第七十六話
管理教団との騒動から二週間と少しがたち、時鉄鋼を持つものを狙う輩が激減したお陰で、帰還石の生産も増えた。それでもそこそこ高価な物だが、ここまで来たパーティーなら少しの間贅沢を我慢すれば買えるほどだ。
そして、帰還石の安定供給はプレイヤー達の攻略加速の大きな手助けとなった。何しろ、多少無茶をしても直ぐに街に帰れるのだ。¨これさえあればとりあえず安心だ¨という気持ちから、攻略も今までよりペースが上がった。というよりも、今までが安全マージンを多く取っていたせいで遅かったのだが。
そして、つい先日ようやく攻略組のトップがボスを討伐したという知らせが届いた。それから次々にプレイヤー達は情報を買い、ボス攻略にへと乗り出していた。
今の時刻は、そろそろ夜に差し掛かるといったところだろうか、多くのプレイヤーは既に撤収し昼頃にはボス攻略をしようとするプレイヤー達で賑わっていた洞窟内は、静まり返っていた。
しかし、そんな中で動く人影があった。
「セイッ! リース、トイニ、頼んだ!」
「了解」
「オッケー!」
分身したライト達が二体のゴーレムから注意を引き付け、トイニとリースが魔法でとどめ。爆炎と岩石の槍を受け、消滅したゴーレムを見て三人は一息を付く。夜になってきてからモンスターが強くなってはいるものの、この三人なら特に問題はない。
「ねえ、ライトー。こんな夜に行く必要あるのー? 別に昼でいいじゃん。私そろそろ魔法使えなくなっちゃうよー」
移動の最中、浮遊していたトイニがライトの横に降りながら話す。
「あんまり三人で戦ってるとこ見られたくないんだよな。分かる人が見たら、トイニとリースが俺の契約で出てきてるって分かるみたいだし」
「別にいいんじゃない? 私は別にいいけど。リースもそうだよね」
「ん、私? 私も別にいいけど、ライトが¨質問責めになるのはごめんだ¨っていうからね」
先程減ったMPを回復するため、ポーションに口を付けてたリースがそう返答すると、付け加えるようにライトが口を開く。
「明らかに近接戦闘系の俺が、現状殆ど報告がない妖精と人形の口寄せを出来る。なんてことが広まったら、それを教えて貰おうとする輩が出てくるだろ」
「あ、なるほど。それで人が少ない今ボス攻略に行ってるって訳か」
「そういうことだ。もう道は分かってるからさっさと行こう」
ここ数日。ライトはソロでマッピングに注力したお陰でボス部屋までの道のりはもう分かっている。さらに、その間での戦闘で新しくスキルの取得もあった。
近接戦闘
殴り、蹴り、投げ、近接攻撃を修めし者のスキル。その拳、足は既に並大抵の武器と遜色のない威力を発揮し、全身凶器とも言える肉体となるだろう。
投擲
投げを修めし者のスキル。その手から放たれる者は精確に目標を撃ち抜くであろう。
剛拳、疾脚、投げの三つからの進化と思われる近接戦闘と、投げから進化であろう投擲。投擲の方に関しては、単に投擲関連の威力が上昇する単純な強化だろう。
ただ、近接戦闘に関しては少し違った。確かに拳等の威力も上がっていたのたが、これはその名の通り¨近接戦闘¨全てに対応していたのだ。今までは拳、足そして投げにしか攻撃判定は無かった。が、これを取得して以降¨肘、膝、さらには頭に背中¨と言ったまさに全身凶器の名に相応しいスキルとなっていた。
「うーん、疲れたー」
そろそろボス部屋と言ったところで、そうトイニが呟く。時間を見れば、トイニが全開でいられるのもあと三十分といったところか。ソロ討伐(事実三人)で最新ボスを三十分で攻略となると、まあ厳しいものがある。といっても、リース一人では負担が大きいだろうし、ライトだけとなると半日以上かかってもおかしくない。ここは、もう少し頑張って貰う必要があるだろう。
「ほれ、これやるから元気出せ」
「おっ! なになに!」
ライトがトイニに渡したのは、料理系の生産ギルドで購入したフルーツキャンディセット。嗜好品なので、少々高いがそれでモチベーションが上がってくれるなら安いものだ。それに、僅かながら舐めている間MP回復効果もあるので、ボス攻略に挑むにあたって無駄ではないだろう。
「ほれ、リースも」
「それじゃ、一ついただこうかな……ん、美味しい」
リースもイチゴ味を一つとり、口に入れる。ライト自身も食べたグレープ味の甘さを楽しみながら、ボス部屋までの道のりを進む。
「やっと着いたか」
「さーて、さっさと倒しちゃおうよ」
「まあ、頑張りますか」
それから三分とせずボス部屋にはたどり着いた。ボス部屋の回りは敵モンスターが入ってこれないようになっており、安全ということを示す緑の光が壁の鉱石に反射し、幻想的な光景を作り出していた。
「さて、準備はいいか?」
「私は大丈夫だよ」
「私もオッケー!」
早くも二つ目のキャンディを口にしながら答えるトイニ。だが、気力は回復したようで、ライトは力強いその返事を聞いてボス部屋にへと入っていった。