第一話
前回のあらすじ
起こされたら、目の前には犬耳っ子と森が広がっていました。
訳がわからない。
疲れてるのかな。
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「なんだよ……これ……」
目の前には犬耳の女の子がそして広がるは広大な森だ。
自宅で寝てたはずなのに森だ。
「俺は、いつの間に夢遊病を患ったんだ?」
思わずそう呟いていると。
起こしてくれた犬耳っ子がこちらを不思議そうに見つめていることに気がついた。
話かけてこない所からして警戒半分興味半分って所だろうか?
と言うか、ケモ耳って異世界か?俺、死んだのか?まずは情報収集が先だな。
「すまない、君は誰だ? あと、ここはどこだ?」
「ここ?ここはセクヴィの森ですよ?」
彼女は普通に答えてくれた。
正直、意外だったがこの際いいか。
「私はフィール、フィール・ラピスって言います。近くのスティガオ村に住んでるの、貴方の名前はなんて言うの?」
「そうか、俺は……柊だ」
本名を名乗ろうか少し迷ったが、問題もないだろうから普通に名乗ることにした。
「ヒイラギ?」
「あぁ、柊 禍鳴だ」
「教えてくれてありがとうございます。それで、ヒイラギさんはどうしてこの森で寝ていたのですか? 獣や魔物は少ないけどそれでも少ない訳じゃないから危ないよ?」
「それが自分でもわからないんだ。昨日は家で寝てたと思うだけどな」
「じゃあ、この荷物はヒイラギさんのですか?」
「ん?」
彼女は近くの木の根元を指差して聞いてきた。
そこには日本で一般的な登山で使われるリュックサックがあった。
「多分そうだ」
と、言いながらリュックに近づき持ち上げると。
思いの外軽くスッと持ち上げると
――ガンッ
何かが重い物落ちた。
俺は早速何か壊したと思い、恐る恐るリュックの下を確認するとそこには一振りの刀が落ちていた。
え、刀?何故、刀?
「もしかして、これがかんなぎなのか?」
「え? どれですか? 何かありました?」
呟いていると彼女は興味津々な様子で尻尾を振りながらこちらに来た。
「あぁ、リュックの下にこいつがあってな」
そう言ってフィールに刀を見せた。
「変わった物ですね? これは武器のようですが?」
「あぁ、これは刀って武器だこういう感じに……」
――シャキン! とまではいかなかったが刀を抜いてみた。
刀身は赤黒く波紋は綺麗な銀色だった。
「これが刀って言うの? 変な剣ですね。こんなのじゃ魔物を切ってもすぐに折れちゃいそうですよ」
「まぁ、これしかないからな。とりあえずこれでどうにかするしかないだろう」
「どこかに行くの?」
「いや全く、行くあては無いな」
「じゃあ私の家に来ますか? ここは森の中でも丁度真ん中辺りなので今からじゃ日も暮れて危ないですし!」
――ここ、真ん中なのかよ……。
「それに、ここの所は魔物が多くなってるから、そろそろ戻らないと危ないよ?」
「そうかそれじゃあお言葉にあま――」
「おい! お前! フィールに何してる!!」
静かだった森に会話を遮るように怒声が響く
「お前! フィールに何してるんだ! 離れろ!」
そこまで近かったつもりはなかったが、手渡しできるくらいの距離だが、近い……か?
そんなことを考えていたら俺から引き離しつつ彼女と俺の間に入って来た。
「ケルト君どうしたの? そんなに大声だして」
「フィールが帰ってこないから探しに来たんだよ。そしたら、そこの人間が見えたから急いできたんだ」
「そっか? でもこの人悪い人じゃないよ?」
「悪い人じゃないだって? 剣を抜いてるのに危なくないわけがないだろ!」
そう言いながらケルト君とやらは俺の手を指差してきた。
そういえば、抜いたままだった。
何事もなかった様にしまっておこう。
「おい、お前。」
「ん? 俺? どうした」
「何故ここにいる。俺らを狩りに来たんだろ!」
「狩り? いや、俺はここで寝てた(らしい)所を彼女が起こしてくれただけだぞ」
「寝てたってなんでこんな所で寝てるんだよ!」
「さぁ? 気持ちいいから?」
彼は凄く不機嫌なようだ……一体、俺が何をしたって言うんだ。
「とりあえず、ヒイラギさんは私の家に連れて行くから!」
「な、何言ってるんだこいつは人間だぞ! 信用出来るわけないだろ!」
更に不機嫌になったようだ。
これ、へそでお湯を沸かせるんじゃないか?
「ケルト君煩い。私が決めたんだからいいじゃない!」
「でも、こいつは人間――」
「連れてくの!」
ケルト少年の尻尾はダランとした。
どうやら折れて諦めたようだ。
「じゃあ、私が案内するからついてきてね!」
彼女は元気良く言い、村まで案内をしてくれた。
因みに彼は、ブツブツ言いながら後ろからついてきていた。
何事もなく無事に村に着いた。
そこまで大きくはないが集落よりは大きいと言った所だろうか。
歩いて20分くらいだからそこまで遠くはない距離だったようだ。
村の中に入ると周りの人から滅茶苦茶見られているみたいだ。視線が痛い。
それと、軽く見回した感じだとここはケモ耳っ子の村のようだ。
そんな事を考えながら村に入って5分程歩いた所でフィールは声をかけて来た。
「ここが私の家だよ! さ、上がって!」
そう言って、ドアを開けて中に案内される。
「ちょっと汚いけどゆっくりしててね! お茶を淹れてくるから!」
パタパタと台所があるのだろう方向に走って行った。
汚いと言ってはいたが、そんなに汚くはない。
いや、綺麗な方だ。
そこまで待つこともなくすぐにお茶をいれて戻って来た。
両手でお茶を持ちながらそろりそろりと。
なにを緊張しているかはわからないが少し可愛いらしい。
「そ、粗茶ですがどうぞ!」
「あぁ、ありがとう」
「それで、どうしてあんな所で寝ていたんですか?」
そりゃ、普通あんな所で寝てたら不思議に思うだろう。
当然聞いてくるよね。俺も聞きたいもん。
ここは素直に答えるのが吉だろう。
「それが俺もよくわからないんだ。気がついたらあそこにいたみたいでな」
「そうなんですか。それにしてもさっきから見ていて気になったのですが、この辺では見たことない服装ですね。都ではそのような服装が流行りなの?」
「都ってのがどんな場所かは知らないが多分関係ないな」
「えっと、どこから来たんですか?」
まぁ、そこも聞いてくるよな。
見たところどう考えても異世界だ。
異世界で「地球からきた」とか「日本から来た」と言ったところで信じてもらうどころか変な奴だな……「遠い東の国」とか言ったとしてもしここが最東端だったらヤバイだろうし。
どうしたものか……。
いっその事、記憶が無いフリをすれば誤魔化せるか?
「どうしました?」
考えていたらフィールが覗き込んで来た。
「悪い、思い出せないみたいだ」
「え? 思い出せないって、まさか記憶が……?」
うまく誤魔化せたようだ。
ちょっと、信じやすい子だったみたいだ。
少し心苦しいが仕方ないだろう。
「あぁ、すまない。どうやらそのようだ」
「そ、そうですか……ごめんなさい……」
「気にしなくていい、覚えていないという事を今知ったくらいだ。そういえば、さっきの男の子はいつの間にかいなくなっているけど、どこに行ったんだ?」
「男の子……あぁ、ケルト君なら村に入ったあとすぐに家に帰りましたよ」
あいつ、いつの間に帰ったんだ。
気がつかなかったぞ
「そういえば、狩りとか物騒なこと言ってもいたけど。お前ら狙われてるのか?」
「あ、そのことですか……」
少し考える様な顔をしながら話を続けた。
「40年程前、都の王様が私たちを討伐命令を出したんです」
「討伐命令って一体何をやらかしたんだよ」
「聞いた訳じゃないんだけど、当時の王子、あ、今の王様なんだけど、そいつが討伐命令を出したみたいなのよ」
「それは冤罪かなにかか?」
「うん、どうも王子が狼人族の子をねだったらしくて、私兵をこっちに寄越したのだけど村長が断っちゃったの。それで、手に入らなかったから王子が怒っちゃったらしくて」
「逆恨みして討伐命令と……面倒だな」
「うん、だからこの森に逃げ込んで来て住んでるの」
国に追われてるって面倒だな。
とりあえず、もう少し情報が欲しいな。
「話は変わって悪いがこの世界について聞いてもいいか?」
「この世界について? ですか?」
「あぁ、そういう事すら覚えていないんだ」
「そうなんですか。わかりました! 私がわかる事ならなんでも聞いて下さい!」
――話を聞いてわかった事をまとめると……。
この世界には4つの大陸があるらしい。
ヴェルカ大陸、ニンフィート大陸、シルヴィ大陸、クウェイン大陸の4つだそうだ。
因みにこの大陸はシルヴィ大陸らしい。
次に、種族が主に5つあるらしい。
人種、獣人種、精霊種、古妖精種そして魔族種。
魔族種だけは少し括りが曖昧らしく4つの種族以外且つ言語を喋ることができ、友好的な者が該当するというものだそうだ。
言うまでもないが俺は人種で、フィールは獣人種だ。
他にも異世界らしく魔術がある。
火、水、風、土が基本属性で他にも治療魔術があったり混合魔術があったりするらしいが浪人族のほとんどは魔術は使えないらしい。
だから、魔術本とかもないそうだ。
俺も、魔術……使えるのかな?
そして、魔物だ。魔物には危険度によってランク付けがあるらしくDランクからSランクまである。
しかしSランクはいないらしい。
というのも、異世界ならではのドラゴンがいるそうだが、一番強いと言われている種類も能力的にはAランクらしい。
ドラゴンはちょっと戦いたくはないけど一度見てみたいね。
ただ、Bランク以上の魔物は魔術を行使するものもいるらしいので注意が必要みたいだ。
と、こんな感じだ。
いかにも異世界!って感じだな。
「今日はここに泊まってもらおうと思います。明日には村を出ますか?」
「いや、できれば数日間泊めてもらいたい。どれくらい戦えるかもわからないしな。」
そういうと、フィールは尻尾を左右に振りながらこちらを見ていた。
「泊めてもらう以上は仕事もする。できることがあれば教えてくれ」
「う~ん、この村でお仕事って言うほどすることもないのですよね。それこそ魔物討伐くらいかな?」
「魔物狩りか……なら明日は魔物討伐に行こう」
フィールは尻尾をピンッと立てながら驚いた顔をしていた。
「えっと、もしかしてその装備で行くの?」
そう言って俺を指さした。
「駄目か?」
「いや、駄目っていうか、自殺行為ですよ」
「まぁ、あの刀が使えるか確かめる程度だし、あれは身軽な方が使いやすいから」
ってことにしておこう。
刀は振ったことなんてないし、装備を買う金なんてそもそもないしな。
確実に日本円は使えないし……てか、持ってきてるのかな?日本円……。
「どっちにしても、すぐに魔物討伐は危ないから明日は食材集めを手伝って欲しいかな」
「わかった。じゃあ明日は食材集めって事で」
「そろそろご飯の準備をするね! 適当にくつろいでてくださいね」
そう言ってパタパタと調理場に走って行った。
そういえば、リュックの中身を確認してなかったな。
暇だし見ておくか……。
ひっくり返すのはちょっと怖かったから普通に開けて、上から出していった。
懐中電灯、ナイフ、簡易裁縫具、簡易応急処置セットに……。
「なんだこれ……」
それは、ピッチャーが入っていた。
ピッチャー。投手じゃないよ?水を入れておいて分ける容器の方のピッチャー(水なし)
「え、使い道を聞きたい……」
夢に出てたあいつが持たせたって考えるのが通りだろうけど、何故ピッチャー!?そこはせめて水筒じゃないの!?しかも意外と大きい3Lだ。
流石に銃火器は無いか……あっても困るが、ピッチャーじゃなくて拳銃の一丁でも持たせてくれた方が安心できたんだけどな。
――そんなことをしていると調理場から、いい匂いがしてきた。
さて、いい匂いもしてきたし、出来る前に片付けておこう。
因みに、日本円は入ってなかった。
あっても使えないだろうから困るけど。
「お待たせ! お客さんがいるから頑張っちゃいました!」
「そういえば、料理手伝わなくて悪かったな」
「いいのいいの、くつろいでてって言ったのは私だし」
そんなやりとりをしながらテーブルに料理が並べられた。
「ウリンコのステーキに、ビンビラのお肉炒め(肉のみ)です!」
「美味そうだな」
「はい!腕によりをかけて頑張って作りました!」
見事に肉のみの2品だ……
ウリンコは名前的にウリ坊だろうけどビンビラって一体何の肉なんだろう。
食べなきゃ始まらないか。
恐る恐るウリンコのステーキを口に運んだ……
「ど、どうですか?」
若干不安そうな顔で見てくる。
「おぉ、美味しいぞ。ご飯が無いのが惜しいくらいだ。」
「お口に合ったなら良かったです!」
フィールははにかみながらそう言いつつ自分も箸をつけ始める。
ウリンコはやっぱりうり坊の肉らしい。
ボタン肉、しし肉ってちょっと独特だって聞いたけど普通に美味しい。
料理が上手いのか、日本とは微妙に中身が違うのか。
食べれるからどっちでもいいけどね。
因みにビンビラのお肉炒めだが、味は個人的にはイマイチだった。
牛のような乳臭さは無く鳥の様な感じでジューシーさもない。
豚肉程こってりもせず、筋肉で引き締まっていてちょっと鉄臭く、タンパク質。
まさに『肉!』って感じではあったけど。
食事を終えて食器も片付き、就寝の支度をしてもらった。
どうも敷布団が一式しかないらしく、一緒の布団でと言ってきたが遠慮させてもらった。
見た目的に俺より若いだろうし、一緒に寝るのは精神衛生上ヤバそうだ。
俺はどこで寝ているかというと、ソファだ。意外と、こういうところで寝るのは慣れてるのですぐに眠れるが、少し今日の事をしていた。
異世界1日目
変に冷静だったせいか、あまり実感していなかったけどここは異世界だ、ダンジョンとかあったら面白そうだな。
その辺も踏まえて、明日の朝にフィールに聞こう。
そう考えながら目を閉じていると、気が付くと眠りについていた。
続けて読んで頂きありがとうございます。
執筆初心者なので誤字脱字はご容赦ください。
感想等、お待ちしています。