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第七十二話 管理教団(スーパーヴァイスオーダー)

「ねえライト、ちょっと外に出てみない?」

「私も行きたいー!」


 ある日。ライト達が探索を終わらせると、リースとトイニの二人がそんな事を言ってくる。時刻は既に夜の八時頃、今までの町なら殆ど店は開いておらず、酒場が一、二軒あるかどうかといったところだが、


「ああ。あそこか、リース達が行きたいって所は」

「そうそう。私はまだ見たこともないからね」

「私は人間の街が気になるー!」

「じゃ、行くか。俺も気になってたとこだし」

「やったー! じゃ、早く行こ!」

「流石、話が分かるね」


 そう言って、ライト達は宿屋のフロントで鍵を一旦預ける。いや、ライトが取った宿は、宿屋というよりはホテルと言った方が適切な建物であった。そして、三人は併設されていた貸し衣服屋に足を運ぶと、ある服を選び外へと出る。


「まさか、AWOでこんな服着るとはな」

「いいじゃない。たまにはこういう服もね」

「そうよ、コーディネートってやつよ!」


 ライトはタキシード、リースとトイニは派手すぎないドレスに着替え目的の店にへと向かう。


「ここか」

「おおーっ、すごーい!」


 コツコツと革靴が石畳の道で音を鳴らしながら進んでいると、不意にその音が止まる。ライト達が足を止めたその先に有ったのは、今まで見てきた建物の中でも最も大きく、そして夜なのにも関わらず、きらびやかで光と喧騒(けんそう)が入り交じったそれは。


「ようこそ、ロイヤルジャックへ。どうぞお楽しみに下さいませ」


 店の扉を開くと、スーツ姿の店員が頭を下げて出迎える。外からでもきらびやかだったが、中は最も凄い。夜だというのにプレイヤーがそこらじゅうに溢れ、ある者は酒を飲み、またある者は華やかなパレードを鑑賞していた。中でも最も多いのは、


「クソッ! また赤かよ!」

「ラッキー、赤の十二ドンピシャ!」

「Aこい! Aならブラックジャックなんだ!」


 ルーレット、トランプ、と様々なゲームを楽しむ人々。金をかけて行われるそれらは、どんな勝負であれプレイヤー達に熱を灯す。そう、ここは所謂(いわゆる)カジノと呼ばれる場所なのだ。

 今までの町にな殆ど娯楽施設と呼べる物はなかった。その反動か、このカジノを目指してきたプレイヤーも少なくはない。それほどまでにこの施設はプレイヤー達に影響を及ぼしていた。


 

「ね、ライト!」

「ほら、これやるから好きなの見てきな。何かあったら呼びな」

「うん! 行ってくるねー」


 と言っても、トイニにとってはギャンブルよりも舞台での躍りや屋台の食べ物の方が気になるようで、キラキラとした目で訴えてくるトイニに、ライトはそこそこのGを与えるとトイニは直ぐに屋台方にへと走っていってしまった。


「私も色々見てこようかな。ライトはどうするの?」

「俺はあっちに居るよ、ちょいと呼ばれな。これ、渡しとくから」

「そう、それじゃ用事が終わるまで私も適当に遊んでいるよ」


 リースはカジノの方に興味があるらしく、ライトからGを貰うとルーレットやトランプが置いてある場所へと歩いていく。

 一人残ったライトは、同じくギャンブルエリアへ。しかし、リースが行った場所よりも若干人は少ない。そこは数々のスロットやパチンコのマシンが置かれ、人対人のトランプとはまた違った熱を空気が持っていた。ライトは、その内の一台にへと座り横の機会にGを入れてコインを購入する。台に何枚かのコインを入れてレバーを叩けば盤面のリールが回転する。


「……久しぶりだな」

「そっちこそ、相変わらずの気配だな。流石、攻略組の上役様だ よ」


 ライトが三つあるリールの内、左の黒いバーの図柄を止めた時、隣の男から声をかけられた。若いながらもやや強面(こわもて)で、メガネをかけた男、攻略組の一員であるヴィールとライトは台を向きながら挨拶を交わす。


「それで? わざわざ呼び出したってことは何か用があるんだろ」

「そうだな、いくつか話したいことはあるが……やっぱり攻略組に入る気はないか」


 そこそこの沈黙と共にヴィールはそんな事を切り出す。それと同時に、ライトの台のリール脇に着いたランプが光る、ボーナス成立の知らせだ。ライトは、ゆっくりと赤い七を揃えながら口を開いた。


「断る、何度も言ってるだろ。どうしてもっていうなら力づくでも納得させてみな」

「よく言うな、この前は逃げた癖に」

「ソロに攻略組のパーティー二組相手しろって言うのは横暴じゃないか。それに、逃げられる方も逃げられる方だ」


 ライトは、今までに何度か攻略組と衝突を繰り返している。と言っても、ライトを攻略組に入れようとする者を適当に相手して逃げているだけなのだが。

 

「話は終わりか? なら俺はもう行くぞ」


 これ以上話すことがないのなら、ここにいる意味はない。ライトはボーナスが終わり次第席を立とうとするが、


「……管理教団(スーパヴァイスオーダー)

「!」

「名前くらい聞いたことあるだろう、今日はその忠告をしにきたんだ」


 その言葉にライトの手が止まる。ボーナスは終わり、軽快な音楽が一瞬にして止まると同時に、二人の間の空気が張りつめる。


「その反応、やはり知ってるみたいだな。大方時鉄鋼を採取する時にでもやりあったか」

「やっぱり、この件はアイツらが関わってるのか」

「関わるどころか問題の根幹だ。時鉄鋼がレアドロというのもあるが、それでもここまで値段は跳ねねぇよ」


 このAWOに閉じ込められてから、それなりに時間が過ぎた。少しづつだが生活も安定しだし、戦闘も無理をしなければ殆ど死ぬことはない。そうしていると、とある思想を持った人々が現れる。それは、¨元の世界よりこちらの世界の方が良いのではないか?¨という者だ。別に、そんな思想を持つことを咎めることは出来ない。思想を持つこと自体は自由だ。

 しかし、管理教団(スーパーヴァイスオーダー)。最初にそう呼んだのは誰だっただろうか。彼はそんな思想を持つ者の中でも、特に過激な思想を持った者達だ。彼らは熱心に、誰よりもこの世界を愛してしまった。元の世界よりも。だから、¨この世界を崩壊させる者は敵だ¨そんな思想を持ってしまった。


 そんなプレイヤー達が集まり、いつしかこの世界を管理しようとする連中ということで、誰かが管理教団と呼び出したのだ。今回の時鉄鋼の異常なまでの高騰も、彼らが関わっているとヴィールは言った。

 実のところ、攻略組としては自身が抱えている職人に、安定した帰還石の供給をしてもらうために時鉄鋼の採掘に乗り出したいのだ。しかし、管理教団はそれを許さなかった。彼らは時鉄鋼を採取しようとするプレイヤーを、手当たり次第にキルしていったのだ。彼らはこの世界を特に愛している者達だ、当然レベルも技量も高い。それこそ彼らの力は上位は攻略組の上位と同等はあるとされている。

 そんな訳で、今や誰も時鉄鋼の採掘に行きたがらないのに、需要だけが高くなるという事態に陥っているという訳だ。しかも、彼らの中には帰還石を作成しようとするプレイヤーを襲った事例もある。なので、攻略組としては法外な値をつけて無理矢理にでも職人プレイヤーを帰還石から遠ざけるしか無かったのだ。


「それで、お前には何か分かったら随時連絡して貰いたい」

「了解。報酬は貰うがな」

「分かってる。お前は報酬の分は働いてくれるからな、期待してるぞ」


 そうして、用事を終えたライトは一箱分のコインを換金すると、リース達のところへと行くのであった。






 


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