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第五十八話 暗闇

「……仕方ないの」


 ライトが口寄せしたリースを見て、驚愕から沈黙していた老NPCは、ため息混じりにそう言うとその場でしゃがみ地面に手を着く。

 ガチリ。と、スイッチのような音を建てて手の形に地面が沈んだ。すると、一度多数の歯車が動くような音がしたと思えば、老NPCのすぐ前の地面にが四角く(めく)れた。


「着いてこい」


 そう一言だけ告げると、老NPCはその(めく)れ、出来た穴に入っていく。

 ライトとリースは、顔を見合わせると、


「まさか本当に出来るとは」

「まあ、頑張ってみなよ。多分、君なら出来るだろう」

 

 そんな会話をしながら老NPCの後を追う。穴の中はややきつめの傾斜洞窟になっており、老NPCはその中をどんどん下っていく。

 そうしてしばらく下り、体感では少なくとも四分の三は降りたと思った頃。


「着いたぞ」 


 ようやく平坦な場所に出た。そこは明かりは殆ど無かったが、老NPCが何やら印を結ぶと壁のかがり火が(とも)る。

 やっとまともな光源を得たお陰で、ようやく二人は今居る場所を視認できた。


「おー、大きーい」


 そこに有ったのは、高さだけだも十メートルはゆうに越える古びた門であった。二人がその大きさに思わず見上げていると、¨少し待っとれ¨と言い残して老NPCはどこかに言ってしまった。


(…………ん? なんだこれ、¨濃度和精神之間¨?)


 暇をもて余したライトが、先程習得したスキル等を確認していると、ふと視界端ににそんな言葉が目に入った。

 門に書かれていた恐らくは中国語だと思われるその言葉。勿論(もちろん)ライトは中国語などまず読めない。しかし、


(精神と集中の間。か、一体何をさせられるのやら)


 ¨完全翻訳¨のスキルを持つライトにとってどんな言語なのかは問題ではない。意味を持つ言葉や文字ということが重要なのだ。

 他にも何か書いてないか探そうとしたが、木が(きし)む音を建てて門が開いてしまった。


「待たせたの」


 そして、その門の先には先程どこかへ行ってしまった老NPCの姿があった。


「それで? 俺は何をすれば良いんだ」


 二人が門を潜ると、門がひとりでに閉まる。かがり火が無くなりもう二メートル先も怪しい暗闇の中で、ライトはそう尋ねた。

 

「なーに、簡単じゃよ。この先にある巻物をとってくるだけじゃ」


 どんな難題を吹っ掛けられるのかと身構えたが、老NPCの口から出たのはそんな課題だった。


「ただし、この道を通って……の」


 しかし、老NPCが指し示したのは暗闇。暗視を使って目を凝らすと、辛うじて平均台よりもやや細い一本の道が見えた。


(やっぱり、そう甘くないか)


 ははは、と乾いた笑いがこぼれたライト。常人ならもう諦めているだろうが、


「そんじゃ、行ってくる」

「頑張れ、ライト」


 ライトは振り返らずに手を降ってリースからのエールに答えると、手をポケットに入れたままなんの躊躇もなくその細い足場にへと入っていった。








「なるほど、こういう仕組みか」


 ライトが歩き初めて百メートル程。たったそれだけにも関わらず、もうリースと老NPCの姿は見えない。それどころか、周りを見渡しても辺りは黒一色。最初は二メートル先程度は見えたものの、今は辛うじて一歩先の地面が見えるといった程度だ。他の五感に頼っても、ほんの(かす)かな水音が聞こえるだけ。

 暗視のスキルと集中(コンストレイション)を使ってこれだ。足場の両脇は、底なんてものが存在するかも怪しい程の奈落。足場は平均台よりも細い。普通なら百メートルどころか十メートルでも落ちそうなものだが、


(ま、今のところ問題はないな)


 ライトには関係ない。まるで普通の地面のように難なく歩を進めていく。

 普通、人は暗闇の中を真っ直ぐ歩かせると、真っ直ぐのつもりでも少しづつ曲がってしまうものだ。これは、体が勝手に曲がっていると勘違いして修正しようとした結果である。

 だが、自身操作はその勘違いを即座に修正する。三半規管すら掌握するライトにとって、ただ真っ直ぐ進むなど容易なことである。


 そうして進むこと二十分。ライトの耳にはっきりとした水音が聞こえるようになった頃。


(おっ、着いた。一キロ弱くらい歩いたかな)


 ようやく細い足場から解放された。一度、安堵(あんど)という油断を誘ったのかもしれないと、投げナイフを適当に投げる。ナイフは、先の地面に音を建てて落ちる。これでとりあえずはしっかりとした足場に着いたと言えるだろう。


(確か巻物を探すんだったな)


 辺りを見渡してながら、老NPCの言っていた巻物を探すライト。どうやらここは、普通の夜より少し暗い程度の暗さであり、暗視も効力を発揮しだす。それでもこの広さだ。もうしばらく時間がかかると思ったが、


(おっ、分かりやすい。ここは親切設計なんだな)


 以外と早くそれは見つかった。ほんの僅かに発光している所を見つけ、小さな祭壇のようになっているそこに巻物が置いてあったのだ。

 これで試練達成と、安堵(あんど)の心地と共に巻物に手を伸ばしたその瞬間。


「ッ! ハイステップ!」


 突如目の前から水飛沫(みずしぶき)を撒き散らしながら、高速で(むち)のような何かが迫ってきた。ステップでは間に合わないと判断したライトは、ハイステップを使って後ろに下がる。が、


(クソ、少しかすってたか)


 ほんの少し触れていたようで、即死回避のガラスの割れるようなエフェクトが発生する。

 しかも、巻物はその鞭のようなものに絡めとられてしまった。ライトは、視界確保の為に道具屋で買った油とマッチに火を着けて投げる。これで相手が怯むのなら、巻物を直ぐに奪い返して高速で戻ろうとの魂胆だったが。


「…………どうやら、まだまだ簡単には終わらしちゃくれないみたいだな」


 現れたのは、水のカーテンを突き破ってあの鞭のようなものが数十本は出てきているところであった。

 いや、正確には数十の触手を持つ一匹の化け物がその多数の鞭の正体であった。

 そして、その触手の化け物は巻物を自身の中心に近づけると、それを補食する。そして、まるでライトを小馬鹿にして笑うかのように体を揺する。

 

 全長だけでもあの十メートルはあった門と同等かそれ以上の大きさの化け物。そんなものを相手にして、


「ハッ、いいぜ。その腹かっさばいて巻物取り出してやんよ!!」


 そう大きく叫び、戦闘体勢をとるのであった。

 



 


 






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