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第六十一話 第三のボス

「みんな、準備はいいか」


 先行するセイクが足を止め、振り返りながらそう確認する。


「もちろん。準備万端よ」

「俺はいつでもいいぜ」

(わたくし)もですわ」

「私もHPもMP万全よ」


 後ろを着いていたリン達も同意の言葉を口にしながら、緊張が混じったような顔をしていた。

 彼らが立っているのは、二本の石柱の前。そう、ここは第三のフィールドのボス前である。

 あれから攻略を進め、着実に強くなっていていたセイク達。セイクが元βテスターと言うこともあり、攻略組でないのにも関わらずトップパーティー並の攻略速度を保っていたのである。

 また、今攻略組はつい一週間程前に起こったあるパーティーが一人を除いて死に戻りした事もあって、少々ざわついていた。そのため、今この第三のボスに最も早くたどり着いたのは攻略組でも、とあるソロプレイヤーでもなく、セイク達なのであった。

 

 セイク達が石柱を通ると、今まで通りにボス部屋にへと強制転移させられる。一、二面のボス部屋と変わったところはなく、正面にはキングオークと表示されたボスとその取り巻きのオークが四体。


『さあ、いくぜ!!』


 まずはケンがタウントを使ってボス達のヘイトを一気に集める。その間にフェニックスとシェミルの二人は詠唱に、セイクとリンは剣と刀を持ってオーク達にへと向かう。

 オークの初撃を大斧を盾代わりにしたケンが防ぎ、その隙に横からリンが責める。それにより、何匹かのオークがリンに向かおうとするが、


「サークルスラッシュ!」


 セイクが攻撃範囲の広いアーツで攻撃しつつ、ヘイトを自分に向けさせる。セイク達のパーティーは、メインの盾役として高いVITを持つケンが前に出てヘイトを集める。そしてその横を攻撃力の高い前衛であるリンが攻め、全体的なステータスが高くバランスのよいセイクがサポート兼アタッカーとなる。そうしてオーク達の体力を削って時間を稼ぎ、


「ファイヤーバレット!」

「ウインドスレイス!」


 詠唱を終えた後衛のシェミルとフェニックスが魔法を放つ。二人の放った魔法は、見事オーク達の群れに直撃し、キングオークの取り巻きは一気に体力を減らす。

 取り巻きを減らしたセイク達は、そのまま一気にキングオークに攻撃を仕掛ける。このまま押しきれるかと思ったが、


「プギィーーー!!!」


 いきなりキングオークが大きく叫ぶ。すると、一瞬の間を持って遠くからこちらに向かう足音が聞こえてくる。


「セイク! あいつ仲間を呼びやがったぞ!」

「分かってる! 皆はそっちの相手を頼む! ここで周りを囲まれるのは不味い」

「そっちを頼むって、セイクはどうするのよ!」


 セイクは、キングオークが仲間を呼んだのを見て、すぐに指示を飛ばす。ここで周りを囲まれ混線となるのは非常に不味い。後衛の二人を守らなくてはいけない範囲が増える上に、混線のゴタゴタでキングオークの攻撃をまともに食らうような事があれば、後衛の二人は一撃死もありうる。

 ならば、今とれる最善の策は、


「キングオークを足止めするさ。なに、少しくらいなら持たせられるさ、俺は元βテスターだぜ。……ほら、もう敵の増援が来るぞ!」

「ッ! 分かったわよ!」

「……死ぬんじゃないわよ」

「信じてますわよ」


 誰かがオークキングを足止めして、残りが増援を倒し、出来るだけ早く再度五対一の構図に持ち込むことだ。リン、シェミル、フェニックスの三人はそう短く告げると、新たな敵の方を向き、既にタウントを発動しながら突っ込んでいったケンの援護に回る。





(五人パーティー時のボス相手にソロでどこまで持たせられるか……いや、持たすしかないんだ。弱気な事考えてる暇はない!)

「アークチャージ!」


 セイクは自己強化のアーツを使い単身キングオークに向かって突っ込んでいく。キングオークが降り下ろす棍棒を弾くように受け流し、懐に入り腹を一薙ぎして離脱。

 幸いβテストの時から相手の行動パターンは変わっていないようで、落ち着けば時間を稼ぐのは十分できそうであった。かつてβテストの時は、基本ソロプレイだったセイクであったが、それでもその時のトッププレイヤーの一人であっただけあって、第三のボスまでは攻略済みである。

 このままならいける、しばらくキングオークを押さえつけながらそんな考えが頭に浮かんだその時。


「ブギィィィィ…………」

「ッ! 不味い! 確かあのモーションは……」


 キングオークが突如、棍棒を大きく降りかぶる。体が捻られる程全身の力を集約しているのが容易に見てとれるそれは、βテストでキングオーク最大の攻撃のモーションであった。独特の降りかぶりモーションから、一直線に飛んでいく衝撃波は並の前衛程度なら一撃で瀕死になってもおかしくはない程の威力を誇る。

 しかし、どんな圧倒的な威力を誇ろうともこんな見え見えの大きなモーションでは、普通当たりはしない。しかし、


(まさか! あっちをタゲとったのか!?)


 今キングオークが向いているのは、別れたシェミルやフェニックス達のいる方向であった。単純なダメージレースであちらのが勝っている上に、呼び出したモンスター達が一気に倒されていくのもあちらにヘイトが溜まった原因だろう。

 セイクは急いでキングオークに剣を叩きつける。βテストの時は、攻撃してのけぞらせればこの衝撃波攻撃をキャンセルできたのだ。しかし、


「なっ! スーパーアーマー!?」


 剣での攻撃がヒットしたのにも関わらず、キングオークはのけぞるどころか怯みもしない。帰ってくる感触が、キングオークにスーパーアーマーが付いていることを無情にも知らせてくる。

 ソロプレイだった頃はなかったこと、これもHP増加のように挑戦人数が増えた事によるボス強化の一員なのだろう。

 もう一刻の猶予もない。これをまともに食らえば後衛やVITの低いリンの三人は即死を免れないだろう。それを感じ取ったセイクは、HPポーションを砕き、自身の体に振りかけるとアークチャージを再度使用して、今にも棍棒を降り下ろそうとするキングオークの前にへと出る。


「プギャアァァァァ!!!」

「フォルク!」


 雄叫びと共に発車された衝撃波を前に、セイクは強化された攻撃アーツで迎え撃つ。拮抗したのはほんの一瞬。セイクはそのまま衝撃波に飲まれ吹き飛ばされ、地面に横たわる。


「がはっ……」


 ほんの少しでも拮抗したお陰でHPゲージは危険を示す黄色と赤の間で止まる。その事に少し安堵したのもつかの間。セイクが見たのは、


「な……に……」


 降り下ろした棍棒が、勢い余って再度キングオークの頭上より上に掲げられている光景であった。それだけなら良かった。βテストでも攻撃後の隙としてあったモーションなのだが。その時とは違い、その棍棒が衝撃波を出したときの光を保ったままだということだ。

 ¨連発¨その言葉が頭に浮かんだ時には、もうキングオークの棍棒は降り下ろされていた。



 

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