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第六十二話 話題の男

 多くのモンスターの注意を一人で引き付けていたケンは、四方から迫るモンスターに大斧を振り回し対抗しながら、ちらりとセイクの方を見た。


(なっ!)


 そこで見たのは、キングオークが放った衝撃波によってセイクが吹き飛ばされている光景であった。


(あいつ、こっちを助けるために……)


 もしセイクが今の衝撃波を防いでくれなければ、確実にケン達の内誰かに当たる軌道だった。それを一瞬で判断し、セイクはケン達を守る為に動いたのだ。

 しかし、今キングオークはソロプレイでは行うことのなかった衝撃波の連発を行おうとしている。今から走ったところで間に合わない、そう判断したケンは、


『スローイング!!』


 タウントを発動しつつ、手元の大斧をアーツを使ってキングオークとセイクの間に割り込ませるように投げる。武器兼盾であった大斧を投げたせいで、モンスター達の攻撃をまともに受けることになってしまうが、ケンのVITならある程度耐えられる。

 それとほぼ同時にキングオークが衝撃波を放つ。地面を(えぐ)りながら進む衝撃波は、投げられた大斧によってセイクに当たる寸前で防がれた。


「リン!」

「分かってる!」


 ケンは、リンに合図を送るとリンは¨言われなくても¨といった様子でキングオークに向かっていく。そして、セイクと入れ替わるようにキングオークに肉薄する。


「光の癒しをかの者に、全体回復(ヒーラス)!」

「逆巻き、逆巻き、吹きすさべ! 暴風つむじ風 (エアロストライク)!」


 フェニックスがパーティー全体にへの回復魔法を使用して、詠唱を終えたシェミルは一気に呼びだされたモンスター達を倒す。


「くっ!」


 キングオークの攻撃を刀で受けたものの、それでもリンが数メートル後退りしてしまう。みると、HPゲージは回復してもらったのにも関わらずもう半分程にまで減っていた。このまま戦闘を続ければ、恐らくやられてしまうだろう。しかし、


「すまん! 助かった、皆!」

(まった)く、ヒヤヒヤさせてくれますわね!」

「まあ、その方がアンタらしいんだけどね」

「いいってことよ、それよりもさっさとアイツを倒すぜ」


 後退りした先にいた仲間がいれば話は別だ。


「リン、助かったよ。ありがとう、アイツを引き付けておいてくれて」

「別に、大したことじゃないわよ。それよりも、体が痛い何て言ってミスしたら許さないからね」


 HPポーションを一気に飲み干しながら、隣のセイクにリンはそう告げる。もう厄介な取り巻きは居ない。回りには信頼のおける仲間達。


「いくぞ、皆!」


 もう、セイク達は負ける気がしなかった。






「プ……ギャアァ……」


 

 セイクの放ったフォルクが、正面からキングオークの顔を叩き割りその(わず)かに残ったHPを削り切る。荒い息を整えようと、脱力するようにため息をつきながら後ろを振り向くと、リン達と目があった。

 皆、特に前衛は息が上がっていたが、それでも互いに目を合わせると達成感を噛み締めるように笑いあった。






「いやー、まさか本当に最速討伐できるなんてな」

「何言ってるんだよ、俺たちなら出来るって思ったから行ったんだろうが」

「まあ、そうなんだけどさ」


 キングオークを討伐した次の日。セイク達は第三の町のフィールドを町に向けて歩いていた。

 あの後、セイク達は第四の町に入ると直ぐに宿をとって寝てしまっていた。そして、案の定朝起きて掲示板を見てみると、最速討伐はセイク達のようで、その名が表示された石板周りやポータルで戻ってくると予想した野次馬や、あわよくばギルドに誘おう、素材を提供してもらおうなどの人々も集まり、各町のポータル周りはちょっとした騒ぎになっているらしい。

 ここに話題のセイク達がいきなり現れるのは、騒ぎを大きくしてしまい、それは面倒だという事で門から普通に帰ろうと今に至るわけだ。


「ねえ、セイク。これで、アイツに少しは追い付いたかな」


 ふと、そんな事を隣を歩いていたリンがセイクに訪ねてきた。


「そうね……今、何してるのかすら分からないものね」

「ま、アイツなら早々やられる何てことはないだろうよ」

「確かにそうですわね……彼の事は詳しく知りませんが、かなり強いということは分かります」


 セイク達の脳裏に浮かんだのは、セイクやリン、ケンの幼い頃からの友人で、シェミルやフェニックスも少なくとも関わりがあったが、このAWOでパーティーを共にすることは叶わず。しかし、そんな事を構わない程に強くなっていた男。


「っ、皆。誰か来る。数は一人だけど、念のため準備はしておいてくれ」


 男の顔を思い浮かべたのもつかの間、セイクがパーティーの進行を手で制する。セイクのスキル、気配察知が前方から迫る気配を探知したからだ。

 これが普通のプレイヤーなら問題はないのだが、もしもPK(プレイヤーキラー)ならそれ相応の対処をしなければならない。セイクとケンが最悪の事態に備えて前に出ると、目の前の草むらが大きく揺れて、その人物が現れる。

 その人物は、こんな場所にも関わらず特に武器を持った様子もない、黒髪黒目のパッと見何処にでも居そうな外見をしているが、セイク達にとって決して忘れられない相手。


「セ……セイク」

「セイク達か。久しぶりだな」


 そう、かつて第二のボスを単独で最速討伐した男、ライトがそこにいた。


「掲示板見たぜ、最速討伐おめでとう」


 今話題にしていた人物がいきなり出てきた事に、噂をすれば影がさすということわざがセイクの頭をよぎる。

 しかし、ライトは歩みを止める気は無いらしく、


「じゃあな、俺はこれからやることが有るんでね。先に行かせてもらうぜ」


 ライトは、振り返らずにフェニックスの後方からそう言って奥にへと向かって行ってしまった。



「ね、ねえセイク。あのお方、今、どうやって(わたくし)達の後ろに移動しましたの……?」

「見間違いでなければ、俺には瞬間移動でもしたみたいに見えたけどな……」


 そう、出会った最初はセイクとケンの正面にライトが居たのだ。だが、次の瞬間には、¨後衛であるフェニックスの後ろにいた¨。顔を見合わせても、パーティー内でライトの移動した瞬間を見た者は居ない。


(ライト、お前は本当にどうしちまったんだ)


 声にもならないそんな疑問を胸に、セイク達は町にへと向かうのであった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、メインイベントといきますか」


 キングオークを目の前にして、合計四人のライトに動揺も恐怖も見られない。なぜなら、これから始まるのは命がけの戦闘ではなくーーーーーただの作業だからだ。





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