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第七十一話

「時鉄鋼?」

「最新のエリアの鉱石でね、帰還石の材料になるらしくて数が必要なのよ」


 トイニとの騒動から一月程の時間が立った。今は第五の街まで攻略組は進んでおり、ライトも勿論ここまで攻略を進めている。

 攻略組以外にも幾つかのギルドが設立するようになり、生産系統のプレイヤーの中には攻略組と手を結びつつ独立した者も多い。この少女、エイミーもその一人だ。

 次の街に進む為のボス攻略に助っ人を頼んだり、大口の取引先として攻略組と手を取ってはいるものの、彼女は既に攻略組ギルドから生産組ギルドにへと席を移している。


「それで、報酬は? というか、こういった依頼こそ攻略組に頼めば良いんじゃないか?」

「それがね、帰還石の値段が馬鹿高いせいでぼったくりしか無くてね」

「俺がぼったくるって考えは無いのか」

「まさか、以外と貴方は優しい人だってセイクが言ってたもの」

「……あの野郎。そんな事を言ってやがったのか」


 帰還石。それは、使用すると最後に寄った街に転移するアイテムである。店売り価格は第四の街以降で十万G。こんな物を毎回使える分けがない。十万Gもあれば、第一の町で数ヶ月単位で暮らせるだろう。

 そんなアイテムが作成できるとなれば、多くのプレイヤーがその素材を握ろうとするのは間違いない。しかも、ボス討伐では多くの人数が動員されるようになってきた。その増えた攻略組の資金繰りの為にも、今は高額でしか時鉄鋼は降ろされていないという事だ。

 しかも、時鉄鋼は最新エリアの奥でも採取のレアドロップ。ロクな情報すら出ていない最新素材だ。もうしばらくは値が下がらないだろう。


「採取道具はこっちが用意するよ。報酬は……これで良い?」

「いいのか? 割りと高いみたいだが」

「ううん、これより吹っ掛けられる値段のが高いし不確定なの。それだったら、この値段でも確実に手に入れてくれそうなライトに頼んだ方がいいでしょ」

「レアドロだし落ちない心配もしてくれよ。ま、受けるけどな」

「その時はその時だよ。ありがとー、受けてくれて」


 ギルドの出す採取依頼というものは、基本的に人に依頼するかギルドに掲示するかの二つだ。前者は(ただ)の依頼。後者は、ギルドに一つはある掲示板に依頼を貼り付け、受けてくれる人が現れるのを待つ方法だ。

 生産組ギルドは攻略組ギルドと手を結んでいるので、攻略組ギルドの掲示板にも依頼を貼ることが出来る。ただ、この貼り付ける際の値段が時鉄鋼採取依頼だけ飛び抜けて高いのだ。

 文句を言おうにも、¨時鉄鋼はレアドロップの上に、トッププレイヤーが行かねばならん依頼だ。このぐらい高くなくてはこちらもやっていけない¨との一点張り。他のプレイヤーの依頼も、前金を要求してきた挙げ句に逃げられることもしばしばだ。


 今回ライトに提示された金額は、通常の店売り金額の四倍。さらに道具は依頼者持ちとかなり高額なのだが、これ以上を吹っ掛けてくる上に時期は不安定となれば、ライトに依頼した方がいいだろう。

 ライトは殆どHP回復アイテムを持たない。消耗品では一番出品がかさむところをカットできる上に、ライトの討伐時間は長く、多くのモンスターを狩っているので、ソロプレイヤーの中でも割りと小金持ちの部類に入る。

 ならば、金にがめつくなる理由も薄く実力も申し分ない。もっと言うなら、ライトはここの常連であり、エイミーの友人で攻略組と並ぶ程の実力を持ったあるプレイヤー達との友人でもあり、信用もある。


「なぁ、今アイツはどうしてるって」

「今度、時鉄鋼の大量採取に挑むって。依頼料だって安いのに、¨これで助かる人が増えるなら¨だってさ」

「アイツらしいな」


 店を出る直前。攻略組ではないものの、人一倍正義感の強い人物の話をすると、ライトは薄く笑って店を出た。








「ここか、こっちの奥はまだ行ったこと無いな」


 洞窟型のエリアの奥。今は攻略の最前線であり、時鉄鋼の取れる採取ポイントのある所にライトはいた。出来るだけモンスターをやり過ごして来たお陰で、かなり早くここまでたどり着いた。

 複雑な経路も、自身操作を使った記憶復元により性格に覚えて要られる。そういったこともあってここまでは順調だったのだが。


「おっ、採取ポイント発見……厄介なのがいるな」


 歩き回ること数分。鉱石系統のアイテムが採取できるポイントを見つけたのだが、


「…………」


 そのすぐ近くに居たのはストーンゴーレム。この敵は高い物理耐久を持ち、特に斬撃への耐性が高く、ライト程度のSTRだと普通に攻撃したところでまずダメージは殆ど与えられない。それどころか武器の耐久度が減るのが痛いくらいだ。

 そんなゴーレムにも付け入る隙はある。一つは打撃、これは物理系統の中で、唯一ゴーレムが耐性を持たない攻撃手段である。もう一つは魔法攻撃だ、こちらは完全に弱点でありゴーレムよ魔法耐性は他のモンスターに比べても低いくらいであり、魔法職なら遠距離か攻撃してるだけで楽に勝てるほどだ。

 しかし、ライトに魔法攻撃のスキルは無い。打撃もAGL特化のステータスではまともなダメージは期待できない。ならば、


「口寄せ、リース。召喚、トイニ」


 魔法攻撃が出来る者を呼ぶだけだ。


「話は聞いてたよ。あれを倒せばいいんだね」

「ふふん。私の力、見せて上げるわよ!」

「頼む。俺じゃ決定打に欠けるからな」


 呼び出したトイニとリースの二人は、早速呪文の詠唱に入る。が、その行為がヘイトを稼いだのかゴーレムがこちらに向き直る。


「ライト!」

「こっちが引き付けるから、詠唱を継続しておいてくれ」


 リース達に向かって来るゴーレムを引き付けるべく、ライトは分身を三体出して駆け出す。ゴーレムは近づいてくるライトをパンチで迎撃しようとするが、そんな鈍重な攻撃は当たらない。

 本体がジャンプを使い、高く跳躍しながら膝をゴーレムの顔に当て、分身二人が両足を崩しにかかる。後は、頭上へと跳躍していた本体がゴーレムの頭に弧脚を、分身二人がその勢いを利用してゴーレムを崩し投げる。


「今だ!」

「シューティングメテオ!」

「ソイルランス!」


 ライトがゴーレムから離れると同時に、横たわるゴーレムに二人の魔法が炸裂する。投げにより多少なりともHPが減っていたゴーレムは、HPを全損。ライト達は無事この状況を切り抜けたのであった。


「リース、トイニ、助かった。あれをソロで倒すのは骨が折れそうだったからな」

「ライトは魔法攻撃が殆どできないからね。まあ、その為に私たちがいるんだし」

「そうそう、ライトだって囮として活躍したよ」

「ま、あれと闘うときは基本回避盾になるかな」


 ゴーレムと闘うときの役割を決めつつ、ライトはイベントリからツルハシを取り出す。これを鉱石系統の採取ポイントに振り下ろせば、アイテムが採取できるというわけだ。

 ツルハシは何回か使うと壊れてしまい、そうなると新しいのを使わなくてはいけなくなる。今回持ってきたツルハシは五つなのだが、


「全然出ねーな」


 そう言ったと同時に、四つ目のツルハシがライトの手の中で壊れた。これで残るツルハシは一つ。なのに時鉄鋼は今だゼロと運に恵まれていなかった。

 流石に、一つも出なかったとなればばつが悪い。そう思っていると、ふとある考えが思い浮かんだ。


「なあリース」

「ん? 何だい」

「ちょっと採掘をしてみてくれないか」

「いいけど、失敗してもしらないよ」


 そう言ってリースにツルハシを差し出す。リースは、それを受けとると少しふらつきながらもツルハシを振り下ろす。カチン、と鉄と鉱石のぶつかる音が響き、


「おぉ、出たよライト。これでいいのかい?」

「そうそう、それそれ」

「おー、リースすごーい」


 リースの手に握られていたのは、間違いなくレアドロップである時鉄鋼であった。それからというもの今までは何だったのかという程、時鉄鋼がドロップしだした。


「ねえライト、リースってこんなに凄いの?」

「運なら俺は逆立ちしても勝てないな。ババ抜きすら勝負になることが少ないし」


 通常ドロップを越えて時鉄鋼を採取リースを見て、ライトとトイニの二人はそんな会話をする。かつてリースとライトが、リースにトランプを教えるというとでババ抜きをしたら四回連続で、リースが初期の手札を全て揃えてしまうという事態が発生。次もリース一枚のライト二枚で、結果は勿論負け。

 そんな話をしていると、


「光一、ツルハシ壊れてちゃった」

「大丈夫だ。むしろこれだけあれば出来すぎなくらいだ」


 何度目かの採掘でツルハシが壊れるまでに、合計十二個もの時鉄鋼がドロップすることとなった。エイミーの要求した量の四倍もの時鉄鋼をアイテムボックスに入れ、ライト達は町へと戻る。帰り道も基本的に戦闘は回避、やむを得ず闘うにしてもこの三人なら特に苦戦することもない。






「行ってきたぞ」

「早!? あそこって最新エリアだよね」

「殆ど戦闘しなかったからな。とっとと採取だけして帰って来たし」


 大きなトラブルもなく、戦闘を回避したお陰で朝に出発してからその日の夕方にはエイミーの店に着いた。途中、トイニは時間の関係上帰ってしまったが、特に問題はない。


「まあいいや。それで、時鉄鋼は取れたの? 二つあれば帰還石が作れるんだけど」

「ほら、この中に入ってるぞ」

「おっ、成果があって良かった。なかなか運がいいんだね」

「いや……まあ、運がいいの、かな」


 そう言って、ライトは麻袋に入った時鉄鋼をエイミーに渡す。エイミーは恐らく二、三個程だと思って袋を開けたのだが。


「へっ? えっ!? ちょ、十二個!?」

「んじゃ、渡すモン渡したから俺は帰るぞ」


 袋を開けて、中身とライトを交互に見るエイミーを見て、これは面倒なことになりそうだと感じたライトら隣のリースと共に店を後にするのであった。

 


 



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