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第八十九話 フェディア

(これ何だろ)


 貰った石のような何かを弄びながら里を散歩していたが、やはりあの二人以外が何を話しているのかは全く理解できなかった。

 なぜあの二人だけ言葉が通じたのか、そしてこの石で連絡しろとは言われたがどうやって使えばいいのか、そんな事を考えているといつの間にかシェミルが行った長老の家に着いていた。


「あ、セイク。ちょうどよかった、フェディアって子見てない?」

「フェディア? ここで合ったのはなんか精霊と妖精一人づつぐらいだけど……ああ、そういえばこんなの貰ったけど」

「おお、それはフェディアの精霊石です。ちょっといいですかな」


 そう言ってシェミルと共に居たオンニに貰った石を渡すと、彼は何やら呪文を唱えて石に向けて話し出す。


「なあ、あれは何やってるんだ?」

「あれは通信用の魔法で携帯みたいなものだよ。私は使えないけどね」

「まあプレイヤーならチャットやコールでいいよな」

「それもそうだね」


 魔法に疎いセイクはシェミルに魔法について色々聞いていると、


「うーむ、どうやら彼女は湖の方に行ってしまったようですな」

「そうですか、ではどうしますか?」

「それならまあいいでしょう。代わりの者を用意します」

「どうしたんですか?」

「シェミルさんの精霊魔法の修練の手伝いを頼みたかったのですが、いないならいいでしょう。特に問題はありません」

「私はこの人と一緒に修行するけど、セイクはどうする?」

「俺はこの辺りでレベリングしようかな。奥の方は結構レベル高かったし」


 散歩のついでに調べたところ、精霊の里の奥にある森は中々に高レベルのモンスターの巣窟となっておりレベリングの場所としてはまあまあいい場所であると言えるだろう。魔法を使うモンスターが多いことから、経験の薄い対魔法への特訓にもなる。一日二日を使って対策したいとも考えていたところなので、セイクにとってはちょうどいい。


「では、参りましょうかシェミルさん」

「はい」




 一人残されたセイクは、とりあえず森の奥の方へと足を進める。何度か確認した通り、奥のモンスターのレベルは高く魔法を使って来る種類が多い。

 彼の職業(ジョブ)は聖騎士。バランスの取れた攻防に、対魔法やある程度の魔法スキルの取得も可能なかなり幅の広い職業である。その分下手をすれば器用貧乏となりかねないが、彼は物理寄りのスキル構成に自身の高いプレイヤースキルを合わせる事で、このAWOでも上位の実力者となっていた。


「ふう、少し休憩するか」


 里を出てから一時間程経過しただろうか、単純な戦闘ならまだ気力は十分にあるが、ここは普段立ち入っている場所とは違う。万全を期すためにも休憩はこまめに入れるべきだ、そう考えて近くにあった湖のほとりに腰を下ろす。


(懐かしいな、こうしてソロでレベリングするのも久しぶりだ)


 セイクの脳裏に浮かぶのは、体感で十ヶ月程前のβテストの事。あの時はただひたすらに楽しかった。新しいVRゲームをという刺激に感動すら覚えていたのだが、今は一歩間違えば廃人まっしぐらのデスゲームだ。


(こうして見る分にはただ綺麗なだけなんだけどな……ん?)


 ほとりから見る景色は、現実ではまずお目にかかれないほど幻想的で、思わずため息すら出てしまいそうだ。飲まれるように水面を眺めていると、少し離れた所に知っている顔があった。


「おーい、フェディアちゃん」

「あ、さっきの人。えーっと……」

「俺はセイクだよ。ここで何してたんだ? さっきオンニが探してたよ」

「えーっと、さっきも言いましたがトイニちゃんを探してたんです。ここはトイニちゃんがよく来る所なんですよ」


 それからというもの、二人のたわいもない話は弾んだ。フェディアは森の外に殆ど出た事が無いというので、セイクの冒険話に興味津々であり、セイクからすれば話の通じる妖精ということで色々な話を聞ける貴重な機会だ。


(何だろう、この違和感)


 そんな会話の最中に、フェディアの顔がほんの一瞬だけ曇る事があった。まるで恐怖と好奇心の板挟みのような表情であったが、あまりに一瞬の事だったのでセイクそれ以上気に止めることはなかった。

 それよりもゲーム的な事を言うなら、特殊なスキルが必要な筈の話を聞けるとなれば、聞かない訳にはいかない。こういった裏話のようなものはゲーマー魂を揺さぶられる。そんな二人の思惑が一致するように、セイクはシェミルを待つ二日間よくフェディアと一緒に話をしたり時には森の奥の方までの道案内を頼んだりしていた。


「セイク殿、ちょっとよろしいですかな」

「別に構いませんけど、どうしました?」


 朝、朝食を食べ終えたセイクが森へ行こうとするとオンニに声をかけられた。


「フェディアのことです」

「フェディアのこと? 何か問題でもあったんですか」

「……できることならば、彼女を貴方と共に行かせてやってほしいのです」

「え?」


 その言葉は予想だにしていないことだった。シェミルのように魔法系統の職業なら分かるが、戦士系統の、しかも魔法修行に来たわけでもないセイクにこんな話を持ちかける理由が分からなかった。


「少し場所を移しましょうか」


 そう言ってセイクはオンニの家に招かれる。出された紅茶の香りを楽しむ余裕もなく、セイクの頭には様々な考えが巡っていた。


「フェディアは、殆どこの森から出た事がありません。あの子と同世代の子はどんどん外の世界に足を踏み出しているというのに……」


 セイクの対面に腰を下ろしたオンニは、ポツリポツリと話し始める。その話の大半は、かつてライトが聞いたのと同じ妖精や精霊が他種族から乱獲された過去があるというもの。しかし、話はそれに収まらない、


「フェディアは、本来妖精と呼べる程の力を持っています。しかし、外への恐怖が彼女の進化を無意識的に妨げてしまっているのです。それなのに、貴方と出会って少しづつフェディアは変わっています。どうか、彼女を救ってあげて下さい」


 そういってオンニは頭を下げた。その言葉、態度を受けて断れるような冷血な心をセイクは持っていない。


「分かりました。フェディアに話してみます、一緒にこないかって」


 セイクは席を立つ。恐らくフェディアはいつもの場所にいるのだろう。彼女が会話の途中で浮かべたあの曇った顔、短い間であったが、彼女にそんな顔が似合わないということはよく理解できた。

 それを解決する手段があるのなら、やらない訳にはいかない。たとえ彼女が拒否しようとも、話を聞いてからでないと後悔する。そんな思いを胸にセイクは森へ歩を進める。


 



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