第五十六話 修行
第二の町の広場に転移したライトは、早速老NPCに会うために移動を開始する。
町の大通りを通り、林が広がる道をさらに進む。道中のモンスター達は、倒してもあまり旨みが無いので無視して進んでいると、周りの林が竹林にへと変わって行く。
(そろそろだったな)
以前言った時の記憶を頼りに道を進んでいくと、不意にライトの右斜め頭上の竹が大きく揺れ、
「……取った」
いきなり黒装束の少女が忍刀を手に襲いかかってきた。今から武器をとっても間に合わないと判断したライトは、
「簓木」
そう呟く。すると、ライトの両腕が剛拳などとは異なる淡い光を放つ。そして、集中の発動により緩やかになった体感時間の中で、ライトは襲撃者の忍刀と肩を掴む。
普通なら素手で獲物をつかめばダメージを負う。VITのステータスが低いライトにとって、それはあまり好ましくはない筈なのだが、
「!?」
「ふう、一丁あがり」
実際にはダメージを負うこともなく、襲撃者はその場で襲撃の威力をそのままに地面へ投げられてしまう。念のため忍刀を遠くに投げ捨て、仰向けに叩きつけた襲撃者の顔を改めて確認しようとすると。
「あれ? お前は昨日の」
「……せっかく覚えた技を出す前に潰すのはずるい」
その襲撃者の正体は、先日ライトが返り討ちにした少女であった。ライトは追撃を警戒し、少女の拘束は解かずに話しかける。
「なんでまた襲って来たんだ」
「実は……」
少女の話を要約すると、彼女の職業はライトと同じ忍者であるらしい。彼女もあの老NPCに呼ばれており、その帰りにライトを見かけ新しい力を試そうと襲いかかってきた、というわけらしい。
「ホントに見逃すのは今回で最後だぞ。俺はこれからあの老NPCに会わなくちゃいけないんでね」
「……うん、頑張って」
少女に敵意が無いことを確認すると、ライトは押さえつけていた手を離す。ライトは、忍刀を回収しに行った少女を見送り先を急ぐ。
少女に襲われた場所から、五分も歩くとこじんまりとした茅葺き屋根の小屋が姿を現す。ライトがその小屋の前に立つと、
「おお、来たか。待っておったぞ」
そう言いながらあの老NPCがライトを出迎える。前も案内された和室に通されたライトは、老NPCと囲炉裏を挟んで対面に座る。
「それで、どんな忍術を教えてくれるんだ」
「おお、そうじゃったな。どれ、ちょいとこっちに来とくれ」
老NPCに案内され、一度外に出る。ただ、入ってきた玄関からではなく、今度は裏口から外に出る。すると、そこには切られた竹が無数に配置された足場や、滝行用の滝等の施設が日本庭園風に配置されていた。
「こいつは……」
「ワシ特製の特訓場じゃよ。ほれ、行ってこい」
「なっ!」
今、ライトは竹の足場を見下ろすような場所に立っていた。そんな所で後ろから押されれば、そこにへの落下は免れない。
ライトは、何とか空中で体制を立て直すと二本の竹の上に着地する。
(ご丁寧に下は竹槍だらけかよ。俺のVITなら即死だろうな)
「あの滝の上で待っとるからなー」
ライトが足場の下を覗き混んでいると、上から老NPCがそう告げる。もう一度ライトが上を見上げると、既に老NPCの姿は見えなくなっていた。
「さーて、とっととクリアしますかね」
ライトは薄く笑うと、集中を発動。そして、足に力を込めて不安定な足場にも関わらず飛び出していった。