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第七十八話

 第六の街、ルーリック。プレイヤー達が攻略していた鉱山を背に、先には大きな川が流れる森となっていた。ここは鉱山を突っ切ってきた先にある街ということで、鉱石採掘やそれに伴う金属製錬に長けた街である。

 単純な強化が直ぐに行われるというわけではなかったが、生産職の人々はここの新たな金属や製錬技術に喜んだ。その他にも、様々な技術開発も進んでいる。その中でも最近最も注目を集めているのが、


「おはようございます。ロロナ様」

「おはよー、エメちゃん。今日も頑張ってねー」


 自動人形(オートマトン)の存在である。これは、主に宝石系統のアイテムに魔力を込め、精霊の加護を与えたコアを元に作り出された存在である。簡単に言うなら、プレイヤーが作り出せるNPCと言ったところだろうか。

 この報告にプレイヤー達は沸いた。なにせ、これが実用化されだせば、パーティーの上限を増やせるかもしれないし、単純に労働力として見るだけでも大きい。

 ただ、それでもいくつか問題はある。まず一つに、コストの問題だ。自動人形(オートマトン)一体作るのに、未だそこそこ高額な帰還石が数百単位で飛びかねない程のコストがかかっていた。それは、魔力付与のしやすさとドロップ率の問題から単価の高い宝石をふんだんに使っているということ。次に、技術的な問題だ。自動人形(オートマトン)の外形を作るのにも高い技術が必要なのだが、さらに高度な精霊魔術による付与を行わなくてはならないのだ。これでは一般的な鍛冶ギルドでおいそれと作ることはできない。

 最後に、自動人形(オートマトン)そのもののスペックの問題だ。自動人形(オートマトン)のスペックは、外形とコアの性能に大きく左右される。戦闘要因や、生産要因となるのが理想なのだが、現実はそうもいかずギルド受付が限界といったところだ。

 試作として、攻略組の出資でエイミーも所属する生産系の鍛冶ギルドの協力のもと試作一号が出来たのだが、今のところ攻略組の買い取りカウンターが一つ不眠不休になっただけである。


 さて、今ライトの目の前には一つの球体が鎮座している。昨夜とった宿屋のベッドの上に置かれたそれは、バスケットボール大の大きさを持ち、淡く発光していた。


(これ、どうしようか)


 それは、マウンテンゴーレムのコア。同じくベッドに胡座(あぐら)をかいてコアの正面に座るライトは、頬杖をつきながら目の前の物体の処理に頭を悩ますのであった。

 あの後、攻略組に出入りしたり掲示板で情報を集めたりしたところ、攻略組の作り出したコアの大きさはピンポン玉程度らしい。それであの価格だ、こんなこんなサイズのコアなど売りに出しても買い取り拒否されるだろう。


 それならば、このマウンテンゴーレムからコアを取り出すよう情報を流そうと思ったのだが、もう既にボスからコアを取りだそうという試みは起こっているらしい。しかし、どうしても倒した時にゴーレムが崩れると共にコアも粉砕されてしまうらしい。なかにはゴーレムによじ登り、つるはしで採掘をしようとしたプレイヤーもいるらしいが、ボスの外皮は硬く、そもそも刃が通らないか、よしんば通ったところで悠長に採掘できる程の隙もない。

 今のところコアを取り出せたという報告もない。そんなところにライトがこれを売りに出せば、市場が荒れるのが容易に創造できる。


 なので、今のところは売りに出すということはせず、ボスのコアの流通が安定するか他の使い道が出るまで保存するということにしている。

 そして、ライトがこうしてコアを出しているのは


(土精霊で動いているなら、その精霊と話せたりしないかね)


 そう思い完全翻訳を使って話しかけてみたのだが、良い結果は得られずコアは無言のままであった。トイニ辺りに話を聞きたいところだが、彼女は力を使い果たしたせいで、


「うーん、今日はパス。だるくて動きたくない」


 そんなことを言って、こちらが用件を言う前に話を切られてしまった。精霊の里に直接行けば、ベッドでゴロゴロしてるトイニが居るのだろうが、そこまで行くのも面倒なので明日にでも聞くことにした。


 トイニからの話も聞けないので、色々思い付いたことを実践してみる事にする。


(もしかしたら、無理矢理ゴーレムから取り出したから機嫌を損ねたのかもしれない)


 という事で、胡座をかいた足の間にコアを乗せ、柔らかい布で磨いてみる。特に研磨のスキルを取っているという訳でもないので、ただ磨いているだけだが気持ち綺麗になった気がした。

 次に、両手をコアに当てMPを送り込もうとしてみる。が、失敗。うんともすんとも言わない。と、ここであることを思い出す。


(確か、精霊魔法に魔力譲渡の呪文が有ったな……確か)


 オンニの家で見た、妖精魔法や精霊魔法の呪文が書かれた魔法書に、精霊へ魔力を与える呪文の記述があった筈だ。その時は特に気に止めなかったが、今なら役にたつかもしれない。


「Ad translationem de viribus nostris(我が力の譲渡を受けよ)」


 完全翻訳を通して発生された呪文を唱えると、コアに触っている手を通してMPが流れ込んでいく。最終的にライトのMPを全て吸い込んだが、コアの発光が少し強くなっただけでコアに大きな変化はなかった。

 それからと言うものの、何となく思い付いたことを色々試してみたが、良い結果は得られなかった。


(何してるんだろう、俺)


 ¨土精霊のコアなら、土が有れば反応するかもしれない¨との考えで、マウンテンゴーレムのドロップ品である鉱石を適当に積み上げ、気持ち玉座のようにした所に置いたコアを見て、そんな事に一時間弱かけた辺りで冷静になった。


(仕方ない、トイニが回復するまで待つか。それまでに軽くここらのフィールドの探索でもしておくか)


 一人ではどうしよもないことが分かったので、フィールドにでも出てまだ行ってない所の探索でもして時間を潰すとしよう。それ以外にも、装備品の向上の為の素材集め等やることは結構ある。こんな事をして時間を無駄にし過ぎるのもよくないだろう。

 そうして、午前中を無為に過ごしたライトは、ガラクタのような玉座モドキとコアをアイテムボックスに戻し宿屋を後にするのであった。





 

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