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第八十四話 分身

 ライトが最終試練を受けていたころ、リースとトイニはというと。


「あったかいねー、リース」

「そうだね」


 屋敷の縁側で日向ぼっこをしていた。ライトが居た薄暗い地下とは違い、本日の天気は快晴。日本風の庭園を眺めながら、心地よい風を浴びてお茶を(すす)る。そんな優雅な時を過ごしていたところで、ジャリと玉砂利を鳴らして一人の少女が近づいてきた。


「あ、リュナちゃんだ。こんにちはー。リュナちゃんも日向ぼっこ?」


 リュナに軽く話しかけるトイニ。その問いに彼女は小さく首を横に振る。


「……ライトはどこ?」

「さあ? ジフにでも聞けば分かるんじゃないかな」

「……そう」


 いつもの静かな口調で話すリュナ。(きびす)を返してその場を去ろうとしたが、ピロリンとチャットが届く音が彼女の脳内に響いた。その内容を見て、彼女は再度リース達の方へ向きなおる。

 その手には短刀が握られ、服装も黒に近い濃紺の装束に変わっていた。


「……上から指令が来た。二人をキルさせてもらう」

「え、え、え? 冗談だよね……」


 トイニの言葉も聞かず、リュナは一瞬の内にトイニの前まで迫っていた。振りかぶった短刀がトイニの首を両断しようとする寸前。パチン、とリースが二人の間に手を入れて指を鳴らした。そこから(ほとばし)る閃光に二人は目を眩ませられる。


「驚いて固まるなんて猫みたいだね」

「ゆ、油断しただけだもん。普通ならあんなヤツけちょんけちょんにできるもん!」


 リュナの視力が回復した時には、リースがトイニを抱えて数メートル程離れた場所にいた。


「さて、キミがどんな目的を持っているのかは知らないし、教えてもくれないだろう」


 リースはそう言いながら杖を装備して続ける。


「だけど、キミを倒せば否応なしに記憶見せてくれるんだ。それを利用させて貰おうかな」


 杖を突き付けてそう言い切るリース。リュナは言葉を返すこともなく、二人を真っ直ぐ見つめる。


「…………」


 リュナが印を幾つか結ぶと、何処からか出現した水弾が二人を襲う。リースが呪文を唱え、出現した防護壁がそれを防ぐ。水弾と壁が衝突し、辺りには水飛沫(みずしぶき)が上がり、それを目隠し(ブラインド)にリュナは二人に迫る。

 リースもトイニも共に後衛の魔法職であり、近接に持ち込めば負けはないと踏んだのだが、


「えーいッ!!!」

「なっ……」


 水飛沫(みずしぶき)を抜け、先手を食らわそうとしたのだが、逆にリュナは斬りかかられた。間一髪で避けられたものの、驚愕の表情を向けるとそこに居たのは、


「ふん、運がいいのね。でも次は当てる!」


 氷の剣と盾を装備したトイニだった。ライトが居ない間、トイニとリースが冗談混じりに話していた¨二人で戦闘することになったらどうするか¨という話題。トイニを前衛にするという案はその時からあったものの、雑談の中のことでありまさか実現するとは思ってもみなかった。しかし、今はそれをやらなくてはいけない時だ。

 二人の強化魔法(バフ)を掛ければ、妖精という高ステータスも合わさって忍者のリュナに当たり負けすることはない。リュナの速い動きも、威力は低いが追尾性のある魔法を織り混ぜることで対処する。氷の武具は壊れても直ぐ直せる上に、多少のダメージなら回復魔法で回復する。


「…………」


 そんなコンビネーションに、確実にリュナは追い込まれていた。ついには足も止まり、膝をつく。


「もう終わり? それじゃあ私達を狙った理由でも話して貰おうかな」


 トイニが氷の剣を突き付けながら言う。


「…………」


 リュナは答えない。が、


「トイニ、早く倒した方がいい!」

「えっ?」


 リースの言葉に反応したのもつかの間、リュナが高速で印を結ぶと一面に土煙が舞い上がり二人の視界を塞ぐ。


「こんなことしたって!」


 トイニは水の魔法を使って土煙を沈めたが、そこにあったのは六人に増えたリュナの姿であった。


「きゃあ!」

「くっ」


 そこから二人の戦況は一気に悪くなった。いくらステータスを底上げしようと、トイニには決定的に足りないものがある。それは経験。前衛として後衛に攻撃が向かないような立ち回りが欠けているのだ(六対一でそんな立ち回りを要求するのも酷なものなのだが)。


「……少しでいい、時間を稼げるかい」

「何か作戦でもあるの?」

「ちょっとね、助っ人を呼び出すとするよ」

「分かった、ちょっと頑張ってみる!」


 MP回復のために数個の飴玉を口に入れ、トイニは前に出る。魔力の出し惜しみはしない。土を隆起させ、水、火が舞う。妖精の全力は、分身をしたリュナさえも押さえ込んだが、


「……仕方ない」


 次にリュナが印を結んだ瞬間、トイニは目を疑った。今のリュナの数は六。ライトでも五人が最大であり、六というのは影分身と分身の違いを考慮してもかなりの数なのだが、今、目の前にいるリュナの数は()()()()()()()()

 これが忍術面での奥義。その圧倒的な物量は、多少の動きの荒らさすら問題にしない。


「……これで終わり」


 その分身全てが短刀を構え襲いかかってくる。その短刀が光っているところを見るに、何かしらのアーツを重ねがけしているのだろうが、そんなことは些細な問題である。この攻撃を避けることも防ぐこともできない。そんな現実をぼんやりとトイニは実感していた。


(あーあ、ここまで、かな。リースは間に合ったかな)

「______Summone!」


 ふと、そんな呪文のようなものが聞こえた。その瞬間、トイニの視界は急激に変化する。いつのまにか、自分に刃を向けていたリュナ達を遠巻きに見ていたのだ。

 隣にはリースがいる。落ち着いて自分の状況を確認してみると、何者かの腕に抱かれていた。前にもこんなことがあったような気がする。それを思い出させたのは、


「大丈夫だったか、トイニ」


 自分を抱えるライトの声だった。





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