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第九十二話 人妖合身

"魔法言語"というスキルは、β版では攻撃及び回復魔法の効果を上昇させるものであった。そのため純魔法職はほぼ全員が取得しているスキルである。精霊や妖精と話せることは分かっておらず、セイクのように、前衛職から魔法も使える職になったという者は持ってないことも多い。セイクの扱う魔法は主にバフと付加エンチャントだ、そのため魔法言語を取得する必要性が薄かった。


「俺は魔法言語を持って無いぞ」

「詠唱は私が人語で教えます。セイクさんは私に続いて、魔法言語で唱えてもらえばおそらく契約できます」


 この発言は、フェデアからすれば"魔法使いの仲間がいて、セイクも魔法を使えるなら、魔法言語ぐらいできるだろう"との意図から来た発言だが、セイク側からすれば、あまり取得する意味のないスキルに貴重なポイントを使うということだ。だが、


「分かった」


 目の前の彼女の覚悟を決めた様子を見て、断わるようでは彼は主人公ヒーローという器ではない。


「Geboren von Anfang an und ein Geist Vor der Kraft, lieh Kraft, um die Vorteile mit dem Wissen zu nehmen uns」

「原初より生まれし精霊よ、その力、知識を我と共に生かす為に力を貸したまえ」


 セイクは取得したばかりの魔法言語で、必死にフェディアの詠唱の後を追う。自身の口からは日本語のつもりで発声しているが、足元の魔法陣は光を強めながら契約を進めていく。


「Vertrag von altem, geistigem Vertrag!」

「古からの契約を、妖精契約!」


 そうして最後の一節を唱え終えると同時に、うろ内を覆いつくす光が収まった。それと同時に、セイクの手の甲に熱とともに、契約の証が刻まれた。


「ありがとうございます、セイクさん。こんな私と契約して頂いて……」


 今度こそ、覚悟は決まった。もう幼かった精霊でも、弱気な精霊でもない。


「うおっ…… な、なんだ!」


 契約を終えた筈のフェデアから、更に大きな光が漏れ出す。思わずセイクは目を閉じてしまう。直後、発光はやみ、目を開けてみると、


「もう、逃げません。一緒に闘いましょう」


 フェディアの背中には白と黒の羽が生えていた。









「やっと見つけた。おや、妖精になったのか、キミ。わざわざ美味しくなってくれるなんて親切だね


 黒い魔力を滲ませるシークと二人は対峙する。セイクはもとより、フェデアにもすでに恐怖はない。いや、恐怖がないというよりも、恐怖をそれ以上の勇気で塗りつぶしているのだ。


「セイントレイ!」


 シークに攻め込まれるより先に、フェデアが先制で魔法を放つ。光の奔流がシークを襲うが、闇の濁流に相殺される。それを目くらましにセイクが突撃、光を纏わせた剣で首を狙う。それは防がれはしたものの、シークを大きく後退させることはできた。"いける"そう感じた二人であったが、


「いやー、痛いなぁ。二対一なんてひどいなぁ…………じゃあ、こっちは四人でいこうかな」

「え!?」

「なっ!?」


 一転。二人の顔は驚愕に染まる。シークから闇の魔力が広がると同時に、影が広がったと思いきや、その陰から三体のシークが出てきたのだ。


影人形(シャドール)。さあ、遊んであげるよ」


一気に、流れはシークに持っていかれた。二対一で押していたでのが、二対四になれば、押されるのも当然だ。魔法知識の浅いセイクはもちろん、こういった魔法には詳しい筈のフェデアでも本物を見つけ出すのは容易ではない。相手の影人形の制度が高いのもあるが、それ以上に個々の魔力が濃すぎるために、多少の粗は塗りつぶされてしまっているのだ。



(この影を何とかしないと)

「バーストレイ!!」


 影を消すのに手っ取り早いのは、強い光を当ててしまうことだ。光源ができれば、影はゆらぎ、影人形にも淀みができる筈。


「無駄だよ」


 しかし、それを阻むように闇がフェデアの光魔法を飲み込んでいく。圧倒的な魔力差。いくらセイクやフェデが経験やセンスで勝っていても、単純なスペック勝負で負けているのだ。


(私とセイクさんの力を合わせれば、もしかしたら何とかなるかもしれないけど……)


 フェデアの頭には、一つの考えがあった。しかし、それは危険な賭け、しかも失敗すれば自分だけではない、セイクもろともやられてしまう。


(やっぱり、あれは危険すぎる……)


 失敗時のリスクを考え、また別の策を巡らそうとしたその時、


「フェデア、何か考えがあるのか?」

「え、ええ。でも、それは危険すぎます、失敗したらセイクさんも……」

「心配するな、絶対成功させてみせるさ」


 光の剣で影を切り裂きながらも、こちらを気にかけていたセイクに見透かされたかのように、声をかけられた。フェデアが何を言おうとしていたかは、実のところある程度予想がついていた。レベリングができない夜の間、シェミルから精霊魔法や妖精魔法についての話を聞いていたのだ。

 シェミル曰く、妖精魔法でも最難関の取得難度を誇り、契約妖精とプレイヤーの好感度が高くないと発動すらしない秘儀。


「……分かりました、詠唱を教えます。前と同じ、私に続いて唱えてください」

「オーケー!」


 返答と同時に、セイクは光の剣を大きく振るい、ほんの一瞬だが影人形らをひるませる。その隙に、セイクとフェデアは詠唱を唱える。呪文は長くない。この呪文に必要なものは、互いの心からの信頼だけ、


「Kombiniere den Vertrag und die Fee, drücke seine Kraft aus, vertraue und assimiliere mit meinem Körper」

「契約を結びし妖精よ、その力、信頼を表し我が肉体と同化せよ」


 そして、二人は一緒にいた期間は短いけれど、互いを信頼するには十分な経験をした。

 色々なことを話した、色々な事を互いから学んだ、そして、決死の覚悟で契約を結んだ。なれば、この呪文が失敗する道理はない。


「「人妖合身(Shemale fit)!!!」」









次回、セイク妖精編完結です

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