第六話 ライトVSリン
PVPが始まり、リンは木刀を正面に構えてライトを見据える。ライトの方は、
「……集中」
そう小さく呟くと、半身の姿勢で、ウッドナイフを持った左手をだらりと下げたまま、リンの様子を伺っていた。
両者とも、しばらく相手を見据えたまま、膠着状態が続いていたが、
「セイッ!」
先に動いたのはリンだった。リンは、木刀を構えてライトへ向けて突撃する。リンの振るった木刀は、ライトの顔めがけて振るわれたが、ライトはそれをウッドナイフで上へと受け流す。
「まず一撃」
木刀が上へと流されたことで、胴体の防御が甘くなったリンに、ライトはナイフでの一撃を加える。ウッドナイフは攻撃力が低いこともあり、クリーンヒットに近い今の一撃でも、リンのHPは一割削れたかといったところだ。
そのため、攻撃力に勝るリンは、怯まずに攻撃を続ける。仮にリンが一撃貰って、ライトに一撃を食らわせられれば、先に倒れるのはライトの方である。
さらに、今はカウンター気味の一撃を食らってしまったが、ライトのナイフとリンの木刀では、リーチの差は大きい。なので、リンはそのリーチ差を生かして、ナイフの射程外から木刀を振るう。しかし、それでもこのライトは止まらない。
次々と繰り出される木刀の剣撃を、時には受け流し、時には避けながら距離を詰めて、確実にリンのHPを削っていく。
そして、またもライトがリンの木刀を受け流して、体制を崩させる。ライトがナイフを構え、木刀が受け流されてしまったリンには、防御する手段がない。そして、リンへとナイフが迫ろうとした瞬間。
「スラッシュ」
「!?」
リンがそう呟くと同時に、木刀の斬撃がライトの手へと迫る。普通なら間に合わないタイミングであったが、今リンが使ったのは、剣の基本アーツである『スラッシュ』。これは、威力と速さが通常より上がった斬撃を繰り出す。というシンプルなものだが、その斬撃の速さのお陰で、リンはライトの不意を打つことに成功する。
ライトもその斬撃を避けようとしたが、HPは削られないまでも、ナイフを弾き飛ばされてしまう。
「形勢逆転ね」
そう、リンは勝ち誇った顔で、木刀をライトに突きつける。AWOでは、スキルを持っていない方法で攻撃をしても、ダメージを与えられないというシステムがある。例えば、剣スキルしか攻撃スキルを持っていないプレイヤーが、斧で攻撃を仕掛けても、ダメージは与えられない。
これは、殴る蹴るなどの行動にも当てはまる。つまり、ライトのスキル構成によっては、リンにダメージを与える手段が消えるということだ。だから、リンはライトにこんなにも勝ち誇った顔をしていられるのだ。
しかし、
「……なんの事だ」
「! まだ、攻撃スキルを持っていたの……っ!」
止めを指そうと、リンがライトに近づいたその時。ライトは、素早く回し蹴りを繰り出す。リンは辛うじて、木刀を盾変わりにしてそれを防ぐ。新たな攻撃手段に警戒したのか、リンは一度距離を取ろうとする。が、
「おいおい、さっきまでの威勢はどうした? そんな後ろに下がって」
「ッ!」
ライトはそれよりも速くリンとの距離を詰める。AGIの差もあって、リンはその接近を許してしまう。木刀では、近距離での取り回しは足技に劣る。ライトの前蹴りの連打に、リンは木刀を盾にして受ける事しかできなかった。
そして、ついに蹴りが深々とリンの腹部へと突き刺さった。リンは、後ろへと吹き飛び、膝を着く。HPゲージを見れば、最初は緑色であったのが今は危険域を指す赤色をし、あと一撃でも食らえばやられる。それほどまでにリンは追い詰められていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「そろそろ仕舞いにするか」
肩で息をしながらも、闘志は衰えず木刀を正面に構えるリンに、ライトはゆっくりと近づいていく。
ライトが、最後の一撃を加えようと、ゆっくりとした歩みから一転。思い切り地面を蹴ってリンの懐へと入る。そして、胴体への回し蹴りを見舞おうとしたその時、
「ステップ」
「!」
リンがそう呟くと、足が自動的に素早くリンの体を後ろへと移動させる。スキル走りの基本移動アーツ『ステップ』で、ライトの攻撃を空振りさせたリンは、
「スラッシュ!」
立て続けにアーツを使用する。ライトは、蹴りを空振りさせられたせいで、蹴りを放つまでには、体制を建て直しきれない。
リンの木刀は、急所扱いである首へ向かって、ライトに迫る。その、決まれば闘いの流れを返しかねない一撃は、
「……かはっ」
「惜しかったな」
リンの腹部にめり込んだ、ライトの拳によって中断させられた。ライトの拳が当たったと同時に、リンのHPは一となってしまう。リンが、前のめりにゆっくりと倒れ、PVPはライトの勝利として幕を閉じた。