第五十七話 習得、そしてその先へ
(ふむ、彼処まで行くルートは二つってとこか)
竹の足場を走りながらライトは辺りを見回し、
そう結論づける。老NPCが向かった場所へは、竹の上を行くのは変わりないのだが、差異のある二つのルートをライトは発見していた。
一つは遠回りになるものの、比較的竹の大きさも大きく、間隔も狭い。慎重に行けば、何とかなりそうというのがライトの感想であった。
二つ目のルートは、目的地まで最短距離を行くルート。しかし、こちらのルートは竹の大きさも小さく、間隔も広い。さらに足場かと思えば、先の尖った竹槍がダミーで紛れていることも多々ある。
(集中がなかったら無理だったかな)
ライトが通っているのは、二つ目の険しいルートである。そして、これが不安定な足場にも関わらずライトが走る理由でもある。
今ライトが走っているのは、単に早く目的地に行く為だけではない。それよりももっと単純な理由である。
このルートでは足場となる竹同士の間隔が広い。それは、目的地に近づくにつれ顕著となっている。そう、もう既に足場の間隔が走らないと届かない程に広がっているのだ。
この、一度止まってしまえば、次の足場に届かないという状況の中、ライトは集中により引き伸ばされた体感時間を使ってルートを吟味。そして、自身操作により強化された体捌きでしっかりと足場を踏み、また駆け出す。
そんな、一歩間違えば一貫の終わりなアスレチックを四百メートルも進めば、目的地が見えてくる。
(居た!)
視界の先に捉えた老NPCに向かって、ライトは更に足に力を込める。このまま行けば、無事にたどり着く。そう思ったが、
(なっ!?)
視界の先に広がって居たのは滝。それも竹の足場と老NPCが立つ場所を分断するように、二十メートルはあろうかという崖が広がっていた。
(もう、止まる訳にはいかない! このまま突っ切る!)
「ステップ…………ハイステップ!」
その崖を飛び越えようと、ライトはステップを発動。さらにハイステップにチェインすることで最高速へ、その勢いで一気に崖を飛び越える。
しかし、あとほんの数メートルが足りない。このままでは崖下に叩きつけられ、即死は免れない。
「とど……けぇ!」
最後に、ライトは銅のナイフを取り出すと、ありったけのMPを込めてロングエッジを発動。凄まじい速度で伸びた刃は、滝の勢いも無視して崖にへと突き刺さる。そして、ライトは素早くナイフの上に立ち、崖を飛び越す。
「着いたぞ、爺さん」
「こりゃ……驚いた。お主、この道の方を通ってきたのか?」
楽な道の方を見ていた老NPCは、横の崖から現れたライトを見て、驚きから目を丸くする。
「これは……参ったのう。まさかこっちを通ってくるとは、これでは配置した魔物達が無駄になってしまったわい」
「魔物?」
老NPCのぼやきを聞き、ライトは楽な方の道。先程まで老NPCが見ていた方向に目をこらす。すると、遠いせいではっきりとは見えないまでも、いくらかの羽を持つモンスターの影を確認できた。
(あっち通ってたらあれと闘う羽目になってたのか)
「本当ならもっと時間がかかるものなんじゃがな。まあいいじゃろ、合格じゃよ」
「ん? もう合格なのか」
「……だから本当ならもっと時間がかかるものなんじゃて」
開始から約三十分弱で合格を言い渡されてしまい、ライトは拍子抜けしてしまう。が、そんなライトをよそに、老NPCは懐から巻物を取り出すと、ライトに手渡す。
「ほれ、これを読めば今回教えたかった忍術を習得できる筈じゃ」
「ほー、そりゃ便利なこった」
ライトが渡された巻物をさっそく開き、軽く流し読みすると【新アーツ、新規スキルを追加しました】といったメッセージが流れる。
これで、忍術を習得するという当初の目的を果たしたものの、午前中一杯はかかると思っていたライトは、急に手持ちぶさたとなってしまう。そこで、
「ちょっと待ってくれよ、爺さん」
「なんじゃ? もう試練は終わったぞい」
「いや、こんな所まで来て、このまま帰るのも勿体無いし、もう少し先の術でも教えて欲しい。と思ったんでね」
そう冗談混じりにライトが話すと、
「カッカッカッ、生意気言うな小僧。それなら、人形の魔物でも口寄せ出来たら教えてやってもよいぞ」
「人形の魔物?」
「口寄せの術で呼び出す魔物は、普通はただの魔物じゃ。しかし、人形に成れる程の強さを持った魔物を口寄せ出来るなら、それはもうかなりの腕前ということじゃよ」
「ふむ、そういう事か」
老NPCは¨人形魔物の口寄せに成功せよ¨と条件を出す。どうやら、人形に成れる魔物というのは、かなりの高レベルのモンスターらしく、それを支配下に置けるのなら腕前の証明になる。ということらしい。
ライトも少し忍術の事を調べたことがあり、情報はほぼ無いものの、瀕死にしたモンスター等に対して口寄せ契約の術というスキルを打つと、稀に口寄せ可能なモンスターになるらしい。
そして、そんな普通のモンスターですら稀にしか口寄せ可能にはできないのだ。人形になれるモンスターを口寄せするには、最低でも人形のモンスターがいるフィールドまで攻略を進め、それを倒せなければならない。確かに、それなら十分な強さの証明になるだろう。
そんな条件を出されたライトは、少しだけそんな事を考えた後、にやりと少しだけ笑うと、右手を地面に着け、
「その人形をとれるものを口寄せってのは……これでいいのかい」
そう言って口寄せを発動。一瞬の光と共に現れたのは、
「全く、ようやく再使用時間が終わったと思ったら、いきなり呼び出すとわね」
「スマン、リース。お詫びにどこか連れてくからここは勘弁したくれ」
「まっ、良いけどね。だって君は私の口寄せ対象だしね」
そんな事を言いながらリースが現れる。ライトは、リースの言葉にぐうの音も出ないようだが、
「…………へっ?」
その光景を目の当たりにして、今日一番の驚き顔とすっとんきょうな声を上げる老NPCであった。