒にいる分には私たちも何も言うつもりはなかったのだ。しかし」

「しかし、あの熊さんを倒しちゃったからいけないと?」


 俺は言葉を遮るように聞いた。


「あぁ、そうだ。ダーズベアは数人で集まって倒すのがセオリー。それを一人、しかも無傷で倒すような人族を脅威に思いまた襲われるのではないかと感じる村人も多いのだ」

「その辺りは昨日、フィールから聞きました。王国だか都だかの王子様の話ですよね」

「その通りだ。そして、そのせいで未だに狙われ続けている」

「まぁ、今日すぐに出て行くのも難しいんで明日の朝一でいいですか? それと俺、無一文でしかも森を抜けられる気がしないんで地図か道案内をしてくれると嬉しいんですけど」

「なら、私が道案内をします!」

「王国通貨は少ないが用意しよう。地図もあるからそれを渡そう。それでいいかな?」

「あぁ、それで問題ない」


 フィールの発言がなかったかの様に続けられた。

 当然、無視されたフィールは頬を膨らませて怒っているようだ。


「お金と地図は明日の朝までに用意する。話は以上だ」

「では、失礼します」


 そう言って、村長の家を後にしてフィールの家に戻る。

 家に帰ってからというもの、フィールはずっと黙ったままで晩ご飯はお通夜状態だ。

 結局就寝まで言葉を交わすことはなく、眠りにつくことになった。


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