第七十話
「ここが精霊の里かー、噂通り綺麗な所だな」
「やーっと着いた」
「ここまで時間がかかるとはね、精霊の里の隠蔽能力を甘く見てたわ」
「そうね、今も精霊の子に案内してもらわなかったらと思うと……」
「想像したくもありませんわ……」
セイク達は、ようやく見つけた精霊の里を見て各々の感想を漏らす。前衛組はともかく、フェニックスは疲れから、手に持った杖を支えに体重を支え、シェミルはここまで案内してくれた小人程の精霊にお礼を言うとその場にへたりこんでしまう。
精霊魔法の習得の為に、精霊の里を探って約三時間。既にレベリングは終えているため、戦闘に関して不安は無いがそれでも疲労は溜まる。たまらずポーションの瓶を開けて、シェミルとフェニックスの二人は中身を飲む。本来ならHPを回復するものだが、ある程度なら疲労も回復するのだ。
「みんなー、こっちだってー!」
「おっ、これでイベントかな」
近くにいた精霊に案内され、セイク達は精霊の里の長の家にへと向かう。
「うわぁー、すっご……」
「これは凄いですわ……、こんなに立派なツリーハウスは見たこと有りませんわ」
「フェニックスが見たことない、ってなら相当なんだな」
「ええ、自然を見るのは好きですが、宿泊する場所は普通な所が多かったですわね」
歩くこと十分。セイク達が着いたのは、精霊の里の中心に位置する大木。それは見上げれば首が痛くなる程高く、圧倒的な存在感を示す程に太かった。高さだけなら、先程まで通ってきた森にもそこそこ高いものはあったが、ここまで圧倒的に太くどっしりした物はなかった。
「あ、ちなみに旅行に言った時ってどこに泊まってたんだ?」
「そうですね……確か、この前はジュネーブの綺麗なホテルで休暇を過ごしましたわ。テラスから湖が一望できて素敵でしたわ
」
「……ジュネーブって、世界一高いホテルがあるんじゃ無かったっけ?」
「…………」
「…………入ろうか」
「…………ああ」
長の家に入る際に、何気なく聞いた質問の返答にスケールの違いを感じながらセイク達は木を改造した長の家へ足を踏み入れる。そこに居たのは、ローブを被った背の低い老人。
「ようこそ精霊の里に。私はオンニ、ここの長をしておる者です」
「こちらこそよろしくお願いします」
軽く挨拶を済ませ、今回精霊魔法を覚えに来たシェミルとフェニックスの二人は、オンニと話を始める。
「イベントフラグは立ったみたいだな」
「そうだな。また、何か有るかと思ったけどあっさりだったな」
「そうね、精霊は人間にあまり友好的じゃ無いって聞いたけど、オンニさんは良い人そうね」
(あれは人と言っていいのだろうか?)
セイク達はシェミルらが話してる間、近くでそんな話をして時間を潰す。事前に得た情報では、友好度が一定値以上ある状態で精霊と話せれば里に案内してもらえるようになり、里で長に会えば精霊魔法を覚えることができるらしい。
最初に精霊と話す為に必要な魔法言語の要求レベルは中々に高いものの、友好度判定は緩いので、そこまで行けば割りと楽にイベントは完了する筈だ。
「セイク、外で契約する精霊を探すみたいだから行きましょ」
「そうなのか、じゃあ行こうか皆」
「おし、もう少し頑張りますか」
オンニから契約用の呪文を教えてもらい、セイク達は里の外に契約精霊を探しに行こうとする。
「この辺り、夜には稀に魔族が出るとの噂がありますので、お気をつけて」
「ご親切にどうも。それよりも早くには帰りますので、ご安心下さい」
そんな忠告を受けて、セイク達はオンニの家を後にする。これで最低限のイベントは終わった。一度精霊言語を取得してしまえば、後はこの里に来る必要は無い。
夜は危険だとの忠告も受けているので、早々と切り上げようとセイク達は里を後にするのであった。
「精霊の里とは凄い所でしたわね」
「そうね、こんな良いポーション初めて見たわ」
「俺たちには店員の言葉すら理解出来なかったけどな」
契約する為の精霊を探し、森を歩きながらシェミルは先程の里で買ったMPポーションの小瓶を眺める。¨妖精印のMPポーション¨その効力は普通の店売りでは比較にならず、プレイヤーのハンドメイドでも勝てはしない程の性能を持っていた。かなり高額であり、セイク達では一つしか買えなかったが、それでも現時点では間違いなく最高のポーションだろう。
それ以外にも、精霊言語を持っていなければ店員と話すことすら出来ないという条件もある。それならば、この性能も納得がいく。
「そういえば妖精とは契約できないのか?」
ポーションの名前を聞いたケンが、ふとそんな疑問を口にした。妖精の名が付いたポーションがそんなに良い性能をしているのだ、その名の正体はよほど強力なのだろう。そんな予測から浮かんだ疑問なのだが、
「無理ね。妖精は精霊の上位版らしいけど、私達じゃレベルが足りないわ」
「ええ、実は先程妖精契約の呪文を拝見したのですが、全く理解ができませんでしたわ」
「そうかー。まっ、それじゃ仕方ないな。レベルを上げてからまた来よう」
そんな雑談をしながら探索を進めること数十分。一同はある光景を目にする。
「うわぁ……」
「なんだこれ……」
そこに有ったのは、地面は抉れ、辺りには切り傷のようなものが散乱し、極めつけには大木の一つが綺麗な断面を持って、半ばから切り倒されていた光景であった。
この跡だけで、今までのボス等とは比べ物にならないレベルの戦闘が行われていたことが容易に想像できる。
そんな光景を見たセイクは、「魔族……」と思わず口にしていた。
「魔族? 魔族ってさっきオンニが言っていた奴か。知ってるのかセイク」
「ああ。と言っても少しだけだけどな、β版の時のイベントで闘ったことがあるんだ」
「それで? どうなったの?」
「ボロ負けだよ。負けイベントだから、当たり前と言えば当たり前なんだけどな。その時は今と同じ位の装備だった筈だけど……」
セイクが思い出したのは、かつてのβ版に参加した時の事。とあるイベントで魔族と闘ったのだが、本の数回の打ち合いで武器は壊れ、こちらからの攻撃はほとんどダメージが通らない。その圧倒的なパワーとスピードによって作られた戦闘跡は、今セイク達の前にある光景と似ていた。
そして、そんな内容を聞いてリン達は戦慄を覚えた。今のパーティーの中で、最もバランスが取れいて、かつPSも上位のセイクが完敗となればパーティーで挑んでも敗北は免れないだろう。
一同が、魔族の存在に恐怖を抱いたが、この場所はそれだけではないらしい。
「ん? ここ、大分魔力が溜まってるわね。精霊も多いわ」
「そうですわね。この魔力に集まって来たのでしょうか」
どうやら、この戦闘跡に残された魔力を目当てに精霊が集まって来ていた。しかも、シェミルやフェニックスでも契約できそうな、球体の形をした低位精霊が。勿論二人はその場でその精霊と契約。これで、今回の目的を晴れて達成することができたので有った。
「さーて、精霊とやらも仲間にしたんだし早く帰ろうぜ」
「そうね、また夜にでもなったら大変だからね」
時間的にも、もう帰る頃合いだ。セイク達は早々にその場を後にしようとする。その時、ふとセイクは後ろを振り返り、倒れた大木を見て、
(仮にこの戦闘跡が魔族の者だとして、¨相手は誰なんだ?¨)
そんな疑問を浮かべた。まず真っ先に思い浮かぶのは、両方魔族という事。しかし、魔族というのは、個体個体が強力たが数は少ない。そんな存在が二体も現れるだろうか。
魔族というのは、力、魔法の両方に優れ妖精ですら一対一ではまず勝てる相手ではない。となれば、¨そんな相手にここまでの戦闘跡を残す程闘った相手とは、いったいどんな化物なのだろう¨
そんな考えが頭をよぎったが、
(まっ、考えたところで分かるわけないか。少なくとも知ってる奴ではないだろうし)
考えたところで答えは出ないと結論づけて、仲間の元にへと早足で向かうのであった。