第八十話
「次は何をするんです?」
とりあえず一つ目の修行を完了し、ジフに次の修行をつけて貰おうとしたのだが、
「うーむ。それがの、お主が早く修行を終わらせ過ぎてしまったから次の準備が終わっとらんのじゃ」
返ってきたのは、修行不可の返答。確かに早く終わらせた自覚は有るが、そこまで早かっただろうか。
それならば、次の修行までの間どうしていようかと考えを巡らせていると、
「この修行は自然の中で生き残る力を養う修行でもあるからの、とりあえず明日の朝までこの森で過ごしてみい。その頃には準備も終わるじゃろう」
ジフはそう言い残して里の方へと、熊に股がり帰って行ってしまった。
一人残されたライトは、とりあえず近くの木に腰を降ろす。手持ちのアイテムを確認するが、食料になりそうなのは特に無し、まさかいきなりサバイバル染みた事をやらされるとは思わなかったこと。そして、地図を持っているから迷うことはないだろうと携帯食料の一つも買わなかった事を悔やんでいた。
(悔やんでも仕方ない。……今から町に戻るとかいうのは無しだな。恐らくこの手枷に発信器的な物ぐらいついてるだろ)
AWOでは長時間飲まず食わずでいると、HP、MP減少や移動速度の制限等のペナルティが課されていく。今の移動系アーツが使えない状況で、そんなペナルティが課されれるのはかなりきつい。
そのためにもまずは水、そして食料を調達することが最優先である。そして、水を探して三十分程歩き回って小川を見つけた。
「ふむ、これで水は大丈夫だな」
試しに手で掬って飲んでみたが、特に毒がある等の罠はなかった。実際のサバイバルで生水を飲むのはNGだが、ゲームの内というのが幸したようだ。
喉も潤い、次の問題は食料だ。川があるなら魚が取れるかもしれない。そう考えて川沿いを歩き始める。
「さて、これをどうしようか」
結論から言うと魚は取れた。最初は適当にそこらにいたホブゴブリンのドロップの耳を餌に釣りをしてみたのだが、全然釣れなかった。他のモンスターのドロップで肉でもドロップしないかとも思ったのだが、他に出会ったのはヴォイドバイパーとビーストベアの二体。前者のドロップは肉であったが、毒があって危うく死にかけた。後者は今の移動系アーツが使えない状態では相手をしたくない。
その後、川辺から視認できる深さにいた魚を見つけ、投げナイフを数本投げるという手法で三匹の魚をとることができた。しかし、魚を取ったところで気づいた¨火がない¨と。生憎松明等の明かりを灯すアイテムも持っていない。かといって生で食べるのは色々と怖い。暫く頭を捻っていたが、
「あ」
一つ考えが浮かんだ。ライトは近くから薪を幾らか集めると、
「Feuergeister sammeln und entzünden das Feuer(火精霊よ集まりて火を灯せ)」
精霊言語で呪文を唱える。するとMPの消費と共に、目の前の薪に火が付いた。MP消費量を考えるに魔法職のように戦闘で火弾を飛ばしたりすることは厳しいが、焚き火程度なら何とかなるようだ。
「これからどうしようか……」
そろそろ空も暗くなった頃。取って来た魚も既に食べ終わり、川沿いで焚き火に新たな薪をくべながらライトはそう呟いた。
リースに念話で連絡を取ってみると、トイニと二人で里を満喫しているらしく、温泉等の話を聞かせてくれた。何となくマウテンゴーレムのコアに魔力を注ぎながら話していると、日はとっぷりと暮れていた。
『じゃ、そろそろこっちも寝床を探すから』
『そっちも頑張ってね』
そう念話を切り、もう燻る程に小さくなっていた焚き火を踏みつけて消火する。川沿いで寝て増水でもされるのは危険だ。せめて木の上ででも寝よう。そう思って暗視を使いながら、その場を立ち去ろうとしたその時。
「ッ!」
カサリと近くの木々が僅かに揺れる音が聞こえた。更に、暗視をしていなければ、見ることも難しいかったであろう黒い人影が自身に向かってナイフを構え、高速で襲いかかって来るのをライトは見た。
(集中)
「……!」
武器を取り出すのは間に合わない。ライトは集中で引き伸ばされた体感時間でそう判断すると、簓木を発動してナイフを持つ手を押さえながら、襲撃者の体を地面に叩きつける。