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第八十七話 オネイロス

「君も気づいただろうけど、多分今回の騒動を起こしたオネイロスの従者だろうね」

「リースは分かってたのか」

「洗脳方法については今知ったけど、彼がオネイロスの従者だってことはさっきの戦闘を見て確信したさ」


 オネイロス。ギリシャ神話で夢を司る神であり、今回の騒動を引き起こした張本人。いや、張本神とリースが睨んでいる相手である。仮想世界という一種の夢を人々に見せることで、地上でもここまでの干渉力を維持しているらしい。


 夢というものは普段の世界とは少しばかり違った位相に存在する異界であり、それを司るオネイロスは隠れることにも長けている。そのせいで、他の神々からの助力はほぼ期待できない。そもそも、地上の時点で神は大きく力を制限されているせいで、仮に異界見つけたところで干渉できるほどの力は無い。

 つまり、このAWOという異界に他の神が干渉しようとするなら、ライトのように従者を通して行はなくてはならないという訳だ。だが、オネイロスもそれを見て何の対策も打たない筈がない。その対策がロズウェルだ、彼は望んで従者と成ったのか、それともそそのかされたのかは定かではないが、


(……ヤツは敵だ、それだけはハッキリしている)


 ライトの敵対者であることだけは確信を持っても良いだろう。


「それで、これからどうするんだい」

「決まってるさ」


 そして、そんな彼にリベンジする絶好のチャンスがライトの手にはあった。

 しばらく見ていなかったメッセージウィンドウに表示されていたのは、この世界がデスゲームとなった時から沈黙を続けていた運営からの通達。題名は¨Decided strongest¨内容は、大規模PVPイベントの告知であった。このデスゲームが始まってから、運営が介入してきたことは一度もない。それなのに、こうして運営がイベントの告知を行っている。一般人ならば、運営が介入権を取り戻した、元々組み込まれていたイベントフラグが出てきた等の推測を立てるのだろう。


 しかし、ライトは確信していた。これは、オネイロスとロズウェルの差し金であると。彼らはここで何かしらのアクションを起こす。オネイロスはこの異界の維持で余力は殆ど残っていないらしいが、このようにゲームとして不自然でない程度のイベントを起こすぐらいの力は残っている。それならば、このイベントにロズウェルがいる可能性は高い。仮に出場していなくとも、接触できる可能性はある。ならば、今度こそ逃がしはしない。自身のプライドに掛けてライトは誓った。







 時刻は夜。モンスターたちが強化される闇の中、ロズウェルはリュナを担いで森を進んでいた。手持ちのポーションを使ってHPは回復したものの、やはり記憶を無くしたショックは大きく、未だに目を覚ましてはいなかった。


「お、やっと帰って来た」

「リーダー、おそーい」

「いやーごめんね、リュナちゃんの帰還石がドロップしちゃってね」


 そんな彼を待っていたのは、男女の二人組。金髪の男は黒に金をあしらったロングコートをはためかせて、木の上からロズウェルの前に飛び降りる。もう一方の少女は、背中に担いだ不相応な大剣の重さを感じさせない軽やかな飛び降りを見せた。


「コイツ、リーダーに迷惑かけて……」

「いや、これは彼の力を見誤ったボクのミスだね。リュナちゃんは悪くないよ、リリー」

「まあ、リーダーがそういうなら……いいけど」


 リリーと呼ばれた少女の頭を撫でて彼女をなだめる。この彼女もれっきとした管理教団の一員であり、しかも幹部クラスの実力者である。


「しかし、アンタがそこまで言うなんて珍しいな」

「……まあね、彼は想像以上に強かったってだけさ」


 そのやり取りを見ていた男がそう口を挟む。彼の名はザール、こちらは管理教団の一員ではない。彼は所謂(いわゆる)傭兵と呼ばれる存在であり、その中でも金さえ出せば何でもやる男として有名な男である。もっとも、今はロズウェルからの依頼が大半を占めるのだが。


「二人とも、来るよ」


 そんな会話の最中、ロズウェルが二人に警戒の指示を出す。ガサガサと目の前の木々が揺れ、現れたのは二匹の熊。片方は茶色い毛皮のビーストベア、そしてもう一方は黒い毛皮に赤い目を光らせる謎の熊。


「二人はビーストベアを頼むよ」

「分かったー」

「了解」


 強化されたビーストベアにも関わらず、リリーとザールの二人は躊躇いを見せることなく向かっていく。


「いっくよー!」


 リリーが大人程もある大剣を振りかぶり、ビーストベアに真っ向から競り合う。STR強化のスキルも使っているとしても、リリーのSTRがかなりのものであることが伺える。

 一歩も引かない競り合いの中、一瞬の隙を付いてリリーがビーストベアの足を切りつけ、いきなり大きく距離を取る。


「ザール!」

「いい囮だったぜ。ぶっ飛びやがれ、熊野郎」


 その後ろにいたのは、暗闇では眩しいほどの黄金があしらわれた銃を構えたザールだった。


「Hundred shoot!!」


 その銃からの放たれた光弾は、正確にビーストベアの頭部を撃ち抜く。首から上が消し飛んだビーストベアはそのままHPをゼロにして倒れる。


「ちょっとザール、今私も狙ったでしょ! カスリそうだったわよ!」

「馬鹿言え、お前がトロいせいだろ」

「なにおう!」


 距離を取る際に、大きく飛びすぎて林に突っ込んでしまったリリーが八つ当たりぎみの文句を言いながらザールに突っかかる。ザールの方も、軽く流しながら答えていると


「終わったかい、二人とも。ご苦労様」


 身体中を深い切り傷で覆われ、まさに惨殺というのが相応しい格好となった謎の熊と、辺りを舞うトランプをバックにロズウェルが労いの言葉をかけてれる。


「そっちも終わったか」

「リーダー、そういえばそのモンスターなんなの? この辺だと初めて見たけど」


 リリーが謎の熊の死体を指指して言う。


「ああ、これか。これは、」


 ロズウェルは、その質問にドロップ品を見せながら答えてみせる。ビーストベアの亜種であることは分かるが、リリーですら見たことの無いこのモンスター。それは、


「ナイトメアベアーだよ」


 夜にしかでないあの種類のモンスターであった。






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